第96話 緑と竜
「お母さん、ただいま!」
その後、近づいてきていた魔物たちを振り切り無事に拠点へとたどり着く。もちろん魔物たちを振り切った時点でルイちゃんのお姫様抱っこも解除済み。あれはあくまでも緊急避難的なもので私の趣味嗜好とは一切関係ない、ないったらない。
拠点を囲む柵の壁が見えてくると、快く送り出してはくれたもののやはり心配していたらしくマチさんがすぐに出迎えてくれた。私たちが帰ってくるのを気にしていたのだろう。
西門を抜けると同時に駆け出して飛び込んできたルイちゃんをマチさんは優しく抱き止める。
「おかえりなさいルイ。ちゃんとできた?」
「うん!」
「マチさん、ありがとうございました。ルイちゃんのおかげでいろいろ助かりました」
誇らしげに頷くルイちゃんをよくやったわねと褒めているマチさんにお礼を言うと、私はウイコウさんとその場を離れる。拠点広場はうちのメンバーと六花のメンバー、そして助け出した村人たちが集めた素材でいろいろやっているので、向かうのは小屋の脇にある貯水池だ。
「お疲れ様アオ、変わりはない?」
『問題ない』
「うん、警備ありがとう」
池のほとりで警備をしつつ甲羅干しをしていたアオを労うと、お互いに釣り用の腰掛け椅子を取り出して座る。で、どうせ池の近くに座るならと釣り竿も取り出して釣り糸を垂らす。
「……ウイコウさん、さっきの話なんですが」
「まずは聞こうか」
「はい」
同じく釣り竿と取り出して糸を垂れたウイコウさんと肩を並べながら、このイベントが始まってから気が付いたことを思い返しつつ口を開く。
「まず、最初に気が付いたのは魔物が汚染されているということです」
「通常よりも少し強化されている可能性があるんだったね」
「はい。おそらくですが、この汚染が原因で魔物たちはリュージュ村を襲撃したんだと思います」
「そうだろうね」
「つまり、この森の中央付近には魔物たちを汚染するような何かがある。これが今回の事件のキーなのは間違いありません」
つまりこのイベントのストーリーを進めていった場合、最終目的はその汚染源をなんとかすることだと考えられる。
「汚染源がもし村の中央にあるとするなら、その事情を知っているのは今も謎の病状と戦っているミスラさんでしょう」
「そして彼女を救うためには……おそらくこの今回得たこの森特有の新素材。そしてそれを調合することが出来る知識のある者が必要だろうね」
「はい、森で身を隠している村人たちを助けるタイムリミットは、モックさんが示唆していたことを信じるなら5日目まで。安全を考えるなら明日をリミットとした方がいいと思います」
「うん、そうすると探索範囲が広がっていることも考えて、今日探索に出ているアルとミラの結果が重要になりそうだね」
「はい」
水面を静かに揺れうごくウキを眺めながらこのイベントについて改めて考えてみる。
本来ならこのイベントは召喚されてきた夢幻人たちで手分けをして取り組むべきものだと思う。単純に思いつくだけでも、探索をする班、村人を助けて村へと護衛する班、拠点を強化する班、素材を収集する班みたいに人手があればもっと余裕をもって進めることができたはず。だけど私のグループは私たちと六花のパーティしかカラムさんの依頼を受けていない。
チートじみたリイドの住人と四彩のおかげでなんとかなっているけど、夢幻人だけの2パーティ12人だったら全員が攻略組に所属しているくらいじゃないとムリゲーじゃないかな?
「あとはもう少しこの森とリュージュ村の背景を知っておきたいね」
「背景、ですか?」
「ああ、コチくんも気が付いていると思うが、新素材の名前や村の名前。さらに村に恩恵を与えていたという樹。そして村の人たちが身に付けている装身具、全てが過剰なくらいに2つのキーワードを示唆している」
これだけあからさまなら、ウイコウさんは余裕で気が付くか。
「はい、ひとつは『緑』。そして……『竜』ですね」
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