銃と剣 22
「うちのクラン。PIOって言うんだけど、どうかな。結構クランとしても格付けも上だし、君以外に初心者抱えてるぐらい大きな所帯持ちだし、何よりも、昨日助けた縁もあるしね!」
そう言って、彼女は手を合わせて颯太に笑いかけてくれる。
確かに、これは嬉しい誘いだ。彼女が言う通り、騙された形でこのゲームに登録してしまった颯太に、このゲームの事を教えてくれる人物は誰もいない。
ナビ子だって、登録時の対応を考えれば、それ程手厚い対応をする事はないだろう。知識がない、ルールがわからない。それは明らかに、このゲームにおいては不利である。
何故ならそれらは全て、死に直結するのだから。
「でも、本当にいいんっすか?」
上位クランからの思ってもいないお誘いに、颯太は恐縮してしまう。
それはそうだろう。
今の時点では、颯太が役にたつ要素は一つもない。
昨日あれだけFに立てていた口も、いざとなれば及び腰だ。
「うん。ま、事情も事情だしね。と、言っても、私には決定権はないけど」
「えっ?」
副団長なのに?
そう颯太が首を傾げれば、Fはクスっと小さく笑った。
「流石に団長の承認がいるんだよ。簡単なテストもあるし、それをクリアしたら、晴れてうちのクランに入れるから」
「テスト、ですか?」
一瞬だけ、テストなんて学校のテストだけで十分だ。と、頭を過ったが、学校みたいなテストをゲームでわざわざする事などないだろう。
そうなると、テストは実力を測る内容のはずだ。
実際にテストを受ければ弾に限りのある颯太は弱点もバレ、このクランに貢献出来る可能性も低いと判断されても可笑しくない。どうかテストは何とか受けずに流せれないものか……。
「ふふふ。何緊張してんの。簡単なテストだから大丈夫。取り敢えず、入るか入らないかは団長と話してから決めても遅くないよ。Nって言うの。うちの団長」
「……N? Fさんもですけど、アルファベットですね」
「そう。名前の頭文字でうちのクランは呼び合ってるの。人数が多いから、被るけれども、本名は呼べないでしょ?」
本名を呼べば、確かにリアルでの割り出しに大きなヒントを与えてしまう。顔を隠せというぐらいだから、その対策もまた必然と言うことなのだろうか。
でも、それでは何故Fは……。
「だから、私は君の名前を呼ばない。いくら、私達の占拠地だろうが、君が思いも寄らぬ進化をしてしまえば、うちのメンバーでも君が邪魔になってリアルで闇討ちを考える可能性もある。メンバーの事は信じてるけど、それでも、用心するに越したことはないからね。君も不本意に名前を名乗っちゃダメだよ」
「……はい」
「取り敢えず、今日は暇だからメンバーが来るまでここら辺を案内するよ。基本、メンバーが集まるのは午後八時からぐらいだけど、大体七時ぐらいになれば、ちらほらログインする奴も増えてくるから。団長は……、あ、今日水曜日じゃん! Nは今日来れない日だなぁ……。悪いけど、紹介は明日以降でいい?」
「はい。大丈夫っす」
「そう。ならよかった。私は基本、五時半ぐらいからここに居るからいつでも来てくれていいよ」
「学校近いの?」
思わず出た言葉に、Fは目を大きくする。
「こら。そう言う、リアルが特定できる内容の質問はいくら同じクランでも禁止だよ。それに、女の子にそういう事を行成聞くんじゃないの。内緒なんだからね」
確かに、それはそうだ。ここまで個人情報管理を徹底しているのだから、リアルの世界での情報は極力此処では出してはいけないのだろう。
しかし、彼女はその後に、でも、と付け足した。
「でも、もっと、颯太君と仲良くなったら、教えてもいいよ?」
夕日を浴びて笑う彼女の頬が本当に赤く染まっていたのかは、きっと神様だってわからないだろう。
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