再生と汚染の世界
@mukuwarenai
プロローグ
薄暗い電灯が照らす部屋の中で、水が抜ける音がする。栓を抜いた風呂の様に流れる水の音、次いで聞こえてきたのは空気が抜ける音だ。
派手に水が飛び散る音を立てつつ、何かが床に倒れた。それは人・・・・・・否、人の様な何かだった。
「うっ・・・・・・」
床に叩きつけられた事で意識が覚醒し、僅かに身動ぎしてそれはゆっくりと起き上がった。
「・・・・・・私は・・・一体・・・」
床に広がる水溜まりに自分の姿が映る。
銀髪、いや白髪だ。長い白髪が生えている。老人と言う訳ではない、顔つきは若々しい。大体十代後半か二十代前半、凛々しく綺麗な凛とした顔つきをしている。皺も染みも一つもない、まるで産まれたての赤ん坊の様に肌に艶がある。無駄なく引き締まった身体付きだ、ある程度の筋肉が付いている。口から覗く鋭いもの、開いて見るとそれは鋭利に伸びた犬歯だった。それに自分の手も、爪が鋭く固く伸びている。
胸のふくらみ。自分は女だとそれは初めて自覚した。だがそれ以上に水に映る自分の姿で違和感なのは、頭から生えている二つの器官。それは「耳」だと見てわかった。違和感なのは、「耳」という器官は頭の上ではなく顔の横に付いているのではなかったのか?いやそもそも、自分はどうしてそんな事を知っているのだろうか?
わからない。自分がわからない。知らない事を知っているのに、自分の事がわからない。名前すらもわからない。
ふと気づいた。首に付いているのは、首輪だろうか?赤く「1」と表示されている。これは何なのだろうか?
ここで初めてそれは周囲を見渡した。自分が出てきたのと同じ様な物が後四つもある。透明なガラスに囲われたその中には不透明な水に満たされており、中に何かいるのはわかったが、それが何かはわからなかった。
床の上には雑多に物が散らばっている。その中に落ちている白い紙、拾ってみると何か難しそうな言葉の羅列が並べられていた。だが、それは書いてある言葉の意味を理解する事は出来なかった。言葉は話せるのに、言葉がわからなかった。
部屋を出ようと思い、それは扉を探した。左の壁に空いている人一人が通れる場所を通ると、それは初めて息を呑んだ。椅子にもたれ掛かる様に死体がある。死後かなり経過したのか完全に白骨化している。
「これは・・・」
白骨死体は衣服を着ている。白い白衣に紺のズボン。どの様な人物なのかわからないが、間違いなく自分と関係があるはずだ。それは白骨死体及び周囲を調べた。すると、白骨死体の白衣に顔写真が貼られたカードを見つけた。文字はわからないが、顔つきからは女性とわかる。セミロングの橙色の髪に眼鏡を掛け、柔和で人当たりが良さそうで、しかし強い意志を感じさせる眼をしている。
「あなたは・・・私の何かを知っている。死ぬ時まで、きっと私の事を案じていた。なら、きっとあなたは私に何かを残している。・・・何かはわからないが、いずれわかるのでしょう?」
白骨死体は答えない。
白骨死体のある部屋の扉を開けると、まばゆい光に包まれた。
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