第17話 鍛冶と強化
ウイコウさんと謎の友情を育んだ私は、ウイコウさんと別れて岩壁へと到着した。これからドンガさんのつるはしで岩壁を掘るわけだが、その前にさっき取得したスキルを確認。
【看破】隠されたものを見破る
これはその名の通り、偽装されたものや隠されているものを見破りやすくなるスキルらしい。変装していたウイコウさんを見破ったから取得したスキルだろう。まだレベルは1なので、効果はお察しだろうけど【罠察知】なんかと併用も出来そうだから有用なスキルだと思う。
そして【人物鑑定】。これはゼン婆さんに教えて貰った【植物鑑定】の人間バージョンのようで、試しにウイコウさんを鑑定させてもらったら。
名前:ウイコウ・ボタ
種族:人間
レベル1では名前と種族しかわからなかった。でも、鑑定系スキルはあって困ることはないから、取得できたのは幸運だった。多分これもウイコウさんの変装に惑わされずに正体に行きついたから取れたスキルかな。
さらに採掘を終えて工房に戻ればドンガさんに【鉱物鑑定】を教えて貰えるから、植物、石、人の鑑定が揃う。あとは魔物の鑑定が出来ればいいんだけど……どっかで取れるだろうか。
っと、とりあえず考察はこの辺にしておこう。釣りに時間をかけすぎたから、早くしないと完全に陽が沈んでしまう。
「黒鉄のつるはしを出して……と」
インベントリからつるはしを出すと、振りかぶって岩壁へと打ち込む。
<石A×2を入手しました>
<石B×3を入手しました>
<石Cを入手しました>
<石Dを入手しました>
「ぶ!」
ドンガさんのつるはし掘れ過ぎです。私のLUKさんの活躍もありそうだけど、1回の掘削で7つも鉱石が手に入るとか……しかも耐久値は3しか減ってない。これ、最大であと99回掘れるってことですか?
と、思ったら5回掘ったら採掘ポイントが枯れた。ゲームらしく、どれだけ掘っても岩壁に穴があくことは無いけど、採掘回数の上限はあったらしい。次に同じ場所で掘るときには一定時間が経過しないとだめなんだろう。
結局5回の採掘で入手したのは石Aが12。石Bが10。石C6。石D4。石E1。石F1。石G1の計35個。
ドンガさんは鉱石数種類が数個あれば十分だと言っていたから十分すぎる成果だろう。ちょうど陽も暮れたし、ドンガさんはいつでもいいって言ってくれていたので持ち込むのは明日にしよう。
<【鉱物鑑定】を取得しました>
<【鍛冶】を取得しました>
明けて今日は、朝からドンガさんのところへお邪魔して各種鉱石をお渡し。
ドンガさんはその石を見て嬉しそうに歯を剥きだすと、私に鉱石の鑑定の仕方を教えてくれた。結果として【鉱物鑑定】を取得し、採掘したのは石Aが
あの岸壁からD以降の石がでることはかなり珍しいようで、希少な石が多く出たのはドンガさんのつるはしの効果よりも私のLUKに寄るところが大きかったらしい。
そのあと鉱石の精錬の仕方や簡単な鍛冶の基礎を教えてもらったので【鍛冶】スキルも無事に取得できた。そして一度スキルを覚えてしまえば、あとはメニューからショートカットで精錬も鍛冶もできるようになる。
でもそこでドンガさんから「本当にいいものを作るつもりなら全部を手作業でやれ」と言われたので「わかりました!」と答えたら、いい笑顔でサムズアップされ、今後は親方と呼べと言われた。どうやら知らぬ間に徒弟として認められたらしい。
「よし、コチ。次は強化について教えてやる」
「はい、お願いします。親方」
親方はうむ、と頷くと私に向かってつるはしを出せと言うので、素直にインベントリからつるはしをだす。
黒鉄のつるはし+3
ドロップ率中上昇 レアドロップ率小上昇 耐久 282/300
リイドの鍛冶師ドンガがあり合わせの素材で手慰みに打ったつるはし。
作成者:ドンガ
親方が作ったつるはしは完成当初からすでに強化値が3だった。おそらく武器なら強化値が上がれば威力があがり、こういった道具なら効果が上がっていくのだろう。
「いいかコチ。俺は正直言えば強化はあまり好きじゃねぇ。なぜなら職人の腕が存分に活かせる鍛冶と違って、強化は最終的に運任せになっちまうからだ」
「運、ですか」
「そうだ。装備の強化は強化するべき装備と、その装備のキーとなる素材を【鍛冶】スキルのアーツ『強化』を使って強化する。このときの成功率は【鍛冶】の熟練度や添加素材の質や量で上げることができるんだが……」
その後も続いた親方の説明を聞いて理解した強化システムのルールは難しいものではない。
例をあげて整理すると、鉄の剣を強化したい場合は、まず鉄の剣のキーアイテムである鉄のインゴットが必要になる。
鉄の剣+鉄のインゴット、そして【鍛冶】スキル。
これが最低条件。一応これだけでも強化はできるが、これだけだと成功率が低いし強化後の性能にも補正がかからないらしい。成功率と強化補正について順番に整理しよう。
まず成功率について。こちらは【鍛冶】スキルのレベルにもよるらしいけど、レベル1だと最初の+1強化でも成功率は5割程度らしい。スキルレベルが上がれば率は上がるが、その増加率は僅か。
だから100パーセントに近づけるためには、ここでいろいろな鉱石などを添加素材として追加する必要がある。問題なのは、添加素材を限界まで加えたところで絶対に成功率が100パーセントにならないことだ。親方が運任せと言っているのはこの部分らしい。
強化補正についてはもっと単純で、追加した添加素材によって強化後の装備にいろいろな変化がでることがあるらしい。例えば添加素材に大量の風属性を含む風鉱石という鉱石を使えば稀に『鉄の剣(風)+1』のように僅かな風属性を帯びたりする。ただこれも結果はランダムのようで結局は運任せになってしまうようだ。
「理屈はわかったな。じゃあこのつるはしに、お前が掘ってきた鉱石を全部ブッ込んで強化してみろ」
「ぜ、全部ですか?」
「全部だ」
な、なるほど……ここでこの街で掘った鉱石の余剰分は全部吐き出すことになるのか。確かにチュートリアルでゲットした希少な鉱石をたくさん持ったままプレイを始める人が出るのは問題か。むしろここで使い切る設定だからこそ、チュートリアル用の岸壁でレア素材が出るのかもな。
「わかりました」
となれば、やるしかない。
【鍛冶】スキルのメニューから『強化』を選んで目の前のつるはしを指定。キーアイテムとしてさっき親方と作った鉄のインゴットを選択。この時点でつるはしの上に、半分くらいが埋まったゲージが現れている。そして、このゲージが埋まるまでは添加素材をいくらでも投入できる。ただし満タンにしても強化成功率は95パーセント程度らしい。今回は私の【鍛冶】スキルがレベル1なので、もっと低くなるはず。
失敗したら……と思うと手が震えるが、残っていた鉱石を添加素材を順番に指定していく。素材の中にはレアな鉱石がいくつも含まれていたせいか、つるはしのゲージはぐんぐんと上がり、あっという間にゲージが埋まる。
あれ、素材が残っちゃうよ? と思ったら、本来なら満タンまでしか入らないはずなのに、余剰鉱石をここで使わせるという設定が優先されたらしく、問題なく添加素材を追加することができた。
ちょっと残念な気もしたが、粛々とすべての鉱石を指定し終える。一息ついてゲージを確認すると、ゲージは完全にMAXを振り切ってはみ出していた。
えっと……これって、このまま実行して大丈夫?
「よし、全部入れたな。実行してみろコチ」
い、いいんですね、知りませんよ、親方。
びくびくとしているだろう私の視線に黙って力強く頷く親方。その姿に勇気づけられた私は、ゲージ横に表示されているOKボタンをゆっくりとタップ。
するとゲージの辺りから発生したキラキラした光がつるはしに吸い込まれ、満タン越えだったゲージが減少していき、すべてのゲージがなくなると同時につるはし全体が淡い光を放った。一瞬目を細めるが光はすぐに消え、あとにはつるはしが静かに残る。しかし、さっきまでは漆黒だったつるはしはさらに迫力を増し、いまはメタリックな感じの蒼黒い光沢を放っていた。
「よし成功だ。確認してみろ」
親方の言葉に私は頷くとつるはしを手に取る。つるはしの所有権はまだ私にあるので、性能はすぐに確認できる。
魔銀鉄のつるはし+4
STR +4 INT +3
ドロップ率大上昇 レアドロップ率中上昇 耐久 250/250
リイドの鍛冶師ドンガがあり合わせの素材で手慰みに打ったつるはし。魔力適性の高い素材を取り込み強化された。
作成者:ドンガ
つるはしなのに、私が持っている見習い武器シリーズよりも性能がいい……それにこれは武器じゃなくて道具だから見習いでも使える。しかも添加素材にミスリルとか魔宝石やらの魔法系のレア素材が混じっていたせいで、魔法使いの杖としても使えるようになっている。もちろん見習いシリーズの杖よりも効果は上。私につるはしで戦えと?
いやいや、さすがにそれはやりたくない。それにしても効果はさらに凄い。これがあればかなりの採掘チートが出来そうだ。
ただし、強化は成功しても失敗しても最大耐久値が減るというリスクがある。今回の強化でも最大耐久値はごっそりと減っている。この辺の減少値なんかにも【鍛冶】スキルが関係してくるらしいけど、調子に乗って強化を繰り返せば、どれだけ強くても使えばすぐ壊れるような装備になってしまう。
どこまで耐久値を犠牲にして強さを求めるか、これは攻略組の間でも判断が分かれる難しい問題らしい。
<チュートリアルクエスト6『鍛冶屋で装備について学ぼう』を達成しました>
<報酬として100Gを取得しました>
<チュートリアルクエスト7『冒険者ギルドで依頼を受けよう』を受領しました>
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