第9話 てすと
(かばん達が現実世界?に行ってから暫く経つのです。一体いつになったら博士を連れて戻ってくるのですか…)
助手はイライラしていた。
(オイナリサマでしたか...?
アイツももっと博士の場所を把握しておけばいいのに...)
今日も助手は1人で夜を迎えた。
その日の夜は少し違った。
木の上で目を閉じている時、
奇妙な声が助手に語りかけたのだ。
「助手さん?こんばんは」
突然の声に目を開けたが、辺りは誰もいない。
「私はキュウビ。特別なフレンズだから、姿は見えないんだけどね
ところで、博士を探してるんでしょ?」
「ええ...、その通りですけど、何故知っているのです?」
「だって、私が博士をあっちへ連れてきたんだから」
「本当ですか?」
見えない相手に話を続ける。
「今、博士がどうなってるか教えてあげる。博士は今ヒトの男の子にゾッコンなんだよね」
「ぞ、ぞっこん?」
「つまり...、愛し合ってる」
キュウビはわざと誇張した表現をした。
「あ、あ、あ、愛し合ってる!?」
「そうなんだよねー...
とーっても幸せそう...」
目には見えぬが、キュウビはニヤリと笑った。
「私もまさかああなるとは思ってなかった。もし、あなたが望むのであれば...、人間の世界に行って、博士を取り戻さない...?」
その質問に助手は...
(博士が人間の男子と...?
まさか博士は男を求めていた...?
私にそれをひた隠しにしていたのですか...!?
いや、何にしろ...)
「キュウビとか言いましたね。
私を人間の世界に連れてくのです。
とりあえず、博士は“私の博士”なので」
「ふふっ...、いいよ」
「あっ、でも待つのです。
誰か図書館の代わりを...
そうですね。タイリクとアミメでいいでしょう。暇でまともな奴はアイツらしか居ませんからね」
「じゃあ、準備が出来たら送ってあげるね...」
一方こちらは現実世界。
第三使徒...ではなく、第3の訪問者が訪れようとしていることなど到底知らない。
今はそれどころではなかった。
「やべー...、英語全然わかんねー...」
「変なコトバなのです...」
「あと十数時間後に定期試験なのにっ!!博士も手をつけてないって…」
「国語とか理科とか数学はわかりますけど、英語は未知の領域なのですよ。
そりゃあ、後回しにだってなりますよ」
「ったく...」
2人は英語の学習に行き詰まっていた。
「こういう時はもう寝るのです!」
「えっ」
「明日の朝早く起きてやればいいのですよ」
「マジで...?」
「私は元々賢いのです!朝だろうが覚えられます!」
あまりにも自信満々な言い方だった。
「お、俺は...」
「我々は賢いのです」
暗示のように、そう呟いた。
「俺も...、賢い?」
「我々は、チームなのですよ」
(それって一緒に俺も寝させようとさせてない...?)
「私はもう寝るのです!有言実行なのです!」
翌日...
「おい、博士!何時まで寝てんだよ!」
結人は博士を叩き起した。
「何ですか...」
それに対し大きな欠伸をした。
「もう朝の7時だぞ!遅刻すんぞ!」
「ふぇっ!?」
(そう言えば、朝勉強するとか言ってなかった?)
しかし、学校に行く時間は来てしまった。
試験前...
「私は、賢いのです!80点台ぐらいちょいちょいなのですよ」
「その自信は何処から湧くんだよ...
もう、俺捨てようかな...」
「捨てるなら勝手に捨てるのです。
もし、私が80点台取れたら、スイーツを奢るのです」
「えぇ...」
そういう約束を無理に押し付けられてしまった。
「...」
またあの転校生が結人と仲良く喋るやがってる。
まるで家族みたい...。
4月の入学式...、私はそこで彼と出会った。
それ以来ずっと、クラスも同じになって...、私は彼の横顔を見続ける...
究極の時間...
けど、あの水俣とかいうヤツが来てから、結人はアイツに取られっぱなし...
引き離したい...
トントントントントン
机を叩く指のリズムが早くなった。
「
「...えっ?星田くん?」
「大丈夫?さっきから凄くソワソワしてるけど...」
「だ、大丈夫よ...」
嘘だ。大丈夫なんかじゃない。
あの2人がもし付き合ってるとしたら...
「テスト頑張ろうね」
「あ、うん...」
私は私に課せられたテストをクリアしなければいけないっ...
そして、テスト時間が始まった。
「キュウビ、準備はできたのです」
「わかった。因みに向こうの世界での呼び名、
「勝手に決めたのですか...
まあいいのです。博士のいる町に連れて行ってくれますよね」
「もちろん」
テスト終了後
結人と同じクラスであり思いを抱きながらも見向きもされず、やきもきした気
持ちを抱えた
(もう試験にも集中出来なかったし...
あの女帰る方向までも結人と一緒とか、マジで...、あーもう...)
「ん...」
助手が気が付くと、公園にいた。
「ふふっ、ここに居てよ。
全部シナリオ通りに行くからさ
あ、因みにもう人間の姿になってるから」
そう言われ自身の体を確かめた。
「あっ...、羽も尻尾もない...」
「うん、じゃあそこのベンチに座ってて」
(でも、本当に上手くいくんですかね?)
半信半疑だったが、言われた通りに座った。
真希の家はこの公園を通り抜ける方が
近道である。
(ホントにもう...いい事ないなぁ...)
そして、“例のベンチ”の前を通りかかった。
「...?」
(あそこに座ってる人...、どこかで既視感がある...?誰...?)
どうしても、何故か気になった。
記憶を辿り、合致する人物を探す。
(...アイツだ)
見るからに木葉と見た目が類似していた。空似かもしれないが...
いや、間違いなく何らかの関わりはあるかもしれない。
普通ならこんな事には首を突っ込みたくないが、結人の事が掛かってる。
覚悟を決め、助手に近付いた。
「じゃあ、私の言うことをそのまま口にしてね。彼女に近づかないと博士は取り戻せないよ」
キュウビはそう助手にアドバイスした。
「わ、わかりました」
小声で言い返した。
そうしているうちに、真希が助手に語りかけた。
「あの、突然ですみません。水俣木葉っていう方をご存知ですか?」
「はい」
「は、はい」
キュウビの言ったことをそのまま口にする。
「そうなんですか...?やっぱり、姉妹とか?」
「えっと...、両親が離婚してしまって、姉の私は母方に、木葉は父方に引き取られて...。それで...、あー、この街に木葉が来てるって言うんで、私も、彼女を探しに来たんですよ。ですけど、手掛かりが無くて...」
助手はキュウビの台詞の設定に色々口を出したかったが、その気持ちを抑えた。
「やっぱり...、似てると思ったんですよ。あなたの妹さん、私と同じ学校に通ってるんですよ」
「そ、そうだったんですか!」
態とらしく驚いたフリをした。演技は得意でない。
「あっ、えっと...」
「実は、1人で探しに来たんで、寝泊りする場所がないんですよ」
キュウビが呟やく。
「じ、実は、1人で探しに来たので、寝泊りする場所が無いのですよ」
(...この人とアイツがどう関係しているのかもっと話を聞く必要がある...。
そして、上手く話が進めば...
結人からアイツはいなくなる...!
後は親次第だけど...、何とかなるか)
「家でよければどうですか?
一応、連絡して確認してみますよ。
私、京ヶ瀬真希って言います」
「あ、ありがとうございます
えっと、私は尾鷲優美です」
自己紹介のあとに、キュウビが付け足すように言った。
「因みにあなたは元の動物を反映して、少し博士と差を付けてるからね。
人間の年齢だと18くらいだから、覚えといて」
黙って肯いた。
(...真希は博士と同じ学校に通ってる...ということはつまり、
真希を上手いように使えば、博士は私の所に戻ってくる上に、パークに一緒に戻れるのです。かばん達には悪いですが、こちらの方が手っ取り早いですね)
少し、笑みを浮かべた。
真希は、結人を博士から引き離したい。
助手は、博士を結人から引き離したい。
そんな思惑を抱いた二人が、邂逅したことなど、結人と博士は知らないのだ。
数日後、テストが返却された。
チラッと見たが、博士との約束で
家に帰ってから、じっくりと見た。
俺は思わず、苦虫を噛み潰したような顔をした。
(数学51点、国語63点、理科55点、社会72点、英語59点...?
うわ...、俺の点数低すぎ...)
思わず、片手で口を覆った。
「ユイトユイト〜!」
一方彼女は嬉しそうに鞄から紙を取り出した。
「見てください!」
「ん...?」
差し出された5教科のテストの点数を見た。
「えっ!?うそっ!?」
驚いてしまった。彼女は全教科80点を超えてる。あんなにわからないと嘆いていた英語は80点である。
「どうですか!私は賢いのです!」
胸を張ってそう答えた。
何故かその姿が自然と可愛く思えた。
「すごいじゃん!」
と賞賛し、俺は彼女の頭を撫でた。
彼女はえへへと、純粋な笑顔を見せてくれた。
(パビリオンでもふれあい機能があったらな〜、なんて...)
「じゃあ、スイーツ奢ってくれるのですか?」
「いいよ、もちろん。約束だもんな」
「リナが教えてくれたお店に行きたいのです!」
「ああ」
俺は肯いた。
あまり高いところじゃないといいな。
と思うのであった。
「はぁー!あはははっ!」
キュウビは大きく笑った。
「これからどうなるのかねえ...」
「キュウビ?」
突然声を掛けられ、振り向いた。
「オイナリ...!?」
「なんや、こんな所で何してるんどす?」
「いやぁ...、ちょっと散歩で...」
そう言うとオイナリサマはキュウビに顔面を近づけた。
「まーた、余計なことしとるんちゃうの?」
「してないよ〜。そうだ。この前の博士の件のお詫びのお寿司どうだった?」
オイナリサマは眉間にシワをよせた。
「あのお寿司イナリが入ってなかった」
「えっ...?」
「よってナシや。全然チャラに出来ると思っとったん?アホちゃう?」
オイナリサマは両手の拳をキュウビのこめかみに当てた。
「イナリが無いのに詫びたつもりでいたんかワレェ!イナリを出せぇ!高級のイナリをっ!!」
「いたたたたたっ!!許してぇ...」
頭から拳を離した。
「許して欲しければ、イナリを持ってきて、もうこれ以上面倒事を増やさない事や。ええな?」
「は、はぃぃ...」
この状況でキュウビは助手を連れてきたなんて言えるわけがない。
イナリを手に入れ、彼女のご機嫌を良くしなければ...。
「そや、さっきあんた、なんで笑っとったん?あんたが笑うなんてのは、悪戯した時以外ないよなぁ?」
「・・・・」
キュウビの目の前が真っ暗になった。
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