愛に舞い、恋には月を

つきがせ

新月の夜

春風になびく君の髪。教室の窓からそよ風が吹き、桜が舞い散り、本のページがパラパラと風で捲られる。僕は君に見惚れて本を読む事を忘れてしまった。


「今日はどんな話をしようか?」


君はいつも、お話が好きだ。


「恋の話聞きたいな」


君は、瞳を輝かせて

「センスいいね」

と、グッドサインを前に突き出した。


「恋とは、沢山の色を持つんだ。

複雑な色の組み合わせでも、二人だと相性って言うこの世界にない二人だけの一つの色が開花するんだ」


「君の初恋の人は誰?」


驚いた顔はいつもおもしろい。


「びっくりするなぁ。そんな事聞かれるとは…そうだな」


左手で首を掻いて、えっーと。と首をかしげる。君は右手でスカートをぎゅっと握った。

少し、頰が色づいているように見えた。僕だけなのだろうか。

そっと君の手を握れば、また体をびっくりさせるだろう。

君の右手を優しく握った。思い通り、肩を上げてびっくりしていた。強く握りたいけど、潰れちゃいそうで怖いし、傷つけたくないと言う気持ちから。


「私は君の事好きだったよ。」


嘘だ。


「でもね。君とは恋人ではなくて、お話し相手。…そう!駄弁りが好きな男友達だと思っちゃったら恋人対象じゃなくなるんだよね」


「そ、そうなんだ。」


今更、好きだと言えない…。


「今は嫌い?」

唾を飲み、変な汗を感じた。思い切って聞いて仕舞えば自分が楽になるなんて思った自分が馬鹿だった。


「嫌いだよ。君の思う裏の答えに直せば、また反対になっちゃうよ。嘘と本音は君しだいだから私は気にしないよ。」


どっちなんだ


「好きor嫌い。君はどっちなの?」

やけくそだった。上手く思いを隠されているのか、表に出さず当てて欲しいのか、それともくだらない口実か。


「君が思うには私にとって痛いものかもしれない。その右手の愛情は嬉しいよ。でも、後悔しないためにお互い口を縫うことが第一かもね」


ずっとずっと君の事好きだったのに、感情が歪み、『嫌い』も『好き』もなくなった。

独占したいばっかりだった筈の今までが、自問自答している心情に自分では理解出来なくなる。


「壊れちゃいそうだ」

息苦しさに迷いが混じる。大嫌いだけど大好き?二択ではないのかもしれない。


「好きの裏返しには答えなんかないんだよ」


僕は息を吸い込み、時間をかけて吐いた。

「つまりは、僕の感覚はズレている。と」


君は、曖昧な言葉を操るのが上手くて話にしがみつくのが必死な僕を見て楽しむのだろうか。それとも、答えなど始めからないのか。


「愛という言葉にそれ以上の意味なんかないんだよ。だから、愛までだとゴール地点ね。

恋だと目隠しくらいよ。愛に布を被せたくらいのね。」


悩みに悩み、僕はとうとう笑えなくなった。

『君の答えに』


前向きに検討する事は止める事だった。僕が間違えだった。反省の色を塗って、顔に手を被せた。

君は最高の笑顔でこういう



「嫌いも好きも冗談だよ」



失笑で崩れ落ちそうな僕を助けて欲しいと願った。いい嘘と悪い嘘。

暗闇に浮かぶいつもの月。でも、今日は新月の夜らしい。


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