携帯電話とクラス委員

第27話 クラス委員の少女 

 虹村志純にじむらしずみという少女はクラス委員をしている。眼鏡をかけていて、髪型はポニーテール。顔立ちは整っているのだが、安易に周りを寄せつけないストイックな表情をしていることが多い。凛とした雰囲気のいまどき珍しい規律とかに厳しいタイプの少女だ。


 将来の職業は婦警とかが似合いそうだな、と僕は思う。良い意味でも悪い意味でも融通の利かない立派な公僕になりそうだ。だからその日の教室で見かけた光景も珍しいことではなく、むしろ日常だった。


「阿佐ヶ谷くん。さっき携帯の音、授業中鳴らしていたよね。校内では電源を切るかマナーモードにすることになっているって知っているでしょう?」

「勘弁してくれよ。たまたまメールが届いて鳴っちまっただけだろ? 先生だって誰の携帯が鳴っていたかわからなかったんだし。次からは気を付けるからさ」


 今日の数学の授業の途中で誰かの携帯の着信音が鳴ったため、担当していた四谷よつや先生が怒りだし授業が一度中断するという事件が起きたのだ。「授業の後で携帯を鳴らした者は後で来るように。来なければ、担任に言って直接話をつける」と宣言して四谷先生は出て行った。


 そしてその後の休み時間、虹村がクラスメイトの阿佐ヶ谷の所にやってきて、説教を始めたというわけだ。虹村の席は阿佐ヶ谷のすぐ近くなので、鳴らしたのが分かったらしい。


「駄目だよ。四谷先生『もし誰かわからなかったらクラス全員に連帯責任をとらせることも考える』って言っていたし。校則で授業中の携帯使用は三日間の没収って決まっているんだから我慢しなさい」

「マジかよ……」

「大体これで特別扱いして見過ごしたら、他の人も『じゃあ、私も』ってなって誰も守らなくなってしまうわ。示しがつかないじゃない」


 明彦と僕はそんな会話を交わす二人を何ともなしに観察する。


「虹村の奴、相変わらず固いなあ。うちの学校は進学校だからまだみんな大人しく言うこと聞くけどさ」

「けど、言っていることは正しいだろ」


 僕はむしろ内心、虹村を応援していた。


 そうだそうだ。言ってやれ。阿佐ヶ谷は元々携帯の着信音などに無神経なところがあったし、時々イヤホンから音漏れしている状態で音楽プレーヤーを聞いているので、その手のマナー違反が気になる僕としては正直どうかと前から思っていたのだ。まあ飯田橋先生と並んで校則にうるさい学年主任の四谷先生の授業で携帯が鳴ってしまったのは運が悪かったのだろうけど。


「でもあれじゃ逆に反発招かないか?」

「いや、虹村はああ見えて人望あるし、先生から厳しめの規則とか発せられたときとか、クラスの中心グループに根回しして、無理そうだったら先生に話に行ったりするんだ。逆に先生がミスしてうちのクラスで教えてない内容をテストに出したときとか、直談判しに行ってクラス全員の点数を上げさせたりしていたよ」

「ほほう、真守さん。良く見てますなあ」


 明彦がにやにやしながら僕を見る。


「何を勘違いしているのか知らないけど、一年の時に同じクラスだったからたまたま知っているだけだ」


 だけど、その生真面目な姿勢に僕としては何となくシンパシーを感じるところがあるのも事実だった。

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