第25話 ひさしぶり

その時は唐突にやってきた。


俺の足は自然と止まった。

目線の先には...



「サーバルとかばんちゃん...」


信じられない。目の前に...

ああ、俺は夢でも見ているのか。

あの、天皇陛下級の彼女達が今ここに...


「ユイト!!」


「うおっ!?」


博士の鋭い声で、目が覚めた。


「なに!?火事か!?地震!?」


「バカですか。しっかりしてください」


博士に罵られる。そんな事はともかくもう一度目の前を見ると...。


「...こんにちは」

「はじめまして!」




「ハァーッ!

お目にかかれて光栄です!!

もう死んでも悔いはありません!!」


感動のあまり頭を激しく上下させた。


「あはは...」


「よろしくね!よろしくよろしく!」




「私の時と反応が違いすぎませんか?」


ジト目な博士が言った。


「当たり前じゃないか!

このお方達は歴史の教科書に刻まれるべき...いや、1万円札に描かれてもいいレベルの存在だぞ!?」


(あの...私もいるのですが...)


助手の存在は完全に空気だった。


「ユイト、落ち着くのです。

助手はこの前会ってますが、例の二人もいるとは...。放課後にでも、ゆっくり話をしましょう」


博士は冷静にそう述べた。


「そうだな...。

3人とも、後でゆっくり話そう」


「そうですね」


かばんも頷いてみせた。

文化祭を楽しんでと、声を掛け、

一旦別れた。




文化祭後


「かばんちゃんったら!

お化け屋敷で驚きすぎだよ!あはは!」


「だっ...だって...」


(入らなくて良かったのです...)


そんな会話をしながら気兼ねしないファストフードの店で2人が来るのを待った。



「おまたせ」


2人がやってきた。

同じ席に座り、博士から話始めた。


「で、助手やあなた方はどうやって、

ここへ来たのですか?」


「博士さんを探す為に、オイナリサマとキュウビっていうフレンズの力で来ました」


かばんはそう語った。


「神出鬼没なので...、いつもいるってわけじゃないんですけど」


「なるほど。帰ろうと思えばそのフレンズに頼めば帰れるのですね…」


「...博士」


小さく助手が呟いた。


「図書館の留守をタイリクオオカミとアミメキリンに任せたのです。

今頃、ヤギ認定されているフレンズが多くいるかもしれません。要は...」


「1週間後...、1週間だけ待ってください。そしたら....」


俺の顔色チラッと確認した。


「わかりましたよ」


助手はそう言った。

その後、色々雑談を交わした。





帰宅して、もう一度俺は博士に伝えた。


「俺さ、高校卒業したら...、ジャパリパークへ行くよ。オイナリサマとキュウビに頼んで。それまで、5年の間が空くけど...」


「...大丈夫です。私は待ちますから」


「俺さ...、5年後に...」


「それは楽しみに取っておくのです」


と言って、微笑んだ。


それからの1週間あっという間だった。

里奈や気賀、スバル、両親に別れの挨拶をしたり、2人で出掛けたりして...。





迎えた一週間後、自分のマンションの

屋上へやって来た。

あの3人もいる。


もう、俺は絶対に行くと約束を交わした。

博士も、何も言うことはなくなっていた。


こっちの食材をかばんちゃんに渡した後、もう一度博士に、


「絶対に、行くから」


と、伝えた。

すると、彼女の目に光ものが見えた。


「...来なかったら、長として許しませんから」


強がりだけど、ホントは甘えたい。

そんな彼女の性格が垣間見えた。


「さっさと帰りましょう」


博士は3人の元へ寄った。


「...帰りますか」


かばんの一言に、サーバルと助手は肯いた。


オイナリサマから貰ったイナリ寿司を口にし、一瞬にしてその姿は消えた。


周りから聞こえるのは車のエンジン音と

夜風の音だ。


大きな溜息を吐いて、星空を見上げた。


本当に、普通の毎日が戻って来た。

ホッとしたようで、心に穴が空いたような、そんな気持ちだった。


そして、静かに屋上を後にした。



「なあ、ちょっと待ちなはれ」


後ろを振り向いた。

そこに居たのは、白色の狐のような耳をした...。


「あ、あなたは...

もしかして、オイナリサマ?」


「そうや。ユイト、今から言うこと、

よく聞いててな?」


「あっ...、はい」




「...ということや」


「わかりました」


「約束やからな。

絶対忘れるんやないで」


「はい。絶対に忘れません。

将来の事は、彼女と話し合ってますから...」


「まあ、あとは頑張れや。

応援しとるで」


オイナリサマとある約束をした。

そして、俺は、室内へ戻るのだった。














5年の月日が流れた。長いようで、短かった。


「父さん、母さん、今までありがとう。

またこっちに戻ってくるかもしれないけど...」


「お前の人生なんだから、好きなようにやりなさい」


父はそう言って俺を送り出した。


「元気でね」


母も言いたい事は一杯あるだろうけど、

その一言に気持ちを込めたのかもしれない。


「ああ、じゃあ、行くね」


俺は家を出た。



一秒でも早く約束を果たすため、俺はある神社へと向かっていた。


オイナリサマとキュウビが作ってくれた、俺専用の出入口。

現実世界とあっちの世界を結ぶトンネルだ。


神社の境内に入り森の中の古井戸を探した。古い石積みの井戸の奥を覗くと、

無限に闇が続いてる。


(ここでいいんだよな...?)


「せや、ここやで」


後ろを振り向くとオイナリサマがいた。


「何驚いとるん。待ち人がおるやろ?

男は度胸や、いっちょ清水の舞台から飛び降りてみ!」


「そうだなっ!」


そう言い、俺は井戸の中へ飛び込んだ。






博士はいつも通り、平穏な日々を過ごしていた。

時折、彼の写真を見ながらあの夏の事を思い出していた。


「博士ー!いるかー!」


唐突に声が聞こえた。

聞き覚えのある声だ。幻聴ではない。

確かに、聞こえた。


急いで駆け出して、下に降りる。そして、そこに居たのは成長した...


「ユイト!!」


博士は思いっきり彼に体当たりを仕掛けるが如く抱きついた。


「うわっ!」




「来てくれたのですね...!」


「約束したじゃん…」




「博士...?あっ...、あなたは」


物音で助手も来た。


「久しぶり...、助手」


苦笑いで答えた。




「...という事なんだ」


2人にここに来るまでの事情を話した。


「じゃあ、ここで暮らすのですね!」


「昼は仕事に行くけどね…」


俺はふと助手の顔を見た。


「なあ助手、気にしてない?」


思い切って俺は尋ねた。

彼女は俺と博士が一緒に居ることが

快く思わないかもしれないと思ったからだ。


「大丈夫ですよ。博士が幸せなら、それで。博士の幸せは私の幸せでもありますから。気にしないでください」


「助手...、ありがとうなのです」


「私も、少し大人にならないといけませんからね...」


俺は図書館での生活で心配していた事も丸く収まり、その日から、俺はこの世界と現実世界を行き来する生活が訪れた。


毎日忙しいけど、そこは大丈夫かな。


朝が忙しくて料理作れない時は、

かばんちゃんが用意してくれている。

本当に助かっている。


そして、その生活に慣れ始めた頃。


俺は博士からこんな相談を受けた。


「ヒトは寿命があるんですよね。永遠じゃない...。あなたが生きていた証がほしいのです...」


何を重苦しい話をしているか、さっぱりわからなかった。

よくよく話を聞いてみると...


「...という訳なんだけど、キュウビ、オイナリサマ、何とかならないかな」


彼女から受けた話を神様の二人に伝えると、渋々認めてくれた。

少し現実世界にも影響を及ぼしかねない事をこの神様はするらしい。

まあ、仕方ない。


博士と一緒に井戸まで来た。


「行くよ?」


「ええ」


手を繋ぎ、共に井戸へ飛び込んだ。

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