弛んだ甲馳

@macha16

第1話凛

祭の朝は早い。

午前4時、10月の最初の土曜日。

昨晩の前夜祭で飲まされた酒のせいで重い体を起こした政行は、シャワーを浴びに階段を降りた。

リビングには法被とパッチが用意されていて、それを横目に見ながら浴室へ向かった。

ほどなく悦子も起きてきてコーヒーをわかしている。

シャワーから出てきた政行に「おはよう」と声をかける。

「うん」とだけ答えて淹れたてのコーヒーをすする。


パッチを穿き法被に袖を通した政行に、法被の男は普段の5割増でカッコいいと惚れ直しながら年に、一度のこの朝を楽しんでいた。


「よしっ」

両の掌で自分の頬を叩き眠気を飛ばし気合を軽く入れた政行が立ち上がる。

玄関で使い込んだ足袋に足を入れて甲馳を留める。

政行はこの甲馳を留める朝を待ちわびていた。

一年の集大成が始まる。


玄関を開けると10月の冷たい朝の空気が心地いい。

一歩出て立ち止まる。

悦子が火打石を打つ。

何年も繰り返してきた祭の朝の小さな儀式だ。


凛とした空気に凛とした音が響いた。

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