第10話 けっせい
終業式が終わった。
その日俺の家に友達を呼んでいいかと博士が言った。
どうせ、星田や野蒜辺りだろうと思っていたが、最初にやって来たのは俺の面識の無い人だった。
「あなたが噂の結人君か。いやあ、はじめましてだよねぇ」
「お、おう...」
玄関先で俺は挨拶した。
彼とは初対面だ。
「3組の気賀っす。
「初対面なんだけど...」
「あっ、そっか。
ま、細かい事は気にすんなって
邪魔するぜー」
いきなり、上がり込んできた。
「おっ...、おい...」
「おっすおっす、木葉!呼んでくれてありがとな」
「あっ、教授!」
「きょ、教授?」
(なんだその渾名...)
俺はリビングの入口で首を傾げた。
「この前のあの小旅行は私が教授に相談して決めたのです」
「へえ...、そうだったんだ...」
(結構緻密なルートだったよな…)
俺は感心した。
「こういうのは得意だから」
ドヤ顔を浮かべた。
「教授が鉄道ファンで良かったのです
私にはよくわからなくて」
「そうなの?」
「そうですそうです。
水俣木葉って名前を聞いた時は思わず
感動したっすよ〜、肥薩おれんじと鹿児島本線じゃないっすか〜って」
意外と趣味が近い。
中々、俺と趣味の面で釣り合う人は少ない。
「俺は地理が好きなんだ」
彼は笑った顔を浮かべ、興奮気味に喋った。
「マジで?オレも結構好きだよ。
赤道ギニア知ってる?あれマジでヤバくない?」
「あー...、わかるわかる!
陸地があんのに態々島の方に首都を置くとかヤバイよ、アレ」
二人の談笑する姿を見て、
(私には何が何だかサッパリわからないのです...。ですけど、ユイトも気が合うようで良かったのです)
と、安心した。
ピンポーン、ドアベルの音が響く。
俺は玄関へと向かった。
ドアを開けると、
「やぁ...」
「やっほー!」
疲れ切ったスバルの顔から察するに、
偶然里奈と鉢合わせしてしまったのだろう。ご愁傷様としか言い様がない。
二人を家に上げる。
スバルの耳元で、
「災難だったな」
と呟く。
「全く...。テンション高すぎだよ...」
微笑しながら言った。アイツとエレベーターに閉じ込められたら果たして精神が持つだろうか...。
てなワケで俺を含めて5人が集まった。
気賀が二人に簡単な挨拶をした後、
「んで...、何すんだ?」
「部活動の話をした時、非公認の会を作ろうという話をしたじゃないですか」
(ああ、あったなあ。そんなこと...)
「4人は友達なのです。
だからこそ...、ホントの事を言おうと思いましてね...」
「おいそれって...」
俺とスバルは博士の正体を知っている。
この気賀って奴と野蒜は...
「ああ、俺なら知ってるよ。けもフレの博士だろ」
「ええっ!?」
「はぁっ!?」
「え?」
気賀の発言に俺とスバルは驚いた。
「隠してたんか?会った時から、あっ博士だって思ってたよ。みんな知らなかったの?それはおかしいでしょ〜
ミーム汚染広がりすぎじゃね」
「ま、まさか知っていたとは!!
流石教授なのです!賢いのです!」
博士は感激したように言った。
「本人公認ありがとうございますやでホンマに...」
俺とスバルは目が点になった。
「えっ?どういうこと?」
一方で里奈は理解してない様子だ。
「野蒜さん、木葉こと博士はアニメのキャラクターで現実世界には居ないはずなんだよ」
スバルが気を利かせ説明したのだが...
「えっ、じゃああたし達がアニメの世界に居るってこと?」
「違うよ...、ともかく...、もうなんでもいいや...」
(あのスバルが諦めただと!?
なんなんだあの天然は!?)
俺は心の中で突っ込んだ。
「まあ、周りとは少し事情が違うってことだよ」
気賀はそう言った後、お茶を飲んだ。
「…ところで博士、それ以外はなんかあるの?」
俺は博士を見た。
「えっと、会を立ち上げようと思って
その先の計画とか...」
「じゃあ名前を決めないと」
気賀は乗り気なようだ。
「星関係の名前がいいよね!」
「特にこだわりは無いけど」
「覚えやすいのならいいよ」
3人は各々で意見を出す。
いつの間にかまとめ役みたいになっていた気賀は...
「スターライト、略して“STL”は?」
何で略すんだよと思ったが、こだわりは無いと言ったので俺は何も言えなかった。
「それは、どういう意味合いで?」
スバルは尋ねた。
「スターライト舞浜って言う臨時列車が新潟と舞浜の間で走っててな、ちょうど経由する路線数がメンツと同じ5路線だからいいかなって思ってさ」
「まあいいんじゃね?」
俺は適当に返した。
「星も入ってるし、経緯的にも妥当か」
スバルは星さえ入ってればいいらしい
「みんながおっけーだったらおっけーでいいや」
「STLって響きがいいですね...」
何故か博士から闇のオー...きっと気のせいだ。
「ま、名前はそんな感じで。
予定立てるんだろ?どうすんの?」
「海行きたいなー」
「山でしょ」
俺は思ってもいなかったが、ここで
里奈とスバルの意見が対峙した。
「俺は電車で行くんならどこでもいいっす」
気賀は完全に試合放棄だ。
(博士は、あの後泳ぎに何回かプールに行ったけど...、結局泳げなかったんだよな…。泳げない博士が溺れたら困る)
(海...?またリナに泳げないとバカにされるのがオチなのです...)
「俺も行くなら山で」
「私も」
俺達は息の合ったように同時に山に投票した。
「えーなんで?海いいじゃん。山なんて
暑いしクマとか蜂とかいそうじゃん」
「海だってクラゲとかいるし、海も暑いじゃないか!それだったら涼しい夜のキャンプ場で星を眺めてた方がまだ有意義だよ」
「それに川もあるしな。水遊びなら川でやれば?」
(ナイスフォロー気賀...!)
俺は心の中で小さくガッツポーズをした。
「山にしましょう!絶対そっちの方がいいのです!」
博士も賛同する。
「それに俺の親戚、山でキャンプ場経営してんだ。今年も親に連れてかれるだろうし...」
「それなら早く言ってくれよ〜、気賀!」
俺は膝を叩きながら言った。
「よし、決定だね。海はプライベートで行きなよ」
少しつまらなそうな顔をしながら里奈は
「じゃあはーちゃん今度一緒に行こー」
「えぇっ...ちょっと予定が...」
(拒否反応が露骨すぎるぞー、博士...)
俺は彼女を見てそう思った。
「...海の家って知ってる?
焼きそばとかかき氷とかいっぱい食べれるんだよ?」
「百聞は一見にしかず、行ってみるのです!予定を開けとくのです!」
「野蒜さんもわかってきたみたいだね..
.、博士の扱い方」
スバルが呟いた。
「だよな。それに博士の方も食い物には目がないんだからな...」
俺も呆れ口調でスバルに言い返した。
「ま、日時は追って連絡ってことで、
ハイ、よろしく!
で、この後どーする?」
「折角集まったんだし...、ゲームでもする?」
俺はそう持ちかけた。
「ああ、スイッチ持ってたんだっけ」
スバルは思い出したように言った。
「マリカーかスプラぐらいかな...」
「ユイトはいっつも体当たりして、
谷底に突き落とすのですよ?ひどくないですか?」
「ちょ、そんなことしてないって。
博士が操作下手なだけでしょ...」
「下手とはなんですか。賢い私にそんな口の利き方をしていいとでも?」
「そうだぞー、結人」
「最低だなぁ。そんな事するなんて」
「ゆいぴーひどくないー?」
「ちょ...、俺だけ非難すんなよ…」
すると気賀、スバル、里奈の三人は俺に冷たい視線を浴びせた。
「よっぽど腕に自信があるのかな?」
「やっちゃいます?やっちゃいましょうよ!」
「3人がかりならなんとかなるんじゃない?」
初めてこの空間が恐ろしく感じた。
「か...、勘弁してくれ...」
この後俺は3人にゲームでボコボコにされたのは言うまでもない...。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます