銃と剣 11
「んー。聞いてる限りでは、その錦城の子に君は騙された訳だね」
少女の横で、横たわっている颯太に向かって、心底同情する様に少女は言った。
颯太はあれから、少女に促されるままここまでに至った話を少女に話した。少女自体、何故か颯太の存在には信じがたい何かを感じている様で、矛盾がないか一つ一つ丁寧に聞いていく。
そして、その結果がこの言葉である。
「あははは……。ですよねー。彼女もグル、ですよねー……」
「そりゃね。ここのアドレスを送って、尚且つ無理やり押させたわけでしょ? 少なくとも、まったくもって無関係で知りませんってのは、ないんじゃない?」
「ははは……」
まさか本当に美人局だったとは。
屈強な男たちの代わりに、大鎌を持った女に殺される寸前になるだなんて予想は出来なかったが。
しかし、心底嬉しくて舞い上がっていた颯太の気持ちは無残に踏み荒らされた事には変わりがない。
「傷心だねぇ」
「ははは……」
ここまで来ると、乾いた笑いしか出てこないのは仕方がないだろうに。
「その錦城の子は、山犬にいるか分からないけども少なくとも山犬の関係者には間違いないと思う。じゃないと、大鎌の山犬が君をタイミングよく、こんな場所で狙うなんて考えられない」
「あの、その山犬って……?」
なども少女が繰り返し言う山犬と言う単語。
最初は大鎌の名前かと思っていたが、よくよく聞いてみれば人を指す名前ではない様に取れる。
「そうだよね。騙されてここに来ちゃったら、何もわからないよね。君、ある意味凄く被害者なわけだし」
「被害者……」
「そう。被害者でしょ。こんな場所に訳も分からず不本意の不本意に連れてこられて、命まで狙われて」
「でも、貴女のお蔭で助かりました」
「助けた訳じゃないよ。私、そんなにいい子じゃないもん。言ったでしょ? 君の回答次第では、君が山犬側になっていたかもしれなかったんだよ?」
そう言って、少女は眉を下げて笑う。
本当の事だ。敵か味方か。そんな分かりやすい話ではない。
「それでも、結果は助けてくれたでしょ?」
「結果論でしょ。それは。私は、ここが自分のクラン以外に荒らされていたのが気に入らなかっただけなの。君は随分と弱そうだったし、先に山犬を始末した方が楽そう。そう思っただけ」
「それでも、俺にこのゲームの事を教えてくれてる」
「それは憶測」
そう言って、少女はまた笑った。
「私は何一つ、君に教えていないよ。そして、教えるつもりもない」
「俺の話を聞いてくれたのに?」
「それは、君が本当にルーキーなのかが知りたかっただけ。可哀そうとも思うし、同情だってするよ。だけど、今は敵でなくても味方でもない状態なんだよね」
「俺が貴女の敵になる可能性があるって事ですか?」
颯太は体を起こして少女を見る。
自分がそんな男に見えるのか。まるで、そう言いたげな彼の目を見て少女は小さなため息を吐いた。
「結論が早いよ。それって、逆も言えるでしょ? 味方になる可能性だってある」
「味方にしようとは、しないの?」
「君を? 私が?」
颯太の問いかけに少女はふふと唇を揺らす。
「仲良く味方になりましょうって?」
「それでも、いいです。貴女なら、俺を味方につける事ぐらい簡単ですよね?」
少女の実力、少女の発言。
どれを取っても、彼女はこの世界では上に立つ人間だと憶測出来る。
ここが、どんな世界かはわからないが、ここの場所は彼女の場所である事を少なくともここにいる人間達は知っている事となる。彼女がここは自分の場所だという主張していが、山犬だって反抗はしたが、否定は一度もしなかった。
そしてあの山犬でさえ、少女の前では成す術もなかった。
あの山犬だって強いはずなのに。その彼女がだ、逃げる事すら許されず前に進むしか選択肢がなかった。
そんな立場にいる彼女が、この世界に来たばかりのルーキーを何故敵に出来るのだろうか。
味方に取り入れる方が遥かに簡単だろうに。
「敵は、貴女と戦うって事でしょ?」
「君は意外に抜けてるね。そこまで分かっているなら、私が君を味方にして、何の利点があると言うのさ。それとも、自分は必ず役に立つと言う自惚れがあるのかなぁ?」
少しだけ、意地の悪い顔で少女が笑う。
「役に立つかどうかは、貴女の情報次第かもしれないですよ? だって俺、この世界に来たばかりで何も知らない訳だし。貴女にだって、俺が役に立つか役に立たないかを今の時点で決めれる程の情報はないんじゃないっすか?」
「おー。言うねぇ。そこは結構見込み有りかも。でも、はいそうですね。とは思わない。だって、敵でも味方でも無くなったら、情報をより多く提示した方、つまり完全に私の無駄足でしょ?」
「どう言う事ですか?」
敵でも味方でもない?
この状況で?
「鈍いね。少しは早いと思ってたけど、まだまだ全然。君はここを何処だと思ってる?」
「え? 名古屋?」
「はい、マイナス一ポイント」
「えっ!」
「もう一度聞く。ここは何処? 矢場町とか言ったら、そこでゲームオーバーね」
少女の問いかけをもう一度、彼はゆっくりと自分の頭の中で繰り返す。
名古屋でもなければ、中区でもない。矢場町でもない。そいなると、住所の話ではない。
ここは、何処だ? 地球の上? 道路の上? コンクリートの上?
いや違う。
ここは、中だ。
「ゲームの中?」
「良くできましたー。そう。ここは、ゲームの世界。私達の住む世界とは異なる異世界」
「貴女も、プレイヤー?」
今、はっきりと少女は口にした。
私達の住む世界とは異なる、と。
それは即ち、少女も颯太と同じプレイヤーだと言う事。
「ああ、そうだね。そうか。ちょっとややこしくなっちゃうけど、私は君の質問に答える義理は今の所ないと考えてるの」
「……何でですか?」
何でだと叫びたいが、ここでそれは悪手以外の何物でもない。
山犬やナビ子と違って、目の前の少女は話が通じる。いや、話す姿勢を向けていくれている。
そんな相手に怒鳴り散らすなんて、自分から着かせてもらったテーブルを降りるのと同じ意味だ。
「それがこの世界では、簡単に私の命に繋がる事だから」
少女がまっすぐ彼を見つめる。
真剣に。
その表情に、先ほどの様な笑顔も困り顔も何もない。
「だから答えない。私の事も、このゲームの『世界』に纏わる常識についても、クランも、山犬も何もかも。私は君に一言も教えるつもりはない」
「でも、貴女は先ほど今の所と言った。今は教えるつもりがないだけで、何かしら条件を満たせば貴女は教えてくれる気がある」
「勿論」
ニヤリと少女は颯太に笑いかける。
「言ったでしょ? 味方になるなら教える。けど、敵は勿論の事、敵でも味方でもない場合は教えられない。ここからは君の選択次第。私がいくら味方についてねって言っても、こればかりはどうしようもない」
「どうして?」
「ここがゲームの世界だからだよ」
そう言って、少女は首を傾げ颯太に問いかける。
「ねぇ、君は痛いのが好き?」
少女は笑って、杖を颯太に向けた。
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