ヒトを勝手に参謀にするんじゃない、この覇王。~ゲーム世界に放り込まれたオタクの苦労~
港瀬つかさ
1章 異世界転移=予言の参謀化
1
現実とは斯くも無情である。
というか、コレは現実と見なして良いのだろうか?いや、全然良くないな。良くないどころか、とりあえず、全部丸めてぽいっと投げ捨てたい。何でこんなことになってるんだ。
「お前が、我が国の滅びを予言したという旅の者か」
にぃっと楽しげに笑ったのは、人間に獣を混ぜたような外見をした男だった。
「……イエ、別に貴国の滅びを予言したのでは無くて、ついうっかり妄想が口を突いただけですので、平にご容赦を。捨て置いて下さい」
「捨て置くというならば、切り捨てようか?」
「御免被りますが?!」
しれっと空恐ろしいことを言うでない、この獣人!あぁああああ!これだから、脳みそが闘争本能とか戦闘意欲とかで埋まってそうな脳筋は嫌いだよ!いや、別に脳筋じゃないんだろうけどさぁ、アーダルベルト陛下?アンタ、すっげぇ楽しそうに笑ってますが、舌なめずりして、どうやってワタシを処理しようか考えてる顔でしょうが、それ。
つーか、アーダルベルトの背後の面々が、すっげー怖い顔でこっちを見てるんですが。それの方がワタシは怖いのですよ。怖すぎて心臓が痛い。止めて。アンタ等のような戦闘上等民族じゃねぇんです。こちとらひ弱な人間なんです。獣人と一緒にしないで。殴られたら一発で死ねる。死にたくない。
というか、自分の故郷に帰りたいんですが。
冷や汗をだらだら流しつつ、多分顔には何も出てないんだろうなぁと思った。哀しいオタクの性で、一定量の感情の振れ幅を超えると、無表情になってしまうのだ。それは、一般人の中で生きていくために身につけた技能でしたが、今の状態では非常にマズイとしか言えぬ。
だってこれ、どう考えてもふてぶてしく陛下を睨んでるくせ者の構図!違う!ワタシはむしろ、今すぐ逃げたい気分だ!
「だが、お前は確かに我が国の滅びを予言したそうだな。それも、明確に時期まで指定して」
「……くだらぬ下賤の輩の戯言と妄想です」
キリッとして言ってみたが、全然信じてくれなかった。止めて。そういう怖い顔止めて。逃げたい。何でこんな事になってるんだ。別にワタシは、貴方にもガエリア帝国にも他意はありません。あと、どこかの国の間者でも無いし、何か凄い才能秘めてる隠者とかでもねーんです!
こちとら、気づいたらゲームの世界に放り込まれてた、ただのオタク女子大生ですから!
って言う風に叫んだって、絶対意味理解して貰えないんだろ。知ってる。もうそれ、何度もやったモン。街で、「アンタ頭大丈夫か?」っていう顔されまくったからね!ちくしょうめ!
そう、この世界は、ワタシがやり込んでいたRPGゲーム『ブレイブ・ファンタジア』の世界だ。このゲーム、シリーズが5作品ほど出ていて、世界は全て同一。1から始まり、順番に時間軸が進む。そして、最新作である5において、無敵の繁栄を誇った獣人の国、ガエリア帝国が滅亡することになるのだ。
んで、街の状態とか統治者とかの状態を噂話で集めて、ここがどこかを理解して、ついでに時間軸も理解して、思わずうっかり、呟いちゃったんですわ。本音を。
――え?ここ、アーダルベルト陛下統治10年のガエリア帝国?……5年後に滅ぶくね?
と。
本当にうっかりだった。反省している。まさか、街角でぼそっと呟いた、どこの誰ともわからない(だって服装が、この世界のそれじゃなくて、普通に自宅で来てたジャージでしたからね。ははん。何でジャージのままなんだよ。ちくしょう)人間の戯言を、ご丁寧に王様にまで報告する奴が居ると、思いましたか?思わねーよ!
んでもって、今の状態である。
下賤の民の戯れ言と聞き流してくれたら良いのに、何故か妙にフットワークの軽いアーダルベルト陛下は、近衛兵引き連れてワタシの尋問にお越しになりました。親切に、下働きするならって宿屋に置いてくれてたおっちゃん、ごめん。とりあえず、貴方に危害を加えないで貰えるように、頑張って頼んでみるからね?あと、ワタシ自身も見逃して貰えるように!
「ただの愚者にも見えん。こぞ……小娘か?貴様何者だ」
「……一応生まれたときから性別は女なんで、そこは疑問符付けずに小娘にして頂きたい。あと、何で最初に小僧って言いかけた、くらぁ」
確かに服は相変わらずジャージのままだが(だってまだ路銀が無いのに、服とか買えるわけないじゃないですか。こちとら、この世界に吹っ飛ばされて、まだ、三日ですぞ?)、髪は首の後ろで括る長さだし、一応、辛うじてだけど凹凸はあるし、顔は童顔乙って言われる系の顔ですけど!?あと、アンタ等獣人なんだから、鼻効くだろうが。匂いで性別判断しやがれやぁ。
「「…………」」
……はっ、思わず暴言吐いちゃった。どうしよう。怖い。沈黙がむっちゃ怖い。殺される?嫌だ。死にたくない。とりあえず帰りたい。いったい誰がワタシを召喚したんだ。それとも勝手に墜ちてきたとでも言うのか。それはそれで嫌だな。勘弁して欲しい。帰りたい。新作ゲームしたい。
「……くっ」
あぁ、さよなら、儚いハタチの人生。ちくしょう。もっとゲームしたかった。オタクの祭典行きたかった。腐った友人達と、萌えを吐き出してアレコレやりたかった。そういう楽しいことをしたいだけの人生でした。さよなら、皆さん。
そうやって覚悟したのですが。覚悟したのですよ。いくら何でも、機嫌最悪っぽい覇王に喧嘩売った感じになるわけですしね?えぇ、いくらワタシでも、こらもうアカンと思ったんです。
思ったんです、が。
何でおたく、そんな腹抱えて大爆笑してますん、アーダルベルト陛下?
いやもう、近衛兵の皆さんがドン引くレベルで大爆笑っすよ。それこそ、机がそこにあったら、バシバシ叩いてる感じで。何がツボに入ったんだ。アレか?やはり覇王様ともなると、一般人とは感性が違うっつーわけですか?少なくとも、今までの会話で、大爆笑になる理由がわかりませぬ!
「小娘、お前面白いな」
「……それはどうも、アリガトウゴザイマス」
ヒトのこと小娘言うてますが、多分ワタシ、貴方が思っているよりは年かさですよ。この口ぶり、
どうも、日本人って余所に行くと童顔に見られるよね!という感じで。ここ異世界だけど。ゲームの世界っぽいけど!
「俺が怖くないのか?」
「心底むっちゃ怖いですけど?非力な人間のワタシなんて、一撃であの世行きじゃないですか。怖すぎるですよ」
暴君じゃないって知ってるので、落ち着いて話してくれるなら、多少は恐怖薄れますけどね!ぶっちゃけ、偉大なるガエリアの覇王陛下っつーのは知ってますんで。でも、不機嫌顔で尋問されてたら、怖いに決まってんだろ!アンタ獣人で、しかも獅子なんだから!
「とりあえず、名前を聞いておこうか。何という?」
「…………とりあえず、アノニマスとでも呼んでくだせぇ」
「
「…………
「…………エニョーシャ・ミュー?変わった名前だな」
「ちゃいます。エノシマ・ミユ。名前はミユです」
似合わないとか言わないで!それはワタシも親に言いたい。というか、絶対発音しにくいだろうなと思ったから、わざわざ厨二病持ち出して、名無しっていう意味のアノニマスで格好良く決めてみたのに!何でそこに乗ってくれないんだろう。ひでぇ王様だ。
首を捻りまくっているアーダルベルト陛下。そりゃそうだ。この世界に、日本人っぽい名前の人間はいない。種族は獣人以外にも、ワタシのような普通の人間から、エルフやドワーフ、精霊や妖精もわちゃわちゃいるレッツファンタジーだ。和風はお呼びでないのだ、『ブレイブ・ファンタジア』の世界には。
そんなわけで、発音しにくいんだろう。そもそも、ちゃんと聞き取ることすら出来ないだろう。仕方ない。ここは譲歩案を出そう。というか、ワタシが譲歩しないと、話が進まない気がする。ちっ。
「呼びにくいなら、ミューで結構です」
もうそうなると、お前どこの誰?って気分ですが。ハンドルネームとかだと思うことにします。
何度か口の中でワタシの名前(と勝手に思ってるらしい何かよくわからないカタカナ)を呟いた後に、アーダルベルト陛下は小さく頷いた。呼びにくいから、とりあえずミューと呼ぶ、ときっぱり言われました。そうなると思ってたよ。わかってる。
そもそも、この世界は名・姓の順番なんだよね。ワタシ、日本人なので、姓・名の順番に馴染んでるんですわ。あと、この世界、それなりの身分で無いと姓は存在しないらしい。さすが、西洋風ファンタジー世界。いやまぁ、日本も昔は、一般人に名字なかったので、同じ事でしょうけど。
「それで、お前はどこから来たんだ?」
「……………」
一番聞かれて困ること言いやがった。
この王様、脳みそちゃんと詰まってるんだろうけど、おかげで、こっちが聞かれたくない部分をバシバシ突っ込んでくるのマジで勘弁してくれないだろうか。どうやって説明しろと。
あ、あった。説明できるわ。
「召喚されたようです」
真顔で告げてみた。大丈夫。概ね間違ってない。だって、現実世界からゲーム世界(だと思われる)に放り込まれてるんだから、これも立派な召喚でしょう。誰が呼んだか知らないけど。誰のせいか知らないけど。むしろそんなことやった人間が居るなら、さっさと送り返せと訴えに行くけど。
「ほぉ?異界の人間か。その割に、落ち着いているな。召喚について説明を受けたのか?」
「街のヒトに軽く聞きました。ついでに、呼んだ誰かは見当たりませんでした。つーわけで、そこの宿屋のおっちゃんが、善意で下働きするなら住まわせてやるって言ってくれたんで、頑張って働いてる最中です。なので、解放して頂けると非常にありがたいのですが」
「よく回る口だな。お前が召喚された異界の人間というのは、その服装を見ても納得がいく。だが、それと、我が国の滅びを口にした理由は繋がらんな?」
にこやかな笑顔の獅子男。止めて。その、今にも獲物に食いつこうとする笑顔止めて。マジ怖い。のど笛食い千切られそうでマジで嫌。
ゲーム画面の向こうで見てる分には結構ですが、生身で対面するとマジで怖いよ、獣人。犬猫ウサギくらいならまだ平気だけど、虎とか熊とか怖いよね?それなのに、目の前に居るのは獅子で、しかも最強と名高い覇王様とか、どんだけ虐めですか?…泣きたい。
「……もう、下民の戯れ言で流して下さい。ワタシ、難しいことわからない、ただの流浪の召喚者です」
「…………お前、面白いな」
「……は?」
「「ハイ?」」
間抜けな顔をしてしまった。でも、近衛兵の皆さんも同じような顔してるんで、この反応は普通ですね。わかった。普通じゃないのは、この困った王様の方だった!
何を言い出すのか、と近衛兵達と一緒になって、アーダルベルト陛下を見る。ヲイ、獅子の王様。アンタ何を言おうとしてるの?
ぬっと太い、それこそ丸太みたいに太い腕が伸ばされて、そして、ワタシの襟首を引っつかんで、持ち上げた。
「……え?」
「ちょうど退屈していた。一緒に来い」
「何で?!」
「「陛下?!」」
呆然としながら、宿屋のおっちゃんを見た。びっくりした顔で、固まってた。ワタシ、気づいたら王様の肩の上に、丸太のように担がれてました。…うん、獅子の貴方にしてみたら、人間のワタシなど、軽いのでしょうけど。ちょっと待て。荷物みたいに扱うな。ワタシは米俵か!
「詳しい話は城で聞く。……よもや、拒否権があると思うなよ?」
ニタリと笑った笑顔はどう猛な獣に相応しく。……そりゃ、不審人物のワタシに拒否権など存在しないでしょうけど。だからって、これ、誘拐って言うんじゃないでしょうかねぇえええええ?!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます