第68話 メンバー決定

「……森の中ということは、長柄武器が主体のガラさん、重量武器が主体の親方、体も武器も大きいコンダイさんは今回見送った方がいいかも知れません。似たような理由で広範囲攻撃が得意なエステルさんもあまり向かないと思います」

「そうね、わたくしの魔法では威力がありすぎて森がなくなってしまうかも知れませんわ。残念ですけど、今回わたくしの出番はなさそうですわね」

「すみません、本当はエステルさんが一緒の方が心強かったんですけど」

「い、いいのよ。別に……助けを求められて行くんだからなるべくベストのメンバーを揃えるのが当然よ。そ、それに森の中とかわたくしの肌に合いませんし……わたくしがいなくてもしっかり頑張ってらっしゃい」

「はい、おみやげになるようなもの、探してきます」


 ちょっと頬を染めてぷいっと顔をそむけるエステルさんに、ほんわかしているとウイコウさんから続きを促される。


「となると……探知、探索、小回り全てにおいてスペックが高いミラは確定ですね」


 レンジャー系のスキル構成で猫系獣人のミラにとって、今回のフィールドはまさしくホームのはず。


「うにゃ? ふふん、コォチがそこまで言うなら一緒に行ってあげるか」


 一番に名前が出たのが嬉しかったのか、控えめな胸を張って耳を立てているミラ。ちょっと偉そうだが、今回に関してはその通りなので突っ込まないでおく。話が進まなくなるしね。


「いいね、次は」

「精霊魔法と弓が得意なファムリナさんなら、森の中でも後衛を務められると思います」

「あら、わたしですかぁ。コチさぁん」

「はい、一緒に来てもらえますか?」

「ふふふ、もちろんですよぉ。街をでるのは本当に久しぶりなので楽しみです」


 ファムリナさんは【木工】、【細工】、【宝飾】の師匠でもあるけど、【精霊魔法】と弓も達人級。勿論才能と努力があってこその実力だろうけど、エルフという種族の特性もその強さに一役買っているのかも。


「よろしくお願いします」

「そうだね私でもそのふたりは外せない。他はどうだい?」


 う、実はここからは結構難しい。森の中ということでミラとファムリナさんは即決だったけど、あとは……。

 いやいや! 使えないとかそういう意味じゃなくて、ぶっちゃければさっき外したメンバーだって並みの達人じゃないから、多少相性が悪くても普通以上に活躍できるメンバーだ。だから私が悩んでいるのは人材が優秀過ぎて選べないってことなんだよね。


「あとは希望者を募ってもいいかと思いますけど……あ、回復役ヒーラーがいた方がいいですよね。そうするとレイさんか、メリアさん?」

「私かい? 前衛としてなら役に立てると思うけど回復役としてならコチさんがいれば、私が出来る程度の回復は十分だと思うよ」


 確かにレイさんに前衛をやりながら回復役をやらせるのはちょっと違うか。戦闘終了後に回復するのはポーション類を持ち込めばいい。


「私ですか……コチ殿と一緒に行きたいのはやまやまなんですけど、現状6時間も神殿を空けるのはちょっと」


 おっとこっちもだった。まだ教えてくれないけど、メリアさんは長く神殿を空けたくないみたいなんだよね。グロルマンティコア戦みたいに比較的近くで、リイドと連絡がつく状況だったらまだいいみたいだけど、今回のフィールドは一種のダンジョンでゲーム内時間より加速された場所なので、イベントに参加していないフレンドとかに連絡が取れなくなるはず。その状態で6時間はちょっと厳しいか。


「となると……回復は私が魔法と薬の投擲で担う形ですね。だとすると瞬間回復量にちょっと不安が残るので、しっかりとした壁役タンクがいてくれた方がいいです。ドンガ親方、やっぱりお願いできますか」

「ふん! 遠慮なんかすんな坊主。任せとけ」


 親方が厚い胸板をどんと叩いて白い歯を見せる。親方もずっと鍛冶ばかりしていたから、戦いに飢えているのかも。親方は大きな戦槌を使う達人、重量武器とは思えないほどに軽々と戦槌を操り敵を粉砕していくスタイル。私が見たのは兎戦だったけど、親方の戦槌に押しつぶされた兎はせんべいのようになっていたっけ。


 これで前衛、遊撃、後衛が決まって、私の役どころは回復よりの支援職。とすると、あとはもうひとりアタッカーを増やすか、もしくはニジンさんの召喚獣で手数を増やすというのもあるな。ただ、召喚獣は呼べるっぽいので四彩は連れていける……この時点で既に過剰戦力だな。


「コチ君、私が話を振ってキミに考えさせておいて申し訳ないんだが、私の方で二人ほど選ばせてもらっていいかい」

「あ、勿論です。パーティとしての戦力はすでに十分ですから、多少森と相性が悪くても全然問題ないです」

「すまないね、ちょっと思うところがあってね」


 ウイコウさんが思案顔をしながら白い顎鬚をしごく。なんというか、そんな仕草がなんともさまになる。まさにダンディなおじさま、リアルにこんな人がいたら若い女性に激モテしそうだ。

 でも、策士でもあるウイコウさんがあえて指名したいメンバーって誰だろうか。


「いえ、構いませんよ。それで誰を指名するんですか」

「ああ、ひとり目は……私だ」

「え! ウイコウさんが一緒に来てくれるんですか」


 ちょっと驚きだ。でもウイコウさんは内政と軍略の達人で拠点強化と作戦立案がメインと思われがちだけど、戦いの方も魔法と剣技をオールマイティに使いこなす熟練の魔法剣士だったりするので、前衛の火力が増すのは勿論のことだけど、イベント中は外と連絡が取れなくなるという状況下で、リアルタイムにウイコウさんの助言が聞けるのはありがたい。


「お邪魔でなければ今回は参加させて欲しい」

「邪魔だなんてそんな。ウイコウさんが来ていただけるなら心強いです。でも、なんか理由があるんですか?」


 ウイコウさんは髭をしごきながら頷く。


「実は、異界神の神託から引き起こされる災厄については、古い文献にいくつか記されているんだ」


 このゲームが始まってから、大きめのイベントは確か虐殺スローター系の魔物襲撃イベントが1回だけだったはず。夢幻人の設定もそうだったけど、ゲーム関連のシステムやイベントはこの世界に昔からあったという歴史背景になっているらしい。


「それによると、異界神の神託によっておこる災厄は異界神の遊戯だと言われていてね。災厄に関連した人たちにとっていろいろ不思議なことが起こったりするらしい。となるとどういったものなのか一度自分の目で確認しておきたいと思ってね」

「なるほど……」


 確かに運営が設定した遊戯ではあるので間違いじゃない。不思議なことというのも、不自然なくらいに湧く魔物とか、経験値が入らないとか、入手したアイテムが最後には消えるとか、あとで報酬アイテムが貰えるとか、そういうことだろう。あ、特設フィールドに転送されるとかもそれに含まれるか。


「わかりました、是非同行をお願いします。それで最後のひとりは誰ですか」

「助かるよ、私としても未知の体験だが、それなりに役に立てると思う。それで最後のひとりなんだが」


 ウイコウさんが巡らす視線の先でアルが俺! 俺! と自分の顔を指さしているが、ウイコウさんの視線は止まらずある人の前で止まった。


「ゼンさん、御足労願えないだろうか?」

 

 え! ゼンさんって……ゼン婆さん? 確かにゼン婆さんも勇者級の力を持っているけど、それは調合や毒術、錬金術などの分野。戦いにはあまり向いていない、というか戦えないんじゃ……


「ヒッヒ、こんな老いぼれをご所望かい、ウイ坊や」

「ご謙遜を。まだまだ現役でしょうに」


 おおぅ、いつも目をつむっているように見えるゼン婆さんの目が片目だけ僅かに開いて、きらんと光ったような気がする。


「ちょぉっと待ったぁ! おいおいウイコウさんよぉ! ここは俺の出番じゃないのか? 俺ならいろんな武器を使いこなせるからどんな場所でも戦えるし、盾だって使えるから壁役もできる!」


 話がまとまりそうになったところで、今回のメンバーに選ばれなかったアルが飛び出してくる。


「アルレイド、キミの主張は間違いではない。だが今回に限っては必須でもない、他のメンバーで十分代用が効くからね。それならばここでさらにパーティの近接攻撃力を上げるよりも、古の森という未知の環境下の植生をなるべく早い段階で知ることの方が、今回の災厄においては我々の益になると考えたんだよ。森という環境を甘く見ているようなメンバーはここにはいないと思っているんだが?」

「うぐ!」


 さすがはウイコウさん、一分の隙もない。


「で、でもようほら、コチが俺と……な? そうだよな!」


 そんな縋るような目で見られても、今回に関してはアルの言い分はただのわがままにすぎない。私が強く同行を主張すればウイコウさんなら聞き入れてくれるような気もするが、アルとだけなぁなぁという訳にはいかないだろう。


「私はウイコウさんがいいと言ったら。と言いましたよ、男に二言は?」

「うっ…………ない」


 昨日ホームで話した内容を思い出したのか、アルはがっくりと肩を落とす。かわいそうだが、私にとってはゲームだけど大地人にしてみれば命がかかっているんだから、慎重に計画を立てざる得ないのは仕方がない。


「ヒッヒッヒ、連れていってやったらどうだいウイ坊や。わしのような老人を無理に連れ出すもんじゃないよ」

「ゼンさん。そういう問題では……」

「ヒッヒ、わかっているよ。だがね、コチにはみっちりとわしの知識を叩きこんである。未知の植物があってもうまくやるだろうよ。現場で知らないものをどう扱うかという勉強にもなるだろうさ」

「ゼネルフィン! くぅ~しわくちゃなくせにいい女だぜ! いてっ!」

「こりゃ、しわくちゃは余計じゃ!」


 アルの失礼発言に持っていた杖で報復攻撃を加えたゼン婆さんは、ちらりと私の方へと視線を向けた。うん、わかります「できるじゃろう?」という無言のプレッシャーですね。女性から頼られて(?)応えられないのも不甲斐ないですし、自信はあまりないですけどやってみますか。


「コチ君、どうだい?」

「ウイコウさんがいいなら、それで構いません」


 私の言葉に小さな吐息を漏らしつつ頷いたウイコウさんは、頭を押さえてうずくまっているアルに声をかける。


「アルレイド、今回はゼンさんの意向を汲んで同行を認めてもいいが、ひとつ条件がある」

「マジか! やったぜ! 連れていってもらえるんなら条件の一つや二つなんでも言ってくれ」

「今回の災厄は現地の情報がないため、正直何が起こるかわからない。そんな状況でお前に勝手に動かれるのは困る。期間中は勝手に行動することは禁止、必ず私かコチ君の指示に従うこと。それが約束できるなら同行を認める」

「おう! わかったぜ! 任せておけ」


 ろくに考える素振りも見せずに承諾するアルに、正直不安しか感じないが……まあ仕方がない。とにかくこれで、イベントに参加するメンバーは決定だ。

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