第85話 リュージュ村


 

「そうです、上手ですよミルキーさん。木材を加工するときは常に木目を意識するのがコツです。切るときも、削るときも、曲げるときも、接ぐときもです」

「むぅ……木目に集中しすぎてなんだか全部がにょろにょろして見えてきたかも」

「あっはっは! いい傾向です。その調子で頑張ってください」

「くぅ~! のほほんとした顔して意外と鬼だね、モックのおっちゃん」

「なんのなんの、【木工】が楽しくなるのはこれからですよ」

「うへぇ」


 いつから指導を手伝ってくれていたのかはわからないが、ちょっと話を聞いただけでもモックさんが【木工】が『出来る人』だというのは分かる。

 とりあえず楽しそうに作業をしているモックさんとミルキーさんはそのままに、ちょうど彫金の指導がレイチェルさんの作業待ちになったファムリナさんへと近づく。


「お疲れ様です、ファムリナさん」

「お疲れ様です、コチさぁん」

 

 少し離れた場所から一生懸命にに作業をしているレイチェルさんをにこにこと眺めていたファムリナさんに後ろから声をかけると、ファムリナさんらしくゆっくりと振り向いてくれた。ただ振り向くだけでもたゆんと揺れる果実はなるべく意識しないようにする。


「ミルキーさんを指導しているのはモックさんですよね」

「はい、わたしがレイチェルさんとお話しをしている間にいつの間にか~です」

「……結構お上手ですよ、ね?」

「そうですね~、基本はしっかりしています。ただ、この森特有の素材でもあるのか、少し変わった技術もお持ちのようなので、総合的に見るとコチさぁんよりも少しだけお上手かも知れませんね~」


 だとすると、私の【木工】レベルは7だからそれよりも上か。武器スキルなどの一部のスキルはレベルが10になると上位のスキルに置き換わったりするが、リイドの達人たちの話を聞くと生産系スキルのレベル上限はもっと上にあるらしく、上位スキルにするには長い研鑽の日々が必要らしい。


「私たちのリュージュ村は、隔離されたこの古の森にある唯一の村です。だから全てを自分たちだけで賄う必要がありますから村人たちで手分けしていろいろな技術を承継しているんですよ」

「あ、モックさん。お疲れ様です」


 どうやら【木工】の方もひと段落ついたらしくモックさんが汗を拭いながらこちらへと近づいてくる。そして、ひょんなことから発覚した中央にある村の名前、どうやらリュージュ村というらしい。


「ということは~、リュージュ村の人たちは生産技術に長けていらっしゃるんですね~」

「長けているのかどうかは、比較する相手がいないのでよくわかりませんが……とりあえず生活に必要なものなら、不便がない程度のものは作れます」


 モックさんの話によるとそれぞれで担当している技術が異なるようで、モックさんは【木工】が担当でライとルイの両親は父親が【鍛冶】で母親が【裁縫】を担当していたらしい。


「だとすると、今回の件でその技術を持つ村の人たちになにかがあれば、今後の生活に支障が出る可能性もあるんじゃないですか?」


 技術を個人が担当しているということは、その人がいなくなってしまったときにその技術そのものがなくなってしまうということ。きちんと後進に技術を伝えていれば問題ないのだろうが、少なくとも今回の件では突発的な災害のようなものだったはずで、間違いなく全てを伝えている暇はなかっただろう。


「そうですね、技術を持った者は生き延びなきゃいけないことを自覚しているとは思います…………ただ、もし最悪の事態になってもせめて遺品だけでも回収できれば」


 モックさんの最後の方の言葉は聞き取りにくかったが、そう言って顔を伏せたモックさんの視線の先はなぜか地面ではなく……自分の右足首? 確かそこには緑石が嵌まったアンクレットが……


「あの……」

「お~い! モックのおっちゃ~ん! ここのところの接ぎってこれでいい~?」

「あ、今行きますからそのままでお願いします。すみませんコチさん、ミルキーさんに呼ばれたので行ってきます」

「あ、はい。お願いします」


 そのことについて聞こうとしたタイミングで、モックさんはミルキーさんに呼ばれて行ってしまった。

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