ガルダニズム

三隈 令

プロローグ

立入禁止区域

「ねぇお兄ちゃん。やめようよー。お父さんに怒られるの、なっちゃん嫌だよ」


「大丈夫だって。ちょっと探検するだけだから」


 そう言うと加山聡太かやまそうたは『keep out』と書かれたテープの下を潜った。


「嫌なら夏海なつみだけ帰りな? 家までの道は分かるだろ?」


「嫌だー、お兄ちゃんと居るの!」


 不貞腐れながらも夏海はぴったりと後ろ手についてくる。ぷくっと膨らませた頬がなんとも愛らしい。


 幾重にも張り巡らされたテープ群を抜けると、巨大な鉄格子が前方に現れた。


 聡太は迷うことなく向かって右側へ進むと、鉄格子の下にある窪みに上半身を突っ込んだ。するりと難なく鉄格子を突破した聡太が、夏海に早く来るよう急かした。


「お洋服、汚れちゃう」と夏海。


「兄ちゃんが支えてやるから、早く来いよ」


 夏海は「うん」と言って渋々しぶしぶ頷いてはみたが、やはり躊躇ためらわれた。


「なんだよー。来ないなら兄ちゃん先に行ってるからなー!」


 とたとたと聡太が走り去る音が次第に遠のいていった。


――それが兄と交わした最後のやり取りだった。

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