第87話 要救助者発見

 結構シリアスな展開のイベント中にも関わらず、親方のところがちょっと体育会系ではあったが、全体的にどこかのんびりとした雰囲気の中で進められた、ものづくり指導。

 状況に変化があったのは二時間ほどが経過した頃だった。


『コチ、探索組が両方とも村人を見つけたみたいよ』


 私の肩をたむたむと叩いたクロが伝えてきた思念は、私が待ち望んでいたものだ。


『状況は?』

『そうね、疲労はしているけど深刻な怪我とかはしていないみたいね。どうする? 連れて帰らせる?』


 アルとミラが今日探索した場所をマップで確認するが、昨日モックさんを見つけた場所よりもさらに遠い。この位置への転移はMP的にぎりぎりだし、復路まではまず無理。しかも二か所となれば私たちが迎えに行くのはかえって効率が悪い。


『まずは村の人たちを預けてあるポーションや食料でケアしてもらって、動けるようになったら村人を護衛しつつ帰還するように伝えて』

『…………伝えたわ。ただ、二人ともご褒美にお酒を要求しているわね』


 ん~、昨日アルに酒を渡したのは失敗だったか。村人見つけたらお酒がもらえる的な流れを作られてしまった。まあ、今回参加を見送ったゼン婆さんから辞退したお詫び兼アルの操縦用にこっそりと持たされたお酒は、実はそれなりの量があるから一晩一瓶くらいなら余裕なんだけどね。


『仕方ないからお酒は出す。そのかわりちゃんと村人をここまで護送することと、午後からの探索も手を抜かないことって伝えておいて。帰還中に要救助者に怪我でもさせたらここを出るまでお酒は抜きってことで』

『わかったわ…………ふふ、さすがねコチ。二人の眼の色が変わったわよ、これならしっかり働いてくれそう』


 猫の姿なのに妙に艶っぽく微笑むクロはどこか楽しそうに見える。クロは元々国一つを惑わせて滅ぼせるような能力の持ち主、そのクロにしてみれば今私がした『馬の鼻先にニンジンをぶら下げる』程度の人心掌握術なんて児戯にも等しいだろう。

 でも逆にクロにとっては、その程度のやりとりで気安く動いてくれる私たちの関係性が面白いのかも知れないけど。


 さて、今回アルとミラが村人を発見したのは、両方とも昨日モックさんから教えてもらっていた魔物から隠れやすい場所だ。

 ということはゲーム的に考えるとモックさんの情報が一種のフラグだった? もしかしたらモックさんの情報がない状態で、同じ場所に行っても村人を見つけられない可能性もあったかも知れない。


「っと、そんなの関係ないか。人の命がかかっているんだから『村人を助けられた』、それでいい」

『……ふふ、何を考えていたのかは知らないけれど、相変わらずお人よしね』


 クロがごろごろと喉を鳴らしながら楽し気な思念を送ってくるが、別にお人よしというほどのことはないと思うんだけど。


『その顔で、あなたがなんて考えているかはなんとなくわかるけど、いまここにいる夢幻人は……たったの7人よ』

『あぁ……なるほど、そういうことか。他の夢幻人は狩りを主体にしているからね……えっと、クロは私も他の人たちみたいにすればよかったと思う?』

『戦闘バカな赤鳥じゃあるまいし、わたしはそんなこと思わないわ』

『あはは、それは酷いなぁ。多分だけどアカもそんなこと言わないと思うよ』

『ふふ、分かっているのなら聞かないことよ』

「あっ」


 クロの切り返しにやられたと思って意図せず声が漏れる。見事に一本取られてしまった。

 でもそれは同時に嬉しくもある。なぜなら、クロが教えてくれたのは今回の私がした判断は、あえて聞くまでもなく皆が肯定してくれるということだったから。


 私はお礼の意味を込めて優しくクロの頭を撫でると、せっかく支持してくれている皆の期待を裏切らないようにこれから動きを考える。


 村人を救出したアルとシロ,ミラとアカのコンビは村人を連れているとは言っても昼頃には戻ってくる。さっきの推測が正しければ助けた村の人たちも何かしらの生産スキル持ちのはず。

 多分だけどお願いしたらモックさんと同じで六花の人たちへの指導を引き受けてくれると思う。そうすれば午後からは私も素材を探しに周辺の調査に行ける。


 私の予測では、ミスラさんを助けるためにはこの森で手に入れることができる新しい素材で、新しい薬を作らないとダメな気がしている。

 となると、ウイコウさんが今回のメンバーにゼンお婆さんを入れようとしたのはさすがとしか言いようがない。アルのバカが行きたいと駄々を捏ねさえしなければ、もっと早くにミスラさんを助けてあげられたかも知れない。


 でも……弟子としてはゼンお婆さんの信頼を裏切るわけにはいかない。だから絶対にミスラさんを助ける方法を見つける。となれば……


「よし、アルたちが戻ってくる前にちゃっちゃと伐採を終わらせますか」

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