第76話 拠点化計画
「ファムリナさん、親方。私が街で買った携帯用の細工セットと鍛冶セットがあるんですが、拠点に役立つものってなにか作れます?」
ファムリナさんと親方に質問しつつ、現物をログハウスの前に設置する。携帯細工セットは工具にプラスして作業台に彫金などに必要な研磨や研削の魔導具が付属してあり、携帯鍛冶セットは工具プラス簡易の炉や金床。どちらも携帯用生産設備セットとしては中級者が使うレベルだからファムリナさんや親方には物足りないだろうけど、最低限の作業は出来るはず。
「そうですねぇ、素材さえあればいくつか役立ちそうなものは頭に浮かびますぅ」
「本当ですか。素材はなにが必要ですか?」
「えっとぉ、コチさぁんは『聖域』の魔法を使えましたよね」
「あ、はい。使えます」
「それならぁ、マンティコアの魔核を使って簡易の『聖域』を発動する魔道具を作ろうと思いますぅ。持続時間を長くするために効果は弱めになりますが、数を揃えて拠点を囲むように設置すれば、ある程度の対策にはなると思いますぅ」
『聖域』は魔物の侵入を防ぎ、中にいる者たちの気配を漏らさないという結界の魔法。野営用のテントなんかに似たような効果のある魔道具はあるらしいけど、それなりにお高いようで中堅プレイヤーがパーティ共用でようやく購入を検討するというレベル。それをあっさりと量産するとか言えるファムリナさんに、私はまだまだ追いつけそうもない。
それなりに強い魔物からしかドロップしない魔核も、高性能な魔道具作成には欠かせないアイテムで本当ならとても貴重なものだけど、グロルマンティコア戦で取り巻きとして召喚されたマンティコアを一掃したときに大量にゲットしているので使ってもらうことに支障はない。
「俺は鍛冶屋だからな、武器や防具は素材さえあれば作れる。あとはこの辺りに畑でも作るんなら農具なんかも作ってやれるが……拠点防衛と言われるとな」
「ですよね。それなら、この広場と小屋一帯を柵で囲もうと思っていますのでウイコウさんと一緒に手伝ってもらえますか」
「おう、いいぞ」
「ありがとうございます。えっと、まずは……ファムリナさん。マンティコアの魔核は作業台に出しておきますね。他になにか必要ですか?」
「そうですねぇ、魔樫はまだお持ちですかぁ」
「魔樫? えっと確かリイドで定期的に伐採していたので丸太数本分はあったと思います」
「それならぁ、1本ください。魔核を魔道具化するときの術式はそちらに刻んで魔核と連結して、杖のような形に仕上げて地面に刺せるようにしますから」
「なんか凄いものができそうですね。じゃあ、魔樫もここに置きますので、私の魔法が必要になったら声をかけてください」
はぁいと気の抜けるような返事をするファムリナさん。小柄な体格とほんわかとした雰囲気につい小さい子のように感じてしまう。でもファムリナさんはエルフなので多分私よりもずっと年上のはずで、本当はもっと年長者として接しなきゃいけないんだけど……ついつい見た目に引っ張られてしまって結構難しい。まあ、ファムリナさんは普通に接してもらった方が嬉しいみたいだから別にいいんだけどね。
そもそも大地人はゲームのキャラだと割り切ってしまえば、年齢なんてキャラ設定のうちのひとつということになって、データ上の年齢に重みなんか感じなくなるんだけど……でも私にはこの世界の人たちをただのキャラとはもう思えないから、そこはちゃんと相手に応じて礼節は尽くしたいし、TPOも弁えたいところ。
「それじゃあ親方、始めましょうか」
「うむ」
親方とふたりで広場の端まで移動して、まず農地開拓クエストで伐採した大量の雑木を出す。計画としては、これを長い杭に加工して周囲に打ち込んでいく予定。
「どのくらいの高さにすればいいと思います?」
「そうだな、防衛の要はアオ。補助としてファムの魔道具。ならば柵は足止め程度でいいだろう、時間と人手があればしっかりしたもんを作りたいところだがな」
「なるほど。となると2メートル、じゃ低いか。3メートルほどの杭を30センチ間隔で並べて壁がわりにしましょう」
「結構な数になるが杭の作成は?」
「大丈夫です、今回は実用性重視ですから。長さと太さを大体揃える程度の加工ならすぐにできます」
「打ち込みはどうする?」
「あ……」
そうか、地上3メートルの杭を打つなら防柵の役目を考えても地中に1メートルくらいは打ち込みたい。でも4メートルの杭を上からハンマーで叩いて1メートル打ち込むのは難度が高すぎる。となるとあとは地面を掘るしかない。
でも普通のシャベルで穴を掘るのは手間だし、1メートル掘るにはすり鉢状に広く掘らなくちゃいけないから無駄が多い。
……こういうときは『あれ』が便利なんだけど、親方なら作れるだろうか。
「親方、本業の方で作って欲しい物があるんですが」
「ほう、構わんぞ。なんだ」
「はい、作って欲しいのはポストホールディガーです」
「ほほう? なんじゃそりゃ」
親方の髭もじゃの顔からこぼれ出た言葉には、聞いたことのない言葉に対する疑問と同時に未知の物に対する好奇心が溢れていた。
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