人宛思話

佳祐

夢現つ





『さむい』

『ねむい』

『ねむいのです』

『まってるつもり』

『でもねてるかも』

 ひらがなの羅列に思わずくすりとする。『いいよ、おやすみ』と返し、携帯をしまう。そもそも、朝に強く夜に弱い彼女が、終電のこの時間まで起きていてくれていこと自体褒め称えたい。改札を出ると、雪は止んでいた。雪を踏みしめ、十五分の帰路を急いだ。




 階段を登りきったところで鍵を探る。

 さて、ちゃんとベッドに入ったか、待とうとしちゃってソファか。既に寝ているのを前提に予想を巡らせながら、かちゃんと鍵を開け、ノブを回す。

「ただいー…」

 まあ。玄関に踏み込んだところで固まった。気づいて開いたままのドアをそっと、後ろ手に閉める。前提は間違っていなかった。

「まあまあまあ…」

 見つけたのは、上がり框に腰かけて眠っている彼女の姿だった。手に携帯を握ったまま、横の壁に肩を預けて寝息を立てている。

「風邪ひくじゃんなあ…」

そう呟きつつ、つかの間見つめてその姿を目に焼きつける。

「…ただいま」

顔をよせてささやくいてみる。するとややあって、

「おかえりなさい…」

夢現ゆめうつつの頼りない声が返ってきた。目は開いていない。

 ゆっくりとベッドに連行した。しばらくくすくすと笑いが止まらなかった。



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