第30話 礼拝
やり直しができるとは限らないし、せっかくメリアさんがいろいろ教えてくれるんだから、いろいろ話を聞きながら考えてみるか。ひとまず、さっき聞いた神様たちの情報をまとめてみよう。
ウノス神(老婆)・闇・攻撃魔法・裁縫
ドゥエノス神(成年男性)・火・武器・鍛冶
トレノス神(老爺)・水・回復魔法・調合・農業
クアノス神(少年)・風・回避・木工・農業
チェリエ神(少女)・植物(回避・木工・農業)
チクノス神(青年女性)・光・防具・彫金
セイノス神(青年男性)・土・支援魔法・細工・農業
これを見ると、ウノス様が魔法職、ドゥエノス様が前衛武器職、トレノス様が回復職、クアノス様とチェリエ様が斥候職、チクノス様が前衛盾職、セイノス様が支援職と相性がいいってことになりそうだ。生産職の人はメインにしたい技術を選ぶということだろう。
それにメリアさんは、ひとりの神様だけに礼拝してもいいし、全員に礼拝しても問題ないと言っていた。ということは複数の神様に礼拝しても大きなデメリットはないということかな。もしあるとすれば、ひとりだけに礼拝した方が強い加護が貰えるとかか。
「メリアさん、こちらの神様たちの間で仲が良いとか悪いとかあったりするんですか?」
「ふふ、神様同士の仲の良さを気にするなんてコチ殿は本当に面白い人ですね。でも、六柱神の皆さんは完全に同格の神様ですし、基本的にはとても仲がよろしいですよ。多少相性の良くない神様もいらっしゃいますが、アルレイドさんとコチ殿の関係みたいなものです」
ああ、なるほど……ていうかメリアさんも、私が街で何をしていたのか知っているのか。しかも、アルとのじゃれあいみたいな関係も完全に見透かされていて、ちょっと恥ずかしい。ということで、とりあえずそれは置いておく。
結局のところまず最初に思ったのは、たぶんこれ神様ひとり足りないよね、ということ。
理由としては、まずは属性。
火、水、風と植物、土、闇、光。普通にこれだけ聞いたら違和感はなかったけど、メリアさんは神様を紹介するときにあえて右側の中央よりの神様であるウノス様から始めた。
全員を紹介するなら端っこから順番にしていく方が説明する人も、説明を受ける人もわかりやすいのに、ウノス様、ドゥエノス様、トレノス様と紹介して、次にあえて一番左端のクアノス様チェリエ様の双子神に跳んだ。つまりウノス様から始まり、セイノス様までで一周するのが正しい順番。それを頭に入れて改めて確認すれば、神像の土台の位置はほんのわずかだけど逆三角形▽になっている。
ということはほんらいならこの神像は円を描くように配置するのが正しいんじゃないだろうか。
それを前提にして属性を改めて順番通りに並べ直すと。
闇・火・水・風と植物・光・土
うん、やっぱりそうだ。これを見ればなんとなく浮かび上がってくるのが七曜。ファンタジーでは闇と月は関わりが深いのが定番だし、植物に木も当然含まれる。光……ちょっと苦しい感じはするけど、金はぴかぴかしているしギリギリセーフ? と考えれば。
闇(月)・火・水・風と植物(木)・光(金)・土
曜日だ。となれば、中央の空いたスペースにはもう一柱神様がいてもおかしくない。
それに理由としては弱いけど、神様を模した神像の種類。小学生風男女、高校生風男女、成年男、老年男女があるのに成年女性だけがいない。そんな残念なことはあってはならない。
「メリアさん、この世界の神様は本当に六柱神で全部ですか?」
「 はい。私がお教えできるのは」
思索に耽っていた私を静かに見守っていてくれていたメリアさんは、その質問にほんの少しだけ喜の感情を見せて頷いた……ような気がする。くっ、リアルだったら絶対にわかるのに……今まで煩わしいだけだった自分のリアルの力。それを発揮し切れないことを、残念に思う日がくるとは思わなかった。
でも、メリアさんは『私が』と言った。つまり、教えられないだけで七番目、もしくは最初の神様がいるのは間違いないだろう。
問題はどこまで理解しておく必要があるか……もう一人神様がいるということだけでいいのか、もう少し詳しいことまで推測しておく必要があるのか。
単純に考えれば日曜日、日に関する神様だろう。じゃあ太陽か? でもそれだと金の光に被るような気がする。逆にあまり曜日に引っ張られないほうがいいか、木曜日に風とか含まれているし。ん? むしろどうして木曜の枠に風を入れたんだ?
……それは多分、曜日に割り当てようとしたときに風属性が該当しそうなところがなかったから。
じゃあなぜそこまでして風属性を入れなくてはならなかったか。それは風属性がこの世界の基本属性のひとつだったから。うん、いい線じゃないかな。そして、ここでエステルさんの弟子だったことが活きる。
エステルさんに座学で教えて貰った魔法の基本。そこで出てきた基礎属性と呼ばれるもの。それが、土・水・火・風・光・闇……そして『
この空属性、エステルさんの話ではもの凄くレアな上に修得が難しいらしく、いまでは名前すらほとんど広まっていない属性。これは時間と空間を操る魔法で【空間魔法】と【時魔法】があり、さらに二つを極めれば【時空魔法】に至るらしい。でも、グランウィッチであるエステルさんですら【空間魔法】と【時魔法】については、一部を僅かに使えるだけだと言っていた。
とにかく、エステルさんの授業から考えても真ん中の神様は空属性を司る神、いわば時空の神がいるのではないだろうか。その神様はあらゆる時間帯のあらゆる空間にいる。どこにでもいて、どこにもいない、空気のようにそこにある神様、まさに世界そのもののような……だから神像もないのか?
メリアさんは六柱神は完全に同格だと言ったけど、ニュアンス的に六柱神がてっぺんに並び立っているようなことは言っていない。つまり、真ん中の時空神こそが六柱神を統べる神。それなら順番は……
私はすっと前に出ると、ウノス様とセイノス様の間にある空間の前で膝を着き手を合わせる。なんとなく雰囲気的に合掌ではなく、指を組み合わせる形にする。
しっかりと最高神と思われる時空の神に対して信仰心はないけど、初詣でお願いをする感じで加護を祈る。
十秒ほど祈って右にずれ、同じようにウノス様へ祈る。次はドゥエノス様、右端のトレノス様。そこまで祈ったら左端まで移動してクアノス様とチェリエ様、右にずれてチクノス様、そして最後のセイノス様……祈りを捧げていくたびに六柱神の神像に神聖な力が満ちていくような感じがするが、残念ながら真ん中の空間からは何も感じない。
やっぱり神様がもうひとりいると考えたのは私の考えすぎだったんだろうか……ん? もしかして。
そこまで考えたところで唐突に思いついた私はセイノス様の前から再び右にずれ、一番最初に祈りを捧げた、なにもない真ん中の空間の前に立つと再び膝を着いた。
一週間が過ぎればまた新しい曜日が来るように時は巡るもの。つまり始まりと終わりを繋げることで時間を永遠に巡らせる。思いついたのはそんな簡単なことだったが、どこかこれが正解だろうという確信もある。
『まさかこの街で我らが顕現する日がくるとはの』
祈りのさなかに聞こえた荘厳な声に、はっとして顔を上げると、それぞれの神像に重なるようにして顕現した六柱の神が私を見下ろしていた。
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