効率主義の異世界生活

なるま

第1話 効率主義とはいかに

 人生において、人間はお金さえあれば大抵の事が解決出来る。

 

 学歴がどうだろうが、運動神経がどうだろうが。そもそも一生分の生きていくお金があれば、働く必要すらない。

 

 そんな中、オレは中三の時にある事を決めた。高校には行かないということである。

 

 そのかわりにオレは高校でやる教科の全過程を中三の内に終わらせて、晴れて未成年ではあるものの社会人になった。

 

 理由は勿論、一生を遊んで暮らしたいからである。

 

 そこのお前、オレの事を『ニート』だと思っただろ。だけど正確に言うとオレはニートでは無い。何故なら、働かない代わりに全てを株で稼いでいるからだ。

 

 実際、今は親元を離れて東京で一人暮らしの真っ最中。さらに言えば、貯金だって現段階で数億円位は軽くある。

 

 要するにオレ、『坂本慎二』は『効率主義』なのだ。故にオレは必要が無いと思ったことは絶対にやらないし、何か物事を成す時も効率が最優先。

 

 今何をしてるかって?

 スマホゲームをポチポチしながら、大好きないちごミルクを飲んでいるだけだが・・・・・・これが本来の理想の人生である。

 

 「うーん、課金でもするか」

 

 ガチャでお目当てのキャラが出ないのはよくあること、そんな時は課金が1番効率的。

 

 「さて、コンビニにプリペイドカードを買いに行くか。ついでにいちごミルクも」

 

 いつも通り、何となく財布を手にして、何となくスマホをポケットにいれ、家を出る。

 

 現在の時刻は夜十時を過ぎたくらいだ。コンビニへ行く大通りの道は、少しだけいつもと違う違和感がある。夜とは言えども、人通りが全くないのだ。それどころか、車の一台も通っていない。

 

 「なんだ、やけに静かだな・・・・・・」

 

 コンビニに着くと、駐車場にも車は止まっていない。

 

 『ピロンピロン』

 

 中に入ると、いつも通りの入店音。しかしレジを見ると店員は居らず、もぬけの殻状態。地球上にオレだけがいる感じだ。

 

 「おめでとうございます!」

 

 「・・・・・・!? えっと店員さんですか?」

 

 現れたのは、全身が聖職者のような服で身をまとった女性である。ただ、どう見ても店員ではない。

 

 「申し遅れました、私は俗に言う女神です。慎二様でおられますよね?」

 

 「そうですけど・・・・・・」

 

 「では単刀直入に申し上げさせて頂きます。慎二様は異世界召喚者に選定されました!」

 

 「はい? 冗談はよして下さいよ。異世界召喚だなんて」

 

 「冗談ではありませんよ? 証拠をお見せ致しましょう」

 

 証拠? 何をする気だこの女・・・・・・

 とはいえ、異世界召喚か。本当なら楽しそうだけどな。

 

 「クラメロッ!!」

 

 その女神と名乗る女性がオレに手の平を向けると、たちまちオレの体は中に浮き始めた。

 

 「え、ちょっと!? わかったわかった! 信じます!」

 

 「物分りがよろしいようで・・・・・・」

 

 この女、怖すぎだろ!? 女神とは思えねぇ・・・・・・

 地に足が着いたオレはすぐに平然を取り戻す。

 

 「それで? 詳しく説明してくれよ」

 

 「承知しました。慎二様が飛ばされるのは極普通のファンタジー世界です。そしてそこにはレベルや魔法、魔獣や魔王など様々な現世にはない生き物が住んでいたり、魔法などが存在しています」

 

 まさに、よくあるファンタジーゲームの世界じゃないか?

 

 「なんかテンプレだな」

 

 「テンプレとは?」

 

 「いや、なんでもない」

 

 「では続きを。慎二様には一週間後に初期職業を選んで頂きます。そして異世界に召喚された後は自由に異世界生活をお過ごしください。魔王を討伐するもよし、異世界でニート生活をするもよしと言った感じですので宜しくお願い致します」

 

 「待て待て、一週間後ってどういう事だ? すぐに召喚される訳じゃないのか?」

 

 「はい、現世に名残惜しいものもあるでしょうというこちら側の配慮です。そして────」

 

 「そして?」

 

 少し間を開けた女神は服の袖から何かを取り出した。

 

 「こちらが、異世界のガイドブックです。既に魔法も使えるようになられているはずなので、逮捕などはされない程度に魔法を試してみるのもありかと・・・・・・」

 

 「へー、本当にこの世界で魔法なんて使っちゃっていいのか?」

 

 「バレない程度に。ですよ?」

 

 「わかった」

 

 オレはその女からガイドブックと記載されている分厚い冊子を受け取った。

 だけどな・・・・・・正直な所、この世界に名残惜しいも何も無いんだよ。

 

 「ではまた一週間後にお会いしましょう」

 

 そう言って女神はオレが瞬きをした一瞬の内に居なくなってしまった。その瞬間に店内に人の気配がし始めた。

 

 「いらっしゃいませ!」

 

 なんだ、いつも通りの世界に戻ったのか。にわかに信じがたい話ではあったが、魔法まで使われたら信じるしかないだろ・・・・・・

 とりあえずプリペイドカードは買うのをやめ、いちごミルクだけを買って家に帰った。

 

 「さて、どうしたものか・・・・・・」

 

 今、非常に困っている状況だ。何故かって?

 ガイドブックのページが多すぎて読み切れないんだよ。

 六ページくらい呼んでみたけど、魔法の種類も豊富すぎてよく分からない・・・・・・

 

 「やっぱり、読むページを絞ろう」

 

 まず、目次を見て現世でも出来そうな魔法を探す。

 

 「お、これなんかいいんじゃないか」

 

 その名も『空間圧縮』。持ち物を異空間にしまうことの出来る魔法みたいだ。これでこの世界の物を持っていけば・・・・・・

 

 「そうとなれば魔法を習得だ」


  とは言ったものの────

 

 「なんだよ、どうやって魔力を溜めるんだ?」

 

 根本的な魔力を溜める事もままならなかったオレは、魔力についてのページを熟読した。

 そして三時間後・・・・・・

 

 「はああああああ」

 

 目を閉じて魔力を溜めることだけに集中。そして空間を意識して、空気を圧縮するイメージ・・・・・・

 

 『シュゥゥウウウウ』

 

 気持ちの良い音が鳴ると、机の上に置かれていたガイドブックが一瞬にして消えた。

 

 「出来たのか?」

 

 今度は空気を膨張させるイメージ・・・・・・

 

 『ポンッ!』

 

 またも気持ちのいい音をあげて、ガイドブックがいきなり姿を現した。

 

 「よし! これで第一関門はクリアだ」

 

 もう夜中の三時半か、とりあえず寝よう。

 これにて一日目終了・・・・・・

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