ヴェンデッタ

アルベロ

第1話

凶悪殺人鬼が逮捕された。電車の中で刃物を振り回し、56人を殺害したという、17歳の高校生、佐竹唯識。そんな猟奇的な事件は、全国ネットで一瞬にして日本の全国民、そして世界へと伝わった。


 目の前に凶悪殺人鬼、佐竹唯識がいるという現状で、田中政志は刑事という職業ながらも、少しだけ恐ろしさを感じていた。それに対し、隣に座るもう1人の刑事、田中より年上の吉川直忠は慣れた顔つきでずっしりと腰を下ろしていた。


 すでに取り調べが始まり数時間が経っているその部屋には、不穏な空気が漂っていた。そんな中、唐突に吉川が口を開く。


「結局のところお前はなんで人を殺したんだ。早く吐け」


「だから、何回も言っている、でしょう。夢のせいなのです」


「それが意味不明だと言ってるんだ!」


 佐竹はビクともしない。


「はぁ、もうこいつはダメだ。何も吐きやしない。こんな取り調べ、終わりだ終わり。俺は先に外に出ているから、後のことは頼んだぞ、田中」


「え、ちょ、ちょっと」


 吉川は椅子を乱暴に引き、大股で部屋を出ていった。


「う、嘘でしょう…」


 またもや不穏な空気が漂い始める。しかし、この2人きりの状況は、田中にとって好都合だった。なぜなら田中は、実はずっと佐竹と2人で話しがしたいと思っていたのだ。吉川がいる場所で話せば、きっと邪魔をされ、止められるに違いない。先輩だからという理由で追い出せずにいたが、吉川が勝手に出ていってくれたため、とても好都合だ。


「佐竹、聞きたいことがある」


 佐竹は反応しない。はじめに会った時からそうだった。なんの感情も感じさせない、まるで人間の言語がわからない虫のような、そんな感じだった。


「夢って、なんなんだ」


 佐竹が不意に目を見開く。初めての反応に田中は少しだけ怯んだ。


「私の話、を、聞いてくださるの、ですか?」


「あぁ、初めからずっと気になっていたんだ。お前は夢のせいで殺人をしたと言ったな。それは一体どういうことなんだ。その夢っていうのは果たしてどんなものなのだ」


「そう、ですか。聞いてくださるの、ですか」


 佐竹が歪な微笑みを浮かべる。ぞっとするような不気味な微笑みは、田中に身震いをさせた。


「約1ヶ月くらい前、でしょうか。ある不思議な夢を見るようになったのです。それ、は、自分が人間以外の生き物、に変わっているというもの、です」


それから佐竹は、事の顛末を事細かに話し始めた。

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