銃と剣 43
「Fさん!」
「ん?」
一人白い歩道橋の上で夕日を見ながら佇んでいたFは顔を上げて、手を振る颯太を見た。
「あ、ルーキー君。春風の襲撃聴いたよ! 皆んなで君の心配してたんだけど、大丈夫だった?」
「はい、なんとか」
「そっか、良かった。ふーちゃん、あの後泣きながらうちのエリアに来てさ、皆んなで急いで行ったんだけど、誰もどこにも居なくて、本当心配してたんだよね……。Nなんて、もう君がログインしてこないんじゃないなって悲観的になっててさ」
「そうなんですか……」
最後まで自分を庇ってくれたあの心優しい大剣使いを思い出し、颯太は少し笑った。
あの後、彼は出来る限り最短でログインを果たし急いでこのPIOのエリアまで走ったらしい。
また、Nにも多大な心配を掛けてしまったようだ。
すぐさま次の日にでも顔を出せば良かったのだが、颯太自身も潤一の件でそれどころではなかったので仕方がない。
「辻斬りも酷い事するよね。許せない。君みたいな初心者を……」
「あの、その事なんですけど、俺、辻斬りに倒されてないです」
「え?」
Fは再度颯太を見る。
あの辻斬りに? Nでも苦戦したあの辻斬りに、こんな初心者が?
Fが颯太の言葉を半信半疑で受け止めが、彼が嘘を吐いている様には思えない。
「え? でも、辻斬りの奇襲を受けたんだよね……?」
「はい。あのそれで、俺、ここに来て、Fさんに助けてもらってってばかりで、Fさんの事、凄え尊敬してて、そんで、凄え」
ふと、Fが笑って颯太の言葉を手で止める。
わざと拙い言葉を並べて、下手に言葉を選んで、私の反応をいちいち見て。
そんな事をする時は大抵、何か要求がある時だと、Fは笑った。
「お世辞はいいから。何か私に言いたい事があるんでしょ? 何?」
Fは笑いながら、颯太の言葉を引き出す。
褒められて悪い気はしないが、それが本題ではないのはわかっている。本題はきっと、辻斬りの事でしょ? そう、Fが続ければ、颯太は頭を掻いて頷いた。
「……Fさん、俺の事、どう思いますか?」
「……ん?」
思わず、眉間にシワが寄る。勿論、Fの眉間の話である。
だってそうだろ?
一体、どんな言葉が飛び出すのか構えてみたら、お前は告白でもするのかと言う台詞だ。
「それって、どういう意味?」
そう、彼女が怪訝に聞いてしまっても誰も咎める事など出来ないだろう。
「かっこいいとか、可愛いとか、私にそう言って欲しいの?」
「え、いや、そ、そういう意味じゃないっすよ! ただ、俺はFさんが、俺を信用してくれるかが聞きたいだけで……」
「信用?」
Fは首を傾げる。おいおい。何を言い出すのかと思えば。出会って間もない、素性も良くしらない人間を信用しろ? そんな馬鹿な話なんてあるものか。
そんなに世の中甘くない事など、よく分かってると言うのに。
そう思いながらFは笑う。
「君は?」
お前はこっちを信用しているのか?
何一つ、正体も真実も明かしていない、こんな怪しい魔法使いを。
「勿論」
しかし、返ってきたのは真っ直ぐな答えで、思わずFは声を上げて笑ってしまう。いやはや、自分が高校生の時、こんなにも真っ直ぐな顔をしていたかなと。
「ふふふ……」
「な、何で笑うんっすか!」
「ごめん、ごめん。君、本当面白いね」
Fは目じりを指で拭いながら颯太を見る。
「でも、信用はしてないよ。私、嘘もお世辞も嫌いなの。だから、はっきり言うね。良く知りもしない人間を信用する程、お人好しでも馬鹿でもない」
それは酷く当たり前の言葉だ。
けれども……。
「でも、私は君の言葉は信じてる。矛盾してるかもしれないけど、君の言葉は信じる価値があると思ってる。裏切られても、君って意外に名役者なのねって、笑えるぐらいには」
嘘なんて、お世辞なんて、現実世界で舌の根が腐る程付いてきた。やりたくてやってるわけじゃない。ただ、生きる為に必要だからやっているだけだ。汚いと誰かから指を指されようが、言われようが、知ったことではない。だからこそ、このゲームの世界では自分自身に真摯にいようと、Fは思う。
だから、この言葉はFの真意だ。嘘偽りない、心の底からの声である。
「これ、答えになってるかな?」
「……十分ですよ。Fさん、俺の話、聞いてくれますか?」
颯太は笑って、Fに尋ねる。
「勿論だよ」
君は知らないだろうけど、私は君の事、これでも結構気に入ってる方なんだからねと、Fは心の中で呟いた。
本人には決して言わないけれども。
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