螺旋城

モナムール

第1話

「あら、あなたまだ生きてるの。一体、どの面で私様の住まう世界で呼吸をするのかしらねえ」にたにた嗤いながら僕の頭を踏みつける彼女。凶悪きわまりない面だ。最悪だ。踏まれるの気持ちが良くて、彼女が愛おしいなんて両親が知ったら...。「ふがふが」「あらあら、クズでも泣けるようね」

....ああ。一体、どうしてこうなった。

僕は大学のサークルで彼女と出会った。彼女は大和撫子を体現したような美人さんで所謂、高みの花という存在であった。

僕は簡単に折れそうなくらいに細い手足と、整った貌を眺めて、どうしてか、彼女が屋上から身を投げる姿が浮かんだ。

廃ビルの上に立っている。いつもの服装で、いつもの穏やかな表情で、いつもではない非日常の空間にいる。

違和感が彼女を浮き上がらせてより怪しく美しく輝かせていたもんだから、優しく背中を押してあげたかった。

彼女は身を投げてコンクリートに頭からぶつかり、赤い血がじわじわ広がる。

誰もが認める美しかった姿は無残に変わり果ててしまう。

偶然にも居合わせた誰かは口を押さえて逃げ出してしまう。

あらぬ方向に折れた手足、潰れた貌、コンクリートに広げられた髪と、赤い血。

....ああ、押し花だ。僕のこれから先の誰かと関わるのが疲れたら、彼女に浸って距離を話すための永遠の女神なんだ。

そのような幻想はすぐに壊された。

彼女はSだった。しかもドがつくドS。

彼女と二人で飲んだ日だった。最初は4人だったが、途中で帰ってしまった為に僕と彼女の二人きり。


「ねえ、犬よ。ほら、わんちゃん」

唐突に、僕はわんちゃんにされてしまった。

彼女の桜色の艶やかな唇から紡ぐ言葉に脳が犯された。

まるで僕の存在の奥深くを擽るような仕草は僕のガードを容易く破壊して、我が物顔で入り込み居座り命令する。なんてことはない、彼女は女王様だった。僕は犬だった。


「わんわん!」

「あらあら。下手くそな鳴き声ねえ」

そういいながら優しく顎をひんやりした手で触る。ああ、ご褒美に思えて、僕の胸の内の虚が満たされて、僕は幸福に狂った。

ぱしん、と音が鳴る。

彼女は冷ややかな目で私を見る。

僕はじんじんする頰をなど気にならなかった。ただただ焦る。

もはや冷静ではいられなかった。

「ねえ、どうして人間のように椅子に座ってるのかしら」

「わん!」

返事は1秒未満。僕は急いで椅子から飛び出し床に犬のようにお座りした。

周りの客が騒めくがどうでもよかった。


僕は彼女の犬だ。

僕は彼女に狂ってしまった。






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螺旋城 モナムール @gmapyon

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