第37話 対策

「君ならそう言ってくれると思っていたよ。まず、転職をするのは最後にしよう。ここに来た夢幻人は大概が数日でこの街を出ていくが、滞在できる限界時間はもっとずっと長い。その期間を使って、上がりにくいスキルを少しでも育てると同時にスキルとステータスに頼らない立ち回りと戦い方を学んでほしい」


 ウイコウさんの提案は、この街の時間が何倍になっているのかは分からないけど、引き延ばされている時間を有効に使ってプレイヤースキルを磨きつつ、少しでもスキルレベルを上げておくということらしい。


 いつまでここにいられるのかはわからないけど、たぶん連続ログインの限界値であるリアルでの8時間までは大丈夫だろう。可能性としてはシステムとして制限時間が決まっていたり、運営に目を付けられて強制ログアウトさせられたりすることもあるかも知れないけど、別に悪いことをしている訳じゃないからそのときはそのときだ。


「今度は門の近くだけって訳じゃねぇからな。遠くから魔法を撃つだけなんて舐めた真似はさせねぇぜ」

「ぐ……お手柔らかにお願いします」


 嬉しそうに手をわきわきさせているアルは止められそうにない。ちゃんと手加減をしてくれることを祈るのみだ。


「装備については、ドンガ」

「おう! この街の採掘ポイントだと二回目以降は種類も質も数も落ちる。だが、素材が出なくなる訳じゃねぇ。そいつを使って坊主が装備できる手甲系の防具を俺が作ってやる」

「本当ですか! 親方が作ってくれるなら心強いです」

「頭部防具も装備できるから作ってやってもいいんだが、坊主の戦い方では邪魔になるだろうからな」

「なのでぇ、そのあたりはわたしがぁ、イヤリング、ペンダント、指輪などのアクセサリで補いますぅ」


 おう、ゆ、揺れ……んんっ!


「ありがとうございます、ファムリナさん」


 親方とファムリナさんが作ってくれたものならかなりの装備ができるはず。その他の装備が見習い装備でも普通に強い気がする。


「ふん! だが、この街だけでは素材が足りねぇ、俺やファムリナでも作れるのは駆け出しにしてはまあまあいい装備、程度のもんだ。本格的な装備は外に出られるようになって素材を確保してからだ」 

「はい」


 つまり私が外で素材を集めて持ちこめば、親方やファムリナさんが装備を作ってくれるということか。親方に作成してもらった武具を装備できる場所が限定的過ぎるのは残念だな、親方が作った凄い装備をいろいろ見てみたかった。


「だが、お前も鍛冶やアクセサリの作成ができるんだ。しっかりと鍛えてやるから俺らを超えていけ」


 おお、親方が熱い! でもせっかくその道の達人たちがその技術を仕込んでくれるんだから、やらないという選択肢はない。


「頑張ります!」

「おう! いいか坊主、この街の奴らの装備は俺とお前で作るんだ。素材集めも鍛冶も忙しくなるぞ。それに、お前の見習い装備についても心配すんな。俺に考えがある、方法としては気に食わねぇがうまくいきゃ面白いことになるはずだ」


 そう言えばアルもミラもガラも装備はそれほどいい物じゃなかった。インベントリとかに凄い装備を持っているのかと思っていたけど、そうじゃないのか。だとすると、この街の人たちと一緒に外で戦うなら、最終的には全員の装備を揃えなきゃいけないってことか? 

 それはそれで大変そうだけど、ちょっとやりがいがありそうだ。


「あとは、どうにもならないコチ君自身のステータスなんだが……」

「それは……頑張って種族レベルを上げますから大丈夫です」


 私のステータスを上げるには、装備での底上げ以外ではそれしかないしね。|副職≪サブジョブ≫が設定できればよかったんだけど、メインが〔見習い〕なのに副職なんか取れる訳もない。だからその枠は現状ではまったく役に立つ見込みがない。しかし、副職に関してはメインジョブとは関係なく、特殊なクエストでのみ取得できるものもあるらしいから、情報を見つけたら積極的に狙いにいけばいい。


「うん、それも勿論大事だけどあくまで長期的な目標だね。そういう意味では職業レベルの底上げも古い伝承であて・・がある。難易度はとても高いのだけどね」


 カンストした職業レベルの上限を上げられるような可能性もあるのか……これって他のプレイヤーは間違いなくその知識は知らないだろうな。


「もし、それがうまくいったとしてもコチ君のハンデは完全に解消できないだろうし、いざというときに危険から身を守れる手段が必要だと思う。いつも私たちが傍にいられるとは限らないからね」

「なるほど、確かにそうですね。皆さんがいないとなにもできないというのもちょっと情けないですし」


 ウイコウさんは私の言葉にニヒルな笑顔で頷く。


「そこでだコチ君。君はニジンから【召喚魔法】を教えて貰ったそうだね」

「そ、そうです! コチさんは私の生徒なんですよ、えっへん!」


 自らの口でえっへんとか言いながら胸を張るニジンさんだが、もともとだぼっとしたツナギを着ているうえに、お胸の方がささやかなのでまったく色気はない。


「スキルは覚えましたが、唯一可能性があった兎系の魔物に私は嫌われています。そうするとこの街では契約できる魔物がいません」


 ウイコウさんが考えているのは【召喚魔法】で魔物と契約して、いつでも召喚できる魔物を護衛にするということだろう。でも現状では契約できる魔物がいないため、街を出てから契約する魔物を探さないとならない。


「そうだね、正直我々も君がグラスラビットをあれほど乱獲するとは思わなかったよ。でもまあ、仮にグラスラビットと契約できたとしても護衛としては少し心もとないし、外に出てから探すにしてもすぐにいい出会いがあるとは限らない」

「それは、確かにそうですね」

「だから、ここにいる彼らと契約ができるかどうか試してみないかい」

「え?」

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