銃と剣 50

 この日潤一は、何処か言い様のない漠然とした違和感を覚えながら、PIOのエリアを攻めいた。

 部活が終わり、身支度を軽く済ませて学校を出た。いつも通り、辻斬りとしてこの世界へ入れても、いつも通りだった筈なのに。何故、こんなにも違和感を覚えるのだろうか?

 現に、目の前のPIOのクラン員に攻撃を入れながらも、相手の相性が悪かったのが、かなりの上位ランカーなのかは知らないが、決定打を決め込めれずにいる。

 本来ならば、この時間迄にある程度の人数を倒しておかねば、先輩達が望む数のアイテムなんて手に入らないと言うのに。現在入手できたアイテムはまだ0個。気持ちも焦るが、焦ったところで相手は倒せない。何とか、淵に追い詰め、首を狙うが、その瞬間、相手はログアウトを行う。

 流石にログアウトをした人間を追うことはできずに、潤一はまた違う敵に向かい剣を振るう。

 

 潤一は確実にFが待ち受けるあの場所まで近づいてきている。


 潤一だって、好きで人を切っているわけでも、アイテムを奪っているわけでもない。ただ、あの先輩達に言われて、仕方がなくだ。その証拠が、これから見えると、颯太はFに言った。

 もし、目的の物さえ手に入れば、潤一は直ぐにログアウトをする。ただ、人を切りたいだけ、奪いたいだけだったらば、そのままここのクランが全滅するまで人を追うだろうし、アイテムを集めたいだけならば新たに人を襲って鞄を入手するだろう。それをしないのであれば、どうか友達を、親友を信じて欲しいと、彼はまっすぐすぎる目で、Fに言った。

 もし、ここでログアウトをしなければ、私は私のクランを守る為に君の親友を倒すから。そう、告げれば彼は静かに頷いた。

 彼女はじっと、その場で潤一が訪れるのを待つ。

 それからどれぐらいが経ったであろうか。完全に日が落ちてしまった頃、こちらに向かう足音が聞こえてくる。

 



 足音は二つ。一つは、PIOのクラン員の。もう一つは、辻斬りの。Fは物陰に隠れてて杖を構える。

 足音は近くなり、やがて一つは音もなく消える。きっと、Fたちが決めた通りこちらのクラン員がログアウトをしたのだろう。

 辻斬りは誘導なんて思わずに、Fが待ち受けるこの場所に入ってきて、息を飲む音が聞こえる。

 

「……これ、全部、瓶爆弾か?」


 正確に言うのなら、半分ぐらいはダミーだが、見ただけではわからないだろう。


「めっちゃ、いっぱいある……」


 これなら、先輩達に言われた数を用意出来ると、潤一は胸をなぜ下ろし、瓶爆弾の回収を始めた。回収したものを手当たり次第、鞄に入れる。

 

 素直かよ。

 

 罠とか思わないのかな? そう思いながら、Fは上機嫌で瓶爆弾を回収する辻斬りを観察していた。

 あの時以来だが、隠していない目は、あの時と違って殺気も何もないく、確かにまだあどけなく、子供っぽく感じる。少しつり目だけど、目大きいかも? 猫目ってやつ? こう見れば颯太の同い年と言われれば素直に頷ける。

 身体もまだまだ発展途上と言ったところか。決して低くはないが、背はそれ程高くない。

 こう見ると、本当に普通の高校生男子。本当に、あの時自分達を襲った辻斬りと同一人物であるとうのが疑わしいぐらいだ。

 

「あれ?」


 最後の一個を手に取り、鞄の中に入れようとするが、入らない。


「何でだ?」


 嘘だろと思ったが、Fは声を押し殺す。

 眉を寄せる姿から、どうやらその鞄に上限がある事を知らないようだ。それもそうか。きっと、彼は誰にも教えて貰ってないのだろう。教えてもら人も、場所も、時間もなにもかもなかったのだ。

 はてさて、ここからどうするか?


「……もう、入らないのか」


 どうや素直に現状を受け止め、潤一は手を動かす。

 そうすると、辻斬りは素直に最後の一つを元の場所に戻し、なんと、自身の鞄からもう一本の瓶爆弾を横に置く。一体、何をする気だ? まさかここで……。

 思わずFが杖を構えた。

 しかし……。

 

「1人ぼっちって、寂しいもんな」


 そう言って、辻斬りは携帯を取り出し、ログアウトする。

 Fと残された瓶爆弾はその場でただ、呆然と佇んでいた。

 

 

 

「やばい、あの子、なんか、ヤバい」


 全てが計画通りに行った旨を颯太とNに伝えにきた、Fが顔を歪める。


「何が?」

「ど、どうヤバいんっすか?」


 主語のないFの言葉に男二人は眉を顰める。


「あの、多分、すげぇ良い子だわ。ヤバい。ふーちゃんとは違うベクトルで、純粋って言うか、なんと言うか、ヤバい」


 そう言って、Fは二つ残った瓶爆弾を二人に見せる。


「二つ残ったんすか?」

「もうすでに、何か入ってたとか?」

「うんん。一個だけ入らなくて、寂しそうだからってもう一本置いていった……」


 ……あ。確かに、あいつ、たまにそう言う意味分かんないことするんだよなぁと、颯太は過去の事例を思い出すだけで済んだが、NとFはそうではない。


「あ、それヤバい。俺達の歳には本当にヤバい。……マジか、めっちゃいい奴なんじゃね? それって」

「ヤバい! なんか、私、凄く元気づけてあげたくなったもん!」

「めっちゃ、ケーキ食べさせてやりたい!」

「何、この気持ち! 母性なの!?」

「その瓶爆弾に自分を重ねたのかと思うと、切ないし、助けたいし、美味しいもの沢山食べさせてあげたいっ!」


 颯太は二人の様子を見ながら、昔からである旨を伏せておこうと心に決める。

 因みに颯太は潤一のその完成をまったくもってわからない派の一人である。だって、モノが寂しいとか、おかしいじゃん。

 どっちが正しいと言う訳ではないが、どうやらFやNにとっては潤一の行動が正解だったようだ。

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