第36話 デメリットと決断

 転職をすることでリイドから夢幻人が出ていくのならば、夢幻人が転職をしないことを選択すれば、街が着いていくしかない。そういうことなのだろう。


 そして、ウイコウさんが言っていた不利益というのも大体想像がついた。


「本来〔見習い〕は条件さえ揃えばあらゆる職に転職できます。しかし、職業として自ら〔見習い〕職であることを選択してしまえば、今度は〔見習い〕職から派生する職業が一切ないため、以後転職することができなくなることが想定されます」


 メリアさんが、伏し目がちに説明してくれる。夢幻人としてもともと設定された〔見習い〕と、自ら職業として選んだ〔見習い〕は同じ名前でも本質が違うということか。


「職業レベルを上げられない以上、ステータスの上昇も種族レベルに依存することになり、コチさんが〔見習い〕を選んだ場合は、他の人たちと比べいずれは身体能力的に大きなハンデを背負うことになります」


 レイさんがステータスについて説明してくれる。大地人も夢幻人もステータスは種族レベルの上昇と職業レベルの上昇によって加算される。普通は両方を育ててステータスを上げるのが普通で、加えて職業レベルはカンストすれば更なる転職によってレベルがリセットされるので、新しい職業でまたレベルを上げられるようになる。

 私は現状〔見習い〕のレベルがカンストしているので職業レベルではステータスは上がらないが、他の人は転職後の職業レベルがアップした分だけステータスに差がついていってしまう。それは後になればなるほど大きな差になっていくだろう。


「それに、坊主は武器、上半身、下半身、それと靴の装備は見習いシリーズしか装備できねぇ」

 

 親方もぶっきらぼうながら正直に装備の不利益について教えてくれる。

 あぁ、そうなのか。〔見習い〕はどんな種類の武器でも装備できるけど、それは見習いシリーズ限定なんだ。〔見習い〕を選択した場合、攻撃力や防御力が1とか2の装備と、遅々として上がらないステータスを抱えたままプレイしなくちゃならないってことか。


「それにね、コチ。〔見習い〕はスキルの修得は早いけど、上達速度は遅いわ。典型的な器用貧乏ってことよ」


 ちょっと寂しそうな目をしたエステルさんに言われて思い出す。確かにそうだ、〔見習い〕にはそれもあった。〔見習い〕はスキルの取得が簡単になる代わりにスキルの熟練度が著しく上がりにくいんだ。


 これは確かに……デメリットが大きい。ウイコウさんが選択しないことをお勧めしてくれるのもわかる。


 でも、この街の人たちは……それを隠そうとはしなかった。わざわざこんな話を私にしてくれるくらいだから、私に〔見習い〕を選んでほしいと思っているはずなのに、ちゃんと私のことを考えてデメリットを隠さず教えてくれた。それが私にはなによりも嬉しい。


 もともと私はトッププレイヤーになりたくてこのゲームを始めた訳じゃない。やっかいな能力のせいで日々摩耗していく自分を、能力が発揮されにくいゲームの中でリフレッシュできればよかった。

 〔見習い〕でいることのデメリットは確かに大きい。でも私の目的から考えれば、皆と一緒にいられることのメリットの方が遥かに大きい。私の目的はこの街の人たちといる限り常に達成され続けるんだから。 

 

「ウイコウさん、いろいろ教えてくれてありがとうございました。皆さんも私が正しい選択をできるように、私にとって不利益なことを隠さず話してくれて嬉しかったです。お陰でしっかりと私自身がどうしたいのかを考えて決断することが出来ました」

「うん、いい目をしている。迷いはないんだね、コチ君」

「はい」

「それではコチ君の決断を聞かせてもらえるかな」


 私は迷いなく頷くと、私を見ているリイドの人たちをひとりずつゆっくりと見る。おそらくもう私がどんな決断をしようとしているのか分かっているんだろう。全員が温かく私を見守ってくれている。


「はい、私は皆さんとこれからも一緒にいたいです。だから〔見習い〕のままで構いません」


 きっぱりと告げて転職先の〔見習い〕を選択しようと伸ばした手をウイコウさんが掴む。



「それはちょっと待ってくれるかい、コチ君」

「え?」

「君の決断と覚悟に私たちも応えたい。そのために君が被るであろう不利益を私たち全員で少しでも減らせるようにしたい」

「ウイコウさん……確かにそれは嬉しいですけど、そんなことできるんですか?」


 正式に〔見習い〕を選択した際に私が付き合っていかなくてはならないデメリットは大きく分けると3つだ。


・職業レベルが上がらないことによって見込めないステータスの上昇

・見習い装備しか装備できない部位では、装備での底上げができない

・スキルレベルが上がりにくいうえに、スキルが多くあるため育てにくい


「期待させてしまって申し訳ないんだが、コチ君の頑張り次第で少しは……と言ったところだ」


 私の頑張り次第で、正直しんどいデメリットの数々が少しはマシ・・になる? それはちょっと面白いかも。もともと縛りプレイ的なものも嫌いじゃないし、しかも今回はメリットだって十分あるのに、頑張ればもっと強くなれるっていうんだからやるしかない。


 昔やった縛りプレイで楽しかったのは、初期のRPGでドラゴンを倒す系のゲームでやったプレイ。攫われたお姫様を助けてお姫様抱っこしたまま、城まで連れていって送り届けるというイベントを、あえて城に送り届けずに抱っこしたまま一緒にラスボスに突撃して倒したのはちょっと楽しかった。

 まあ、それをしたからといって別にストーリーが変わるとかは無かったけど、エンディングでお姫様と結婚するシーンにリアリティが出て感慨深かったのを覚えている。一緒にボスを倒したんだからそりゃあ絆も深まるだろう的な?


 っと、話が逸れてしまったが、とにかくウイコウさんの提案は望むところだ。


「わかりました。なにをすればいいですか?」

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