第26話 クエスト達成

<【木工】を取得しました>

<【細工】を取得しました>

<【彫金】を取得しました>

<【付与魔法】を取得しました>

<【道具鑑定】を取得しました>

<【植物鑑定】【鉱物鑑定】【人物鑑定】【魔物鑑定】【道具鑑定】が【鑑定眼】に統合されました>

<チュートリアルクエスト10『道具を作ろう』を達成しました>

<報酬として100Gを取得しました>



「ひとまずはこんなところですかねぇ」

「あ、ありがとうございました」


 のんびりした口調とは裏腹にファムリナさんの指導は意外とスパルタでした。怒られることはないんだけど、できるまで許してくれない。「いつまでも待ちますからねぇ」とにこにこ見守られ続けるのはかなりのプレッシャーだった。

 どうもファムリナさんはエンシェントエルフという伝説級の種族だったようで、悠久の時を生きられるらしく『待つ』ことが苦ではないらしい。ファムリナさんの雰囲気に押されて結局、休憩や一時帰宅を言い出せぬまま三徹して丸四日間工房に籠りきりだった。

 おかげで【木工】【細工】【彫金】を覚えたうえに、道具を鑑定する方法も教えて貰って【道具鑑定】を取得できた。同時に五つの鑑定スキルが統合されて【鑑定眼】というスキルになった。これで個別にレベルを上げる必要がなくなったのはありがたい。最後の【付与魔法】については、作業中にエステルさんから指示された修行の話をしていたら「そこまで魔力の扱いが上達しているのなら覚えられますよ」と教えて貰った。


 そして、スキルを覚えるために頑張った成果がこちら。

その1

 おかみさん用まな板。魔力を通すとじんわりと水がでて洗いやすい『水(微)』効果つき。


その2

 ウイコウさん用ミニチェア。特殊効果なし、釣りのときに使っていた椅子に背もたれが無かったので背もたれを付けただけ。


その3

 ゼン婆さん用揺り椅子。魔力を通すと僅かに揺れる『風(微)』の効果つき。


その4

 シルバーリング。小さな花が咲く蔓を寄り集めて輪になったかのようにデザインされた指輪、INT+1。『水属性強化(小)』の効果つき。


その5

 銀樹の杖(INT+10、VIT+1)。魔樫の杖に植物を象った銀を巻き付けて魔力を循環しやすくさせた杖。


 1~3が【木工】【細工】の練習で作ったもので、4が【彫金】【細工】の練習で作ったもの。5はそこまでの集大成として全ての技術を使って作成した。

道具としての性能のほかに効果が付いているのは【付与魔法】のおかげ。もともと【付与魔法】は対象に対してステータスアップなどの支援バフやダウン系の阻害デバフを付与するものなのだが、生産系のスキルと【錬金術】と組み合わせると道具に効果を付与できる。

 一般的には作成時に使用する素材の属性や特性を、完成品に反映させて道具や装備に追加効果を付けるので、この方法はほとんど世の中に知られていない。エンシェントエルフであるファムリナさんだから知っていた珍しい方法らしい。


 付与できるのは【付与魔法】で覚えている魔法と、自分のスキルに関連したもの。

 まな板やリングは【水魔法】、揺り椅子は【風魔法】、杖は【頑強】スキルを使った。付与自体はなんとか成功したが【付与魔法】も【錬金術】もスキルレベルが低いためなのか、付いた効果はおまけみたいなものだった。

 でもこの付与の方法は自分が持っているスキルしか出来ないなどの縛りはあるが、特殊な素材を集めなくても良かったり、ある程度目的の能力を付与できたりとメリットが大きいし、他の生産系プレイヤーと競合しない技術になるかも知れないから、商売の種に成り得る。


 そうすると選択スキルは戦闘系スキルをひとつに、【神聖魔法】【付与魔法】【錬金術】【召喚魔法】かな。あ、でもスキル五つ分の【鑑定眼】は外せないか……そうすると【錬金術】と入れ替えるか?

 構成はかなり変則的だけど、戦闘は【○王術】と【神聖魔法】があればしばらくは戦える。生産系と属性魔法は再取得に多少時間はかかるだろうが、比較的取りやすいスキルだしなんとかなる。逆に【付与魔法】【召喚魔法】はここでキープしておかないと再取得はかなり先の話になってしまう可能性が高いだろう。


「お疲れ様でしたぁ、コチさん。なかなかお上手でした、よ?」

「お気遣いなく。覚えが悪くて、デザインのセンスが無くても練習すれば少しずつ上手くなれますから、これからです。四日間ありがとうございました」


 なぜか最後が疑問形なファムリナさんに、苦笑しつつ四日間の指導に対して深々と頭を下げる。覚えの悪い弟子に付き合ってくれて本当に感謝だ。


「ふふふ、冗談ですよぉ、コチさん。とてもお上手でした。コチさんが作った物はどれも贈る相手のことが考えられた温かい作品でした。性能ばかりよくても、人手に渡ることなく飾られるだけの私の作品より何倍も素敵です」

「ファムリナさん……」


 どこか寂し気なファムリナさんに思わず息を呑む。職人としては、作った道具たちはやっぱり使ってもらいたいんだろうな……私になんとかしてあげられればいいんだけど。

 あ、そうだ。


「ファムリナさん! このお店で1000Gで買える物ってありますか? クエストで貯まった報酬があるので、私になにか売ってもらえませんか」

「コチさん……でもそのお金はぁ、ここを出てから必要になるものですよぉ」

「大丈夫です! 兎の白毛皮をたくさん持っていますから、街で売れば大金持ちです。それに運だけはいいのでなんとかなると思います」


 実際毛皮がいくらで売れるか分からないけど、チュートリアルクエストの報酬はおまけみたいなものだから、街ですぐに必要になるお金はそう多くないはず。それに冒険者ギルドへの登録はしてあるし簡単な依頼をこなせば1000Gくらいはあっという間に稼げるだろう。


「……ありがとうございます。でも、今の私には値引きをしてあげることが出来ないのでその金額でコチさんに買ってもらえるのはこちらのマグカップくらいしか」


 ファムリナさんが申し訳なさそうに陳列棚から持ってきたのは、木目調が綺麗な木製のマグカップだった。なんの飾り気もない質素なカップだが木の温かみと、製作者であるファムリナさんの丁寧な仕事ぶりが伝わってくる名器、のような気がする。


「それ、いいじゃないですか。是非私に売ってください」


 マグカップをファムリナさんの手からちょっと強引に取り上げると、インベントリに仕舞いファムリナさんの右手を優しくつかんで、手の平を上に向けさせる。そして、取り出した1000Gをその上にそっと乗せる。


「……コチさん」


 手の上に乗せられた1000Gを見ながら戸惑うファムリナさんの前で、私はインベントリからもう一度マグカップを取り出すと【水魔法】で水を注いで一気に飲み干す。その行動に深い意味があった訳ではなく、一度使用して返品できなくしようと思ったのと実際に使用しているところをファムリナさんに見てほしかっただけ。だけど、これは。


 口をつけたマグカップは、木の柔らかさが口当たりをまろやかに感じさせ、カップを傾けたときに香る木の臭いがまるで森の中にいるかのように感じさせる。もちろん中の水も臭い移りをしたりもしていない。これは凄い! ただの水が、マグカップひとつで森林浴をしながら清水を飲んでいるかのように感じる。


「うん、美味しい」

「……そのマグカップには『浄化』の効果があります。ですからどんな水を入れても、少し待てば美味しく飲める水になります」


清水のマグ

 リイドのクラフトマイスターファムリナが『浄化』の力を付与した木製のマグカップ。どんな液体でも無害で飲めるようになる。

作成者:ファムリナ

 

 おお、マグカップで1000Gというのが高いのか安いのか分からなかったけど、こんな効果が付いている魔道具だったならいい買い物をしたかも。決してゲーム内の水分補給にどれほどの意味があるのかとかは考えちゃいけない。


「ありがとうございますぅ、コチさん。私の作ったものをコチさんが使ってくれていると思えばまた物作りを楽しめそうですぅ」

「いえ、私もお金さえあればもっともっとたくさんファムリナさんの作ったものを欲しかったです」


 これは嘘じゃない。覚えたばかりの【鑑定眼】で陳列されている商品をざっと見るだけで、トッププレイヤーが金貨を山積みしてでも欲しがりそうなアイテムがいくつも置いてあるんだから。


「そうですねぇ、期待していますよコチさん」


 ん? 何に期待? あ、私の生産者としての成長にかな。


「はい、また顔を出しますのでいろいろ教えてください」

「いつでもどうぞぉ、お待ちしています」


 ニコニコしながら手を振って見送ってくれているファムリナさんの胸元がばいんばいんと凄いことになっているのをなるべく直視しないようにしながらお店を出る。

 店を出ると空は夕焼けに染まっていた。久しぶりに外にでて、頬を撫でる風が気持ちいいので大きく伸びをして、長時間作業で凝り固まっているような気がする背筋を伸ばしていると脳裏にアナウンスが響く。


<チュートリアルクエストをすべて達成しました>

<神殿でクエストの達成を報告してください>

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