The RoseQuartz①
夢を纏った体の奥から力が溢れ出して来て、Gloryの前で歌い続けるエキウムを抱えて飛び上がり、百の足を回避しながらgloryの周りで旋回を続ける。
間近で見るエキウムは息を呑む程に美しく、それでもって儚い雰囲気で歌い続け、こんな地獄の中でも楽しく歌っているように見える。
哀しみは降り注ぐ、顔上げて、哀しむのなら笑っていよう。
そんな歌詞の一部を聞いていると自然と顔を空に上げてしまって、なんの根拠も自信も無いのに、Gloryに対する恐怖すら打ち砕く。
「素晴らしい力よ乃音、ウラノスの遺産がそれだけ使えるなら問題無い。聞こえてるダリア、RIOTに招いて」
「えぇぇっ……でもシンの計画を壊した元凶だし、許してくれるかどうか分からないよ。今回は本当にすごく怒ってて、でも命令って言うなら仕方が無いけど」
「何か私が間違えた? 今までだって1度も無かったでしょ、それとも今回は間違えていると言いたいの?」
「いえ、そんな滅相もないです。予測演算でも問題無く……」
「ノイマンの脳を使うのは卑怯じゃない? あんな変態に見られるなんてまっぴらよ、私が帰るまでには追い返しておいて」
「会合に呼んだのはあなたですよ、私らも悪魔の相手するにはちょっと足りないんですから」
「待って、俺は何も分からないのに話を……」
「左手で防御壁を展開してから33度で降下して、そこから体を捻って瓦礫の隙間を抜けざまにエキウムを陰に隠して」
百足の尻尾がアプローチを変えて襲い掛かるが、指示通りに左手を突き出すと、出した事も無い魔法壁を展開することが出来て、凶牙が目の前で防がれる。
すぐさま次の指示である33度で降下を実行して、人がぎりぎり3人入る程の隙間に体を滑り込ませ、体を捻って百足の足を回避する。
瓦礫を砕く百足の足が過ぎ去ったタイミングでエキウムを下ろし、瓦礫の山から飛び出て次の指示を待つ。
「指示なんか待ってないで自分でやりなさい! 死にたくないんでしょ?」
「し、死にたくないです!」
「なら生きていなさい!」
「急にこんな事に巻き込んどいて、言ってる事が滅茶苦茶だ」
再び襲い掛かろうとする百足の尻尾を魔法壁で防ごうとしたが、勢いに負けて弾き飛ばされ、瓦礫に強く叩き付けられる。
落下する直前に背中に魔法壁が展開した為痛みはないが、この力で防げないのならもうどうする事も出来ない。
この力が切れるのが先なのか、格闘機が来て倒してくれるのが先なのか、見えない目標に向かってやる気力も勇気も無い。
このまま戦ってく事になるかもしれないのを考えると、そんな長い道を行くよりも、まだ間に合う逃げる道に行った方が、今まで通りの日々が取り戻せるんじゃないかと考えがよぎる。
「助けて……くださ、い……だれ、か……い……で、すか」
現実逃避を始めかけていた頃、突然か細い女性の声が聞こえ、咄嗟に顔を上げて周りを見回す。
近くにある半壊した建物の瓦礫を退けていると、鉄の棒が胸を貫通したお腹の大きな女性が、虚ろな目で俺の顔を見て、
「よか……お腹の、子だけでも……お願い、しまっ」
「うわぁぁぁ! だ、誰か……誰か居ませんか! 妊婦の方が」
「乃音!」
「は、はいっ……あぁ、ダリアさんと話してた人。良かった、妊婦の方が……」
「そんなの分かってる、貴方がお腹の中の子を取り出しなさい。その女性はもう助からないわ」
突然の無理難題に逃げようと右足を1歩引くが、女性の腕を掴む力が弱くなってきている事から、この声の向こうの人が言っている事は本当なのだろう。
でも赤ちゃんなんて取り出したことも無いし、まだそんな事に無縁の学生なんかに出来るわけが無い。
それでも逃げたくない我儘な自分が居て、その時は何を思ったのか、近くに落ちていた硝子片を拾い上げて、妊婦の女性のお腹に突き立て縦一直線に切り裂く。
ずるりと内蔵と共に出て来た胎児を受け止めてへその緒を切り離すと、掴まれていた腕から痛みがなくなり、ずるりと女性の腕が垂れ下がる。
その手を取ろうとしたが、腕の中の子どもが泣いていない事に気が付き、必死に泣かせようと背中をさする。
エキウムの歌がないからか、余計に不安になった頭は上手く回らず、変わらない状況に立ち尽くすことしか出来ない。
「不安な顔をしてどうしたの、怖いなら歌いながら行こう。この長い別れ道を、笑い合いながら」
突如隣から聞こえてきたエキウムの歌声に反応したのか、腕の中の子どもが産声を上げ、手を天に上げながら喜ぶように泣く。
「良かった、何がそんなに嬉しいの? 生を受けたこと、それともこの世界を見られたこと?」
「それは生まれられた事だよエキウム、だって……」
「こんなに酷い事は無いよ。昔の空は青くて、大地は緑だったんだよ。海には色んな魚が泳いでて、何より色んな人が楽しそうに歌ってたんだ。これは当たりなのかな、でもハズレかを決めるのは君だし、周りの環境なんだよ。だからこの歌をあげるね」
「エキウム……危ない!」
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