西の都
ああ、またあの夢だ。
ふわりふわりと舞う色とりどりの光、優雅にほほ笑むそのひとは女性かと思うほど美しく、シルヴァはただうっとりと見惚れた。
きっと、神様だ。こんなに美しいひとが、人間なはずがない。信心深いシルヴァは膝を折り、手を合わせて瞳を閉じた。
神様に優しく頬を撫でられ、その温もりについ胸が高鳴る。おずおずと顔を上げると、神様はまっすぐに東を指さしていた。
「東……ウェーザーに行けばいいの?」
何があるのだろう。うなずく神様の長い髪と美しい瞳は、ウェーザー人の特徴に似ている。もしや、お会いすることができるのだろうか。
シルヴァは目を覚ますなり、親方と仲間たちに夢で見たお告げのことを話した。
「ね、親方。だからさ、ウェーザーに行こうよ!」
「ふむ」
たしかにもうすぐ花祭りの季節、浮かれた人々の財布が緩む頃。悪くない。
「よし、そうと決まればさっそく準備だ。おい、誰か通行証の手配を」
「私に任せて。懇意にしてる役人がいるの」
魅惑的な身体の踊り子が、自信ありげに紅を引く。
「ね、ウェーザーってどんなところ?」
幼いシルヴァは大きな瞳を輝かせた。
「いい国よ。みんな陽気で、気前がよくて」
「男前がたくさんいるの」
「じゃあ、私もお客さんをとって、稼げるかな?」
シルヴァが腰をくねらせて踊り子の真似をすると、美妓たちはころころと笑った。
「そういうことは、ちゃんと胸が膨らんでから言いなさい」
「あんたはまだ子供なんだから、そんなことしなくていいの」
むっとくちびるを尖らせるシルヴァの頭を撫で、もっと大人になってからねと彼女たちは目を細めて言い聞かせた。
支度を整えた旅の一座は、新しい稼ぎ場所に期待しながら国境を越える。ほんの数日前のことである。
* * *
ゆらりゆらりと揺れながら規則正しい鼓動を聞いていると、まるで母の胎内にいるように心が安らぐ。甘い香り、目の前に広がるのは金色の海原さながらに、朝日を浴びた若い麦がさざ波のようにきらめく。
「起きたのか?」
じっと覗き込むのは、神を思わせるほど美しい男。
そうか、これはまだ夢の続きだと、シルヴァは再び瞳を閉じた。
耳元でくすりと笑う声、大きな手が優しく髪を撫でてくれる。なんと心地良いのだろう。
「……」
しかし次第に意識は覚醒していく。ゆらゆら揺れるのは小舟ではなく、そうだ、ふもとの街へ急ぐために馬を走らせているのだ。
シルヴァは顔を上げ、そして思わず仰け反り落馬しそうになった。美しい男はあわてて抱き留める。
「どうした、寝ぼけたのか?」
「や、あの……うん」
美しさを自覚しない男とはなんと罪深いのだろう。輝く金髪、強い意志を宿した金瞳、日の光の下では眩しくて、とても直視できない。日よけのふりをして、外套のフードを目深にかぶりなおした。
「もうすぐつくぞ」
シルヴァの乙女心など知る由もなく、カインは馬を止めて前方を指す。いつの間に現れたのか、巨大な城壁が二人を歓迎していた。
漆喰の壁に金銀で描かれた十二の精霊たち、季節の花がふんだんにあしらわれ、全ての旅人を祝福しているようにも見える。
まだ開門まで時間があるらしく、荷馬車を停めた商人はゆっくりとたばこを呑み、それを蝋人形のように姿勢の良い門番がじっと見守っていた。いつもと変わらぬ穏やかな朝の光景。
しかしカインは道を逸れ、木陰に馬をつないで懐を探った。
「どうしたの?」
「髪を切る」
「え? あっ!」
シルヴァが止める間も無く、長い髪を無造作に掴んで短剣で切り落とす。足元にちらばった髪をひとまとめにし、指を鳴らすと一瞬にして燃えてしまった。
「ああ、きれいだったのに……」
残念がるシルヴァをよそに、カインは小瓶に入った泥のようなものを短くなった髪にすり込んだ。髪色が変わり、ウェーザー人らしい赤茶色になる。
あの、森の中で見つけた精悍な剣士の姿に、シルヴァはほっと頬を染めた。
「長い髪の方がすてきだけど、短いのもいいかも」
「日が変われば、元に戻るがね」
「あ、そうだった」
まるで魔法のように変化するのを、昨夜目の当たりにしたところだ。
「精霊との契約でね、日付が変わるたびに契約した時の姿に戻るんだ。髪だけじゃない。怪我も病気も、一晩で治ってしまうよ」
まったく化け物じみていると、カインは自嘲気味に肩をすくめた。
長剣を布袋に隠し、シルヴァを馬に乗せると、自身はその馬を引いて開門を待つ列に並ぶ。これでは身分がとシルヴァは恐縮するが、変装なのだからいいとカインは笑った。
「旅芸人か。通行証はあるかね?」
カインに気付かぬ門番が二人を止める。
「仲間が先に入ってるんだ。まいったね、ないと入れないか?」
「もうすぐ花祭りだからな。いつもより厳しいんだ」
ふむ、とカインは考える。隙をついて突破するのは簡単だが、なるべくなら目立つ行動は避けたい。誰にも迷惑をかけるつもりはないのだ。
どうしたものかと思案していると、シルヴァがひらりと馬から降りた。
「ねえ、おじさん」
甘い声で呼び、おもむろに外套を脱ぎ捨てる。少女のみずみずしい肌が朝日に晒され、門番は思わず生唾を飲み込んだ。
「その花祭りで、私の踊りを見てもらいたいんだけど」
ひらひらとベールを振ると、甘い香りが周囲に広がる。シルヴァはその美しい碧眼を潤ませて、じっと門番の瞳を見つめた。
「ねえ、街に入れてよ」
「……」
門番は頬を染め、言葉もなくうなずく。彼だけではない、順番を待つ商人も旅人も、さらにはカインまでもが恍惚とした表情でシルヴァを見つめていた。
「入れてくれるって」
シルヴァがにっこり笑うと、カインはあわてて我に返り、わざとらしく咳払いして城門をくぐった。
「……何をしたんだ」
「あは。ベールにね、恋の媚薬を染みこませてるの。よく効くでしょ?」
もう一度きちんと着込んだ外套からベールの端を出し、ひらひらと振った。途端に甘い香りが広がり、頭の奥がしびれて何も考えられなくなる。
「……」
カインは言いかけた言葉を飲み込み、一度大きく深呼吸して気持ちを鎮めてから街道を進んだ。
早朝だというのに連なる露店は威勢のいい呼び込みで賑わい、ところ狭しと並べられた新鮮な果実や煮込み肉、焼きたてのパンや菓子に食欲がそそられる。
シルヴァは目を輝かせて一軒一軒覗いては店主と何か話し、笑い、売り物をわけてもらってはまた嬉しそうに笑う。無邪気に、心の底から、幸福そうに。
彼女に惹かれるのは、決して媚薬のせいではない。カインは眩しそうに目を細めた。
「あは、いっぱいもらっちゃった。カイン様も食べる?」
「いや、俺はいい」
「まだ、具合が悪いの?」
笑顔が曇り、心配そうにじっとカインの瞳を覗きこむ。これはいけないと、カインは付け加えた。
「俺は軍人だからね、あまり食わなくていいように訓練を受けているんだ」
「そっか……」
シルヴァは残念そうにつぶやき、パンをひと欠片だけかじった。
中央の大通りに差しかかるといよいよ街は美しく、緑豊かな並木からこぼれる日差しが古い建物を今なお輝かせている。五百年以上続く王国が色褪せることなく、道行く人々がみな満ち足りた表情なのは、まさに精霊の加護によるものか。
「王都でもないのに立派な建物がいっぱい! ひとも多いし、いろんな物があるし、ウェーザーってやっぱりすごいね」
はしゃぐシルヴァを、カインは少しだけ悲しそうに笑って見つめた。
「おや、こんな朝早くに珍しいお客様が」
玄関先を掃除していた初老の男が手を止め、ずり落ちた眼鏡を直す。清潔なブラウスにきちんとタイを結び、しわ一つないズボンによく磨かれた靴。身なりは良いのだが、はち切れんばかりに太った腹のせいでどこか滑稽だ。
男は愛想のいい笑みを浮かべ、カインに話しかけてきた。
「今日は、どうなさいましたか」
シルヴァはそっとカインのシャツを引っ張った。
「ね、変装、ばれてるよ?」
「顔馴染みだよ。ローラン、彼女の身支度を整えてくれ」
ローランと呼ばれた男は眼鏡の位置を合わせながら、カインの背に隠れて会釈する少女をよくよく観察した。
大きさの合わない外套はカインのものか、王家の紋章の入った留め具が付いている。埋もれるようにすっぽりと包まれているのは小柄な少女、年の頃は十四か五。そして……
「ま、まさか、この方は……!」
艶やかな黒髪に輝く碧眼。まさに、黄金の王が探し求めた運命の乙女!
しかしカインは、言うなと目配せする。
「昨夜、アリーセで俺を追っていたやつにまじないをかけられてね。カノンならどうにかできると思って連れてきた。ああ、すぐに発つから、軽装でかまわんよ」
「は、はあ……」
ローランは戸惑いながら、店に招き入れた。
「私はタルコット・ローラン。しがない雑貨屋の店主でございます」
「あ、えっと、シルヴァです。その……」
ぐるりと店内を見回し、シルヴァは息を呑んだ。
よく手入れされた古い調度は店の格式の高さをうかがわせ、扱う商品は見るからに高級品。市民権も財もない旅芸人が入れるような店ではない。
「どうした? 動きやすい服を選んでおいで」
「でも、私……」
察したローランは、そっと耳打ちした。
「お代なら心配ご無用。この店の品を全て持っていかれましても、まだたりないくらいお預かりしていますから」
シルヴァはますます困った。
「だって、それって税金でしょ? 無駄遣いしちゃだめだよ」
「税金? ああ、王族の年金なんか、とっくに放棄しているよ。適当に人助けをしているうちに、謝礼だなんだと集まった金だ。俺が持っていても、使うことはないからね」
それならと納得して、シルヴァはあれこれ鏡の前であててみる。やはり年頃の娘、買い物は楽しいらしい。華やかなサテンのブラウス、花模様の刺繍のスカート、手触りのよい毛織物、さて、いったいどんな服を好むのか。
カインは併設された茶席につき、愛しそうに見つめた。
窓から差し込む光が瞳の奥を刺激する。わずらわしそうに金瞳を細め、賑わう街並みを見遣った。平和で、豊かで、陽気な人々、だがその陰には……
薄暗い路地裏では職を失くした青年が肩を落とし、税を払えない老人がため息をつき、親を亡くした子供が泣いている。
父王が領土を広げ、弟王が富ませたあの頃が、おそらくウェーザーの絶頂期だったのだろう。少しずつ、少しずつ衰退していく様を、カインはただ一人見続けていた。
「ほら、あっちへお行き! もう店が開く時間なんだ」
「お願い……なんでもいいから……」
勝手口で女中がはたきを片手に、さも迷惑そうに物乞いの少年を追い払う。
全ての人々を幸せにするために生き続けるなどと大仰なことを言い、いったいどれだけのひとを救えただろう。己の無力さにうんざりする。
「お願い……もう妹は泣く元気もなくて……」
それでもこの目に映る者、この手の届く者は救いたいと思う。
カインは立ち上がり、棚からパンの包みを掴んで女中に渡した。女中は困惑し、物乞いの少年は汚れた顔を輝かせる。
「だめだよ、カイン様」
着替えを済ませたシルヴァが駆け寄り、パンの包みを奪って棚に戻した。
「それじゃこの子は、いつまでたってもパンを得る方法を知らないままでしょ」
「……誰だ?」
「あ、そういうこと言う」
むっと頬を膨らませたシルヴァはすっかり化粧を落とし、髪飾りを外した黒髪は少年のように短い。さらには男物のシャツに丈の短いズボンを履いているため、あの可憐な踊り子と同じ人物だとはとても思えなかった。
「私、本当は薬師だもん。昨夜は姐さんたちが呑みすぎて動けなかったから、仕方なく踊ってただけだもん」
「……そうか」
女の化粧の威力を知ったカインは、いろいろな言葉を飲み込みため息をついた。
「ぼうや、おいで。パンがほしいならこうするんだ。カイン様、ちょっとここに座って」
シルヴァは茶席の椅子を引き寄せカインを座らせる。そして先ほどまで身にまとっていたベールを二つに裂き、一つを少年に渡し、一つを自分が握ってカインの足元に跪いた。
「うわ、汚いなあ……」
随分と履きこんだブーツは泥と傷で見る影も無い。靴底はすり減り、所々糸がほつれている。
「おしゃれは足元からだよ、カイン様。せっかく美人なのに、これじゃ台無しだよ」
そう言いながらシルヴァは自分の膝にカインの足を乗せた。
「お、おい……?」
少年もそれに倣ったため、カインは後ろに転がりそうになる。二人の膝を踏みつけないように足を浮かせる姿勢は、なかなか辛い。
しかしシルヴァはおかまいなしに、ブーツの泥を落とし、ベールの切れ端で丁寧に磨きはじめた。少年も見よう見まねで磨くが、なかなか上手くいかない。
「俺は軍人だから、靴の手入れなんかいいんだよ」
「何言ってるの。ウェーザーの立派な軍人さんが、こんな汚いブーツを履いてたらみっともないでしょ」
「ふむ……」
それもそうかと黙り込む。たしかに身なりのことは、弟からさんざん言われていた。
同じ顔、同じ声なのに、自分とはまるで違う、美しく気品のある弟。懐かしい。
「さあ、できた。ぼうやはどう?」
「ん、ここの汚れがとれなくて」
シルヴァは少年の手元を覗きこみ、そして笑った。
「ああ、これは傷に入り込んじゃってるからとれないや。でも、他はきれいに磨けてるよ」
「ほんと?」
「うん。はじめてなのに、よくがんばったね」
シルヴァに誉められると、少年はほっとした表情で目を潤ませた。
「はい、カイン様」
シルヴァは当然のように手を差し出す。そういうことかと財布を覗き、銀貨を二枚握らせた。
「多いよ」
「ん、そうか?」
「銅貨五枚かな」
「ないよ」
面倒だねとつぶやきながら、ローランと両替してから払ってやる。シルヴァはそのうち二枚だけを少年に渡した。
「両方で五枚。私の方が上手く磨いたからね」
少年は手のひらの銅貨をじっと見つめ、とうとう泣き出した。
「……誰も、教えてくれなかったんだ。父さんはいなくて、母さんは病気で……ぼく、どうしていいかわからなくて……」
「うん、うん、がんばったね。これからは、少しずつ働いて、妹が元気になったら一緒に働いて、二人でおなかいっぱい食べられるようになるんだ」
シルヴァは少年を抱きしめ、絡まった髪を優しく撫でてやる。
「さあ、それでパンとミルクを買って、早く妹のところに帰ってあげなよ」
「うん! ありがとう、お兄ちゃん!」
「お姉ちゃんだ!」
シルヴァは苦笑し、露店の店主たちにわけてもらった菓子や果物を少年に持たせた。
「そうそう、おいしいものが食べたいなら、働くことともう一つ、いつもにこにこ笑って、たくさんのひとと仲良くなるんだよ」
「わかった!」
少年は先ほどまでの暗い表情からは想像もできないほどの笑顔で、何度もふり返っては手を振り、元気に駆けていった。シルヴァもにっこり笑い、見えなくなるまで手を振ってやる。
「……まいったね」
カインは椅子の背にもたれ、組んだ足元でつやつやと光るブーツを見つめた。
「俺が五百年かけてなし得なかったことを、おまえはこんな簡単にやってしまうのかい?」
「あは。姐さんたちに教え込まれたからね。靴磨きだけじゃないよ。その外套のほつれくらい直せるし、剣を研ぐのもうまいんだよ」
では、見知らぬ子にさえ惜しみない愛を与え、明日を生きる勇気を持たせる方法も、あの旅の一座から学んだのだろうか。
髪と瞳の色など目印に過ぎない。きっとこの小さな娘こそが、欠陥だらけの自分を補ってくれる唯一の存在なのだ。心が、惹かれて止まない。
「さあ、シルヴァ様、遅くなりましたが朝食をどうぞ」
「ありがとうございます。もう、おなかすいちゃって」
ローランに案内された日当たりの良い席には、一人分の料理のみ。シルヴァはむっと眉をひそめた。
「カイン様は? 昨夜から何も食べてないじゃない」
「俺は……」
「軍人さんだって、食べないと死……」
言いかけて、気付く。
死なないのだ。
精霊たちに祝福された黄金の王は、毒を受けても、一日くらい食事を抜いても、死にはしないのだ。
「だから食べないの? ずっと? でも、それじゃあ……」
カインは静かに瞳を閉じた。
「……俺は、生きることなんかとっくに飽きているんだよ」
一国の王子として生まれ、望めば手に入らないものはなかった。幼い頃は稀な容姿のせいで嫌な思いもしたが、優しい両親と弟に守られ、数こそ少ないが親友と呼べる者もいた。それだけで幸せだったのに。
国王としての能力がないと自覚し、せめて国と民のためにと差し出した命は、皮肉にも永遠のものとなった。
「俺はただ、精霊たちとの契約を終えるために生きているんだ」
全ての人々を幸せにする、そんなことは不可能だろう。それでもうんざりするほど退屈な日々を生き続けているのだ。
「だから」
カインは言いかけて、やめる。咳払いし、少し顔を赤くし、もじもじと指をこねながら、意を決して言ってみた。
「その、もしおまえが、俺のために何か作ってくれるなら、きっと俺は……喜んで食うだろうね」
なんとささやかなわがままだろう。シルヴァは太陽のように笑い、シャツの袖をまくって厨房を借りた。
「素晴らしいお方ですね」
特別に器量が良いわけではないが、目を引く笑顔。明るい声は心をほぐし、誰もが好きにならずにいられない。
五百年もの孤独を生き、心を凍らせたカインには、必要なのではと思うのだが。
「なぜ、お気持ちを告げられないのです?」
「……彼女を不幸にしたくない」
幸か不幸かなど、他者が決めることではないのに。
ほどなく、焦げたバターの香りが厨房から漂ってきた。
「こんなのでいいかな」
熱々の湯気がたつオムレツ、色とりどりの野菜サラダ、たっぷりとジャムを乗せたパンと茶を並べ、シルヴァも席に着いた。
カインはじっとテーブルを見つめる。
「ちょっと形、くずれちゃったけど」
なかなか手を付けないカインの顔を心配そうに覗き込んで、はっとした。
長い指はフォークを取ったまま動かない。
胸が、いっぱいなのだ。
カインは泣きそうな笑顔で「諦めなくてよかった」とだけつぶやき、ささやかな幸福をかみしめた。
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