銃と剣 54
十月二日、金曜日。
辻斬り討伐の日。
栄。18:45。
「……いやいやいや。ちょっと待って。マジですんの!?」
恐怖のあまり大声を張り上げるFの前には、まるちゃんが立っていた。
「こ、怖いんだけどっ! 怖いんだけどっ!」
まるちゃんはまるで、Fとの距離を推し量る様に右手を高く取り上げてFを睨んでいる。
「Fさん大丈夫なんですか……? これ。助けないとダメな奴じゃないですか」
思わず颯太が近くで見ているNとなっちゃんに聞いてみるが、二人ともどこ吹く風である。
「でも、ジャンケン負けたのアイツだしな」
「大丈夫ぃっ。まるちゃんもちゃんと、手加減するよー」
「ジャンケンとか、手加減とか、そう言う問題なんっすか、あれ?」
「まあ、死なないだろ」
Nが薄笑いでそう言えば、マルちゃんは拳を振り下ろす。
「きゃああああぁっ!」
両手で顔を庇いながら、Fの悲鳴が上がった。
「え、Fさんっ!?」
土煙が上がる中、颯太は心配のあまり叫ぶが、段々視界が晴れて行けばまるちゃんの拳は、Fに届く寸前で止まっているではないか。
思わず颯太はほっと胸を撫ぜ下ろす。
よかった、無事で……。
しかしそれは、残念ながら儚き一瞬の幻想に過ぎない。
次の瞬間、鎌鼬でも起きたのかと言うほど、無数の風の傷がFの全身を傷つける。
至る所に切り傷、赤い液体。
「……えっ?」
颯太は思わず目を疑った。
何が起きたのか、まったくもって、わからない。
「あ、ルーキー君まるちゃんの攻撃見るの初めてだったりする?」
一人驚いてる颯太に、なっちゃんが肩を叩いた。
「え、あ、はい。あれ、攻撃なんですか……? まるちゃんさん、武器持っていない様に見えますけど……」
「まるちゃんの武器、ちっちゃいからね。ほら、僕の可愛いまるちゃんの綺麗な手を見て、見て」
そうなっちゃんに言われ、颯太が目を凝らせば、まるちゃんの大きな手に光る銀色の鉄の様なものが確認できる。
ん?
あれって、有名な……。
「め、メリケンサック……?」
颯太が目を細め、その名前を呼び上げる。
人が人を殴る時に威力を上げるために使用する金属の分厚いリングの様なもの、だよな?
「型魔法ステッキ」
「……え?」
なっちゃんの声に首を傾けると、なっちゃんはもう一度、今度はゆっくりと颯太に向かって言った。
「メリケンサック型魔法ステッキだよ。うちのまるちゃん、実は魔法少女なんだ」
「……えぇぇっ!?」
と言う事は、Fと同じ職業と言う事だろうか?
「どんな魔法が出るか、このゲームの仕様上本人は選べないからねぇ。まるちゃんは超近距離型魔法使いなんだよ。あのメリケンサック型魔法ステッキの半径は八センチ以内にしか範囲力はなく、尚且つ強い魔法を出す為には強い衝撃を掛けなきゃいけない。その代り、魔法の種類は豊富で今回の様な風属性だったり、炎属性だったり様々な魔法が使えるんだよ」
なっちゃんがとても丁寧に教えてくれるが、そんな事よりもメリケンサック型魔法ステッキの事が気になって、全然頭に入ってこない。
「もう、本当に怖かった……」
そんな中、傷だらけの手の甲で頬を擦りながら、Fが颯太達に寄ってくる。
「うん。それっぽく見える、見える」
その姿をNは満足そうに笑ってみている。
どうやら、この行為は今回の作戦に関係があるらしい。
「何それっ! 痛々しいね、大丈夫? ぐらい言ってよ!」
「ジャンケン弱いね。何でチョキからいつも出すの?」
「お前には言ってないしぃー!!」
横から顔をのぞかせるなっちゃんに、Fは頬を膨らませる。
どうやら、この作戦の最中でも仲が悪いのは継続中らしい。
「あの二人はほっといて、ルーキー、そっちの準備は?」
颯太はNの声に振り返る。
「万端っす。Nさん達は?」
「春風のメンツも定位置についた。今頃、あのログイン場所全てを取り囲んでるはずだ」
颯太は自分の腕に着けた時計を見る。
「……そろそろ時間ですね」
「ああ。お前ら全員定位置に着けよ。春風のメンバーは準備いいかー?」
颯太は短いため息を吐く。
緊張していないと言えば嘘になる。
不安がないと言えば、嘘になる。
もし、差し出した手を潤一が取ってくれなかったらと考えれば考えるほど不安で震えてしまう。自分の中で、『もし』と言う言葉が埋まっていく。
だけど……。
颯太は自分手で自分の頬をパチンと叩く。
でも、俺は潤一を信じてるって決めたんだっ!
「さあ、君も位置に着かなきゃ」
「Fさん……」
「今、君、すごくいい顔になってるよ。イケメンだ」
「……本当っすか?」
颯太が笑えば、Fも笑う。
「私の名演技、見せれないのは残念だけど、期待しててよ! 君に絶対バトンを渡してあげからねっ」
「はいっ!」
そう言って、颯太は走り出す。その後ろすがたにFは優しく語りかけた。
「これが終わったら、君の前を決めよう。ルーキーって名前、呼びにくいしね」
頭文字だとSかな。そう自分で言いながら、クスクスとFは笑った。どれだけ考えても無駄な事は良く知っている。
だって君は、残念ながら、うちのクランには入らなそうなんだもんなぁ。
「F、お前もそろそろ配置につけよ」
「あーい。……何? ジロジロ見て来て」
「傷だらけとか、中々見ないから新鮮だな」
NがFの頬の血を脱ぐいながら笑うと、Fはため息を吐く。
「腐っても、シールド使いの妖精王ですからね。それに、いつもはNが身体張って守ってくれるもん。こんなに怖いんだね。ちょっとNの事見直した」
「は? ちょっとかよ」
「ま、だってシールドあるし、Nと違ってこんなヘマ普通はしないね。ま、お前は今回もヘマすんなよっ」
「言ってろ、大根役者」
FとNがお互い笑いながら差を向ける。
さあ、皆々様。準備はよろしいか。
開幕の時間だ。
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