銃と剣 52

「ルーキー君、F、こっち来て」


 Nから二人に声が掛かる。


「あ、はい」

「何々?」

「先ほどルーキー君から聞いた場所は、矢張り、どれも解放エリアじゃなかった」

「やっぱりそうっすか」

「Nさんから話は聞きましたが、場所は全部名古屋駅から表ですよね」

「はい。そうなんっすよ」

「どれも駅から程近く。そんなに中に入った場所ではない」

「中に入れば入るほど、無法地帯の戦いには罠が張ってあったりしますからね。それを潜り抜けれる程、このクランは強くないかと」

「ルーキーさん。このクランの名前わかります?」

「え、えっと、確か……」


 大須観音でみた景色を頭に浮かべながら、颯太は先輩達の持ち物に何を書かれていたかを思い出す。

 確か、誰かが一人、弓を持っていて、そこに……。


「REDSPEAR……」


 そう、書かれていたはずだ。


「REDSPEARって名前のクラン、知ってますか!?」

「聞いたことはないな。Hは知ってる?」

「いえ、俺も聞いたことないです。ちょっと、クラン順位表取ってきますね」

「あ、私持ってるよー」


 Fは手を上げて鞄から一本の巻物を取り出す。


「ま、巻物……?」


 思わず時代劇の小道具の様なものが出て来て、颯太は目を見張る。


「ここの運営手書きのランキング表巻物だ」

「後半、すげぇ字が汚い。手書きだから」


 随分と古風なランキング表である。


「ランキング五十位までしか乗ってないけどね」

「二百個近くのクランがあるから、ここに乗っているのが上位クランって呼ばれるところ。うちは、第三位」


 Yと呼ばれるクロスボウの幹部が、ランキング表の三位の所を指差した。確かに、そこには『PIO』の三文字が書かれている。


「山犬は、五位なんですね」

「先々月は一位だったけどね。REDSPEAR……、ランキング表にはないなぁ」

「自分達のエリアを持っていない上位クランなんて、限られてきますしね。そうなると……」

「REDSPEARはランキング、第百四十二の今年の七月に出来たばかりのクランだよ」


 急に振ってきた声に全員が構え、上を見る。

 しかし、すぐ様Nが、全員の警戒を解くように手を伸ばす。


「皆、武器をさげろ。春風だ」

「皆今日もお疲れ様ー。様子見に来たよー」


 看板の上から、最早見慣れてしまったガスマスクと、迷彩色にパーカーに身を包んだなっちゃんが手を振っている。


「お疲れ様。こっちは予定通りに終わったよ。貿易をいったん止める件を呑んでくれて助かった。礼を言うよ」

「いやいや、うちも辻斬り被害にあったクランだからね。彼を止めれるならば、微力ながらも手を貸すのが当たり前だよ。N君」

「気遣いありがとう。ところで、REDSPEARの件だけど、何か知ってるのか?」

「無知にも、一度うちのエリアに攻めて来た事があってね。そっからずっと監視対象にしてるの」


 その言葉に、N以外のPIOのクラン員が全員顔を顰める。

 春風は普段、温厚、礼儀を重んじ、調和を謳い、争いを好まない立場にいる。だがしかし、一歩間違えて手を出してみろ。蛇の様に絡んで二度と離さない。どんな位置からも敵の状況居場所を監視し、取り囲み、下手の動きを一歩でもみせればすぐさま撃ち倒す。

 それが春風と言うクランなのだ。

 

「監視対象? じゃあ、今彼らは何処にログインしているのかも?」

「流石にストーカーじゃないから、そこまでは知らないけど。動きはある程度。多分次のログイン場所ぐらいなら、予想は立てれるかな?」

「ちょっと、待ってよ! N、こいつの言う事、本気にする気!? 大体、その情報だって、信用できんの?」


 Fがなっちゃんを睨みながら口を開く。F一人だけはなっちゃんに対して警戒を解かずに杖を握ったまま。


「F」

「Nは黙ってて。私との方がコイツと付き合いは長いわ」

「君を騙したとなんて一度もないじゃない。いい加減信用して欲しいけどな?」

「うっせぇ! お前が、リアルで何回、お、むぐっ!」

「F、ストップ。ストップ。リアルでの喧嘩をここで持ち込むな」


 NがFの口を抑えながらため息を吐く。


「Fの事は気にしないで、話を続けて欲しい。こちらとしては、是非参考にしたいと思っている」

「いいよー。でも、僕の話も聞いてもらっていいかな?」

「取引の申し出と言う事だろうか?」


 颯太達は一気に、なっちゃんを睨み付ける。まさか、この場面で取引を申し出るとは……。

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