黒の桜花
夜佐
第0話 プロローグ
これはそう、世界を巻き込んだ戦争が二度ほどあった後――敗戦した日本が数十年の時をかけて復興を達成した時代の後の話である。
20世紀の誰もが、21世紀の空飛ぶ自動車型のタイムマシンや22世紀の猫型ロボットなど様々な空想に想いを馳せていたが、それらは一貫して科学の発達の延長線上であった。
だが、誰もが想い願った22世紀はその想いを裏切るような形で、しかし、何の変わりもなく訪れたのであった。
…そして、22世紀を迎えてから十数年後。
世界は、人々を襲う魔物が跋扈し、純粋に力ある者が力なき者を虐げるような混沌としたものと化してしまっていた。
後者の理由は至極単純で、人間だから。
しかし前者含め、このような世界になってしまった最も根源的な理由について、誰もが同じ答えを口にするであろう。
"魔素"
22世紀初頭当時は正体不明のエネルギー粒子と言われていたが、実際には粒子ともまた違う、暗黒物質が突如として地球中に蔓延したのである。
魔素はあらゆる科学の結晶を否定するかのように、世界に牙を向いた。
22世紀以前の電子機器――旧電子機器は、悉く使用不可能となり、インターネットは無論、自動車、飛行機、全てが使えない次代となってしまったのだ。
2201年当時は魔素に対応した電子機器がいくらか復旧していたが、航空・航海手段はとある理由から復旧が諦められた。
また、魔素発生と同時期に生物を襲う生物が出現するようになる。後にそれは魔物と呼ばれ、世界的な人口の減少を促した。
一方で、人間側にも異変は生じ始める。突如として魔力と異能を持つ人間が生まれるようになったのだ。
魔素発生の22世紀以降は、人類は得た力で争いと格差を生み出し、元々世界に何百とあった国々は統合が始まる。
――アメリカ大陸全土に及ぶ連合国家、アメリカンユニオン
――ヨーロッパ大陸の王による統一国家、ヨーロッパ王国
――アジア大陸全土を共同支配する最大級の国家、アジア連邦
――アフリカ大陸の同盟国家、アフリカ同盟
――大洋州及びオセアニア大陸、旧東南アジア島嶼部を含めた連合国家、オセアニア連合国
では日本はどうなったのか。
日本、いや、旧日本は魔素の発生よりも前から、北海道区・東北区・関東区・中部区の東側と、近畿区・中国区・四国区・九州区の西側に割れていたという。
何世紀も前から変わらず首都・新東京を中心地として内閣・国会・裁判所の政治体系を維持し続けている東側は日本公国と呼ばれ,一方で旧名広島の帝都、西宮を中心地として皇族の姫と貴族家の存在する政治体系を持つ西側は大和皇国と呼ばれた。
日本が割れた原因は碌に魔物対策ができない政府上層部の腐敗や外国の陰謀論など諸説あるが、真実は定かではない。
しかし、旧日本が割れた21世紀の中頃、秘密裏に東京から脱出していた皇族を名乗る者が旧日本政府上層部による数々の陰謀や汚職、さらには自身の暗殺を暴露し、それと同時に脱出時に助力をした9人と共に日本帝国政府の樹立を宣言した。
東西に分かれて数年後以降は内外に小さな小競り合いはあったものの、脅威が主に魔物のみであったことから、全ての鬱憤は大抵魔物へ向けられていった。
しかし、東西分割の何百年と経過した2518年、日本全土を巻き込む、一つの大きな戦争が起こる。
そして時は流れて。
様々な困難や戦いを経て再統一を果たした日本国には,後の世にも語り継がれゆく3つの名が存在する。
1つ、「日本国統一の象徴――"
1つ、「日本国統一の英雄――"聖騎士"アルト=タツキ」
そして最後、
――「日本国最後の暴君――"魔王"シンヤ=トウドウ」
これは、再統一された日本で魔王と語り継がれることとなる少年の歩んだ道を記した物語。
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