第18話 初戦闘

「こんにちは、ミラ」

「来たわね、変態」


 次のクエストをこなすため冒険者ギルドに足を運んだ私へ、受付に座っているミラがジト目を向けてくる。

 確かにミラは猫耳のボーイッシュ美人。だけどことさらにいやらしい目で見たり体に触ろうとしたことはない。後ろからお尻と尻尾をガン見してたのはばれてないだろうし、正面からのチラ見はばれているのかも知れないが、そのくらいは許容範囲で見逃してほしい。


「うわ、酷い。私も健全な成人男子ですから、そっち系の欲も普通にありますけど、常識と節度は持っています、よ?」

「ちょっと……なんでそこで疑問形にするのよ。逆に疑っちゃうじゃない、あたしが言っているのはそっちの意味じゃないわよ」

「ん? それ以外に変態と言われるようなものってなんですか?」


 本気で首をかしげる私にミラはやれやれと肩をすくめる。


「あんたが夢幻人だからって、無茶をしてほいほいと神殿送りになるマゾ野郎だってことよ」

「あぁ、なるほど。でも、こっちは好きで神殿送りになっているわけじゃないですよ。手加減の下手くそなバカ門番とか、サボりがばれたからって逆切れして魔法をぶっ放す大魔女とか、新人の防御力をまったく考えない脳筋ギルドマスターとか、ストレス解消のために新人をいびってやりすぎる受付嬢とかのせいです」

「にゃ! ちょっと待ちなさいよコォチ! その受付嬢ってあたしのこと?」

「さあ、どうでしょう。このギルドにミラ以外の受付嬢がいるなら、その人かも知れませんね」

「うにゃ! むぅ……意外と口も達者ね、コォチ」


 ぷぅと小さく頬を膨らませるミラは猫というよりは栗鼠みたいで可愛い。いいものを見させてもらいました。ごちそうさまです。


「ふふ、冗談ですよ。ミラが私のことを心配して下さっているのはわかっていますから。今後は気を付けます」

「ば、馬鹿ね! あたしがあんたのこと心配するわけないじゃない! ま、まあ、確かに講習ではちょっとやり過ぎたかなって思ったけど……」


 はい、顔を赤くして照れるミラを追加でゲットしました。


「まあ、いいですよ。遠慮されるよりもよほど嬉しかったですから」

「…………やっぱり変態?」

「な・に・か、言いました?」

「な、なんでもないわよ。で、今日はクエストよね。依頼板は後ろの壁よ、どうせ一枚しか貼ってないからさっさと持ってきて」


 せっかく私が素直な気持ちで話しているのに、またジト目を向けようとするミラに、とてもにこやかに対応すると、ミラは慌てたように私の後ろを指さす。

 懲りないミラに苦笑しつつ、振り返ってみると確かに入口の扉の隣に掲示板があり、一枚だけ紙が貼られている。講習のときには貼られてなかったから、チュートリアルクエストを受領したことで変化したのだろう。


「これか」


『納品依頼:F

 グラスラビットの毛皮×5

 期限:なし

 報酬:100G』


「グラスラビットの毛皮か……おかみさんがいつも料理で使っている肉がこれだったっけ」

「コォチ、早く持ってきて」

「はい」

「あとギルドカードも」

「はいはい」

「はいは1回」

「うい」

「……」


 ミラはジト目をしながら依頼書とギルドカードを私の手から奪うように持っていくと、流れるように処理をして、ギルドカードだけを返してくる。


「はい、じゃあ適当に頑張って。グラスラビットなんて〔見習い〕でも余裕で倒せる魔物だし、毛皮も肉と一緒にほぼドロップするから。終わったらすぐに報告に来なさいよ。グラスラビット相手に怪我なんかしたら地獄の講習を追加するからね」

「わかりました、頑張ってきます。あ、でも講習ならまた受けてもいいですよ」

「……………………変態確定?」

「違います!」


<リイド周辺にモンスターがポップするようになりました>




 ツンなミラとのやり取りを済ませ、アルと互いに威嚇しあいながら門を抜ける。そのまま、ちょっと街から離れると、草の隙間から白い兎耳が見えるようになった。


 このあたりは一番最初にログインした場所だけど、そのときには魔物は全然出なかった。ということはさっきのアナウンスのとおり、チュートリアルをここまで進めたから魔物が出るようになったということか。


「さて、ファーストアタックは何を使おうかな」


 インベントリの中身をリストにして表示し、中に入っている見習い武器シリーズを眺める。ここはオーソドックスに長剣かな……。


「お~い、コチ! 俺様がちゃんと見ててやるからなぁ! 最初は剣からいけ、剣から!」


 ……よし、弓にしよう。

 インベントリから弓と矢筒を取り出す。見習いシリーズの弓に付属している矢筒は残弾無限なのでお財布に優しい。もちろん威力は最低だし、しかも一本しか入ってないくせに補充は使用後1秒経たないとされない。それくらいと思うかも知れないが、戦闘中の1秒は意外と長い。

 私が弓を取り出したのを見て、後ろがうるさくなったのでとりあえず【詠唱短縮】で魔法を2、3発撃っておく。


 さて、気を取り直して……草むらの中に見える兎耳の向きから判断するに、グラスラビットはどうやらこちらに背を向けている。まだ距離が10メートルくらいあるからか私には気が付いていないらしい。


「よし、これなら」


 私はゆっくりと弓を構えると矢を番える。本当なら【弓王術】を取得したことで、自動的にマスター扱いになった【弓術】のアーツ『連射』とか『乱射』を使ってみたいところなんだけど、矢が1本しかないので発動出来ないのが残念。弓を使うならもっと性能のいい矢筒を手に入れないとね。


 初めて狩りをするということで、緊張はしているが正直外す気はしない。だてにアルやガラにしごかれていたわけではないし、【弓王術】スキルは飾りじゃない。

 精神を集中し狙いを定めてから、ふっと力を抜いて弓を放つと木製の粗末な矢は狙い違わず一直線に、見えているグラスラビットの耳の下へと吸い込まれていった。


「よし!」


 手ごたえはあった、間違いなく当たったはず。むふん! と悦に浸りつつ残心を気取って目を閉じる。結局、最初に弓を使ったのも生き物を攻撃するという忌避感が薄くなるから正解だったな。


「うごっ!」


 なぁ! な、なんだなんだ! せっかくいい気分で浸っていたのに、いったいなにがどうなったの? 混乱している頭をなんとか働かせて現状を確認すると、どうやら腹部に衝撃を受けて地面に倒れたらしい。いつの間にか弓を手放してしまった手が草に触れているので間違いないだろう。

 ということは、私から攻撃を受けたグラスラビットがアクティブ化して反撃してきたってことか! ってことは早く起きなきゃやばい! 

 とりあえず意味もなくゴロゴロと転がってから立ち上がると、すぐに視界に白い物が見えて慌てて避ける。あって良かった【体術】スキル。


「意外と素早いし!」


 そうか、いくら凄いスキルがあっても私自身のステータスと武器の威力がないからチュートリアル用のモンスター相手でも一撃じゃ倒せないのか。STRは1、弓を装備しても3にしかならないんだから、よく考えなくたって当たり前だった。


 弓を手放してしまったから、インベントリから即座に短剣を取り出して装備。ここまで接近されているなら小回りが効く方がいい。


「おっと、『速斬』」


 短剣を手にしたと同時に再び体当たりを仕掛けてきたグラスラビットを、避けながら『速斬』で斬る。アーツで加速された短剣は今度こそグラスラビットを光の粒子に変えた。


<グラスラビットの肉×1

 グラスラビットの毛皮(白)×1 を入手しました>

<レベルがあがりました>


 あ、危なかった……調子に乗って油断したせいで苦い初戦闘になってしまった。でも、2回攻撃して倒せるなら、落ち着いて戦えば問題ないはず。レベルも上がったし、ステータスを確認しておこう。

 っと、意外とダメージ受けてるな……残表示だけだとレベルアップでの増加量が分からないから、最大値も表示する設定にしておこう。



名前:コチ

種族:人間 〔Lv1〕

職業:見習い〔Lv2〕

副職:なし

称号:【命知らず】【無謀なる者】

記録:【10スキル最速取得者〔見習い〕】

HP: 89/110

MP: 85/110

STR:2(+2)

VIT:2(+5)

INT:2

MND:2

DEX:2

AGI:2(+1)

LUK:97

※( )は装備による補正値

〔装備〕

見習いの短剣(S+2)

見習いのシャツ(V+2)

見習いのズボン(V+2)

見習いのブーツ(V+1・A+1)

スキル

(武)

【大剣王術1】【剣王術1】【短剣王術1】【盾王術1】【槍王術1】【斧王術1】【拳王術1】【弓王術1】【投王術1】

【体術1】【鞭術1】【杖術1】【棒術1】【細剣術1】【槌術1】

(魔)

【瞑想1】【魔法耐性1】【詠唱短縮】

【神聖魔法1】【火魔法1】【水魔法1】【風魔法1】【土魔法1】

(体)

【跳躍1】【疾走2】【頑強1】

(生)

【採取1】【採掘1】【釣り1】【料理1】【調合2】【調合(毒)1】【錬金術1】【鍛冶1】

(特)

【罠設置1】【罠解除1】【罠察知1】【人物鑑定1】【植物鑑定2】【鉱物鑑定2】【看破1】【死中活1】 


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