第5話 実習

魔術の詠唱を唱えるのが早いか、私は飛び出した。

人形の毛むくじゃらな四肢。すでに理性などない、獣。〈感染者〉。魔物のウイルスに当てられた者の末路。走りながら、左腕を伸ばし、ターゲットの心臓に銃口を合わせる。1発、2発。

「ぐ、グオオオオオオ!!」

咆哮、雄叫び。まだ、死んではいない。それに気付き、ニィと口を歪ませる。

たん、と、地面に着地。真ん前には、獣_魔物が。私を確認するよりも先に




      斬るッッッッッ!!



右上から左下へ。肉を斬る、異様な感覚。慣れてはいけない、感覚。手応え。

詠唱など、耳に入らなかった。かすかに聞こえていた、声は倒した頃にはもう、止まっていた。

私は後ろをちらりと見る。少々、彼女は機嫌が悪いようだ。

「勝手に先走らないでって、言ったよね!?」

「そのまま、殴った方が早いからよ」

「.....これだから、〈F〉は」

「勘違いしないで。私だけよ。他の〈F〉は関係ない」

なんで、そんなことを言っているのだ。別に庇う必要なんて、ないのに。

「メンバーには優しいのね」

「そうよ?そんなものよ、人って。でしょう?」

「否定はできないなぁ。そのとおり。

そういえば、さ、実樹さんとは、メンバーじゃないのよね?」

「ん。そうよ。実樹は取られちゃって」

「学園一の〈天翔てんしょう〉だっけ?すごいよね。あ、でも、〈天翔〉って〈F〉は取らないよね。」

「扱い難いし、自分の首を刈らせたくはないからでしょう。多分」

「ふーん。そんなもんなんか。」

「そう。〈F〉は特殊すぎた。だから、神様も、血を与え過ぎないようになった。人の身だと、あれはやりすぎだったから」

「よく分かってるんだね」

「ちょっと、ね」

目を伏せた。さすがに、これ以上言ってしまったら、まずい。神様にこんなこと言ったとバレたら、う、うん。最悪の未来を想像する。

「でもさ、支援ぐらいさせてよ?」

そう言われたが、

「私のとこ、白魔術師いないんだよね」

だから、慣れてないと言うと、彼女は、

「でも、実習は経験を積むためなんだから、慣れてかないとだめだよ?」

正論に言葉が出てこなかった。

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