鬼ごっこ-8 プレイヤー藍子 遮り

 この世界はどんな世界なのだろう。


 本物とか偽物とか、そういうのばかりでわからない。


 弘樹君は目の前に立っている男性に怯えている。


 やっぱりこの男性はあの男性なんだ。


「いい加減にしろよ。俺は忙しいんだ」


 男性は威圧的な態度を見せてきた。弘樹君は視線を斜め下に落としている。


「あ、いえ、えっと、すみません。人違いでした」


「んだよ……。だったら話しかけんな。ちっ」


 男性は人込みに紛れて消えていった。弘樹君も呼吸を整えている。


「大丈夫?」


 声をかけると、弘樹君は弱弱しく応えた。


「大丈夫。ちょっと動揺しただけ……」


「そっか。でもさっきの人、あの人だよね」


 弘樹君は心を落ち着けて、私の問いに考えを巡らせた。


「うん。間違いない。あの時の、電車の中にいた人だ」


「でも、なんか様子がおかしくなかった?」


「そうだね。まるで、記憶がない……みたいな……」


 そこまで言い、弘樹君はまた考え出す。答えまでの道筋を立てるように、思考の中に入っていった。


 私も、何か手伝える事をしなくちゃ。


 まずはアプリを確認してみた。『犯行声明』のアプリを立ち上げた。黒い画面に映し出された花に変化が……あった。すぐに弘樹君に画面を見せる。


「ねぇ、弘樹君。この人数……」


 すると、遮るようにあのアナウンスが鳴り響いた。


『ぴんぽんぱんぽーん。敗北者、ゼロ名。勝利者、イチ名。タイムリミット、残り六時間。タイムリミット、残り六時間』


 私たちの花が溶けていった。


「えっ……? 勝利者って……?」


 弘樹君はアナウンスを聞いてすぐに、アプリを確認した。


「これは……?」


 弘樹君が見せてくれた『各駅停車場所』のアプリに映し出された矢印は二つだけだった。そして、私の持っているスマホに映し出された『犯行声明』のアプリに表示されている人数も二人になっていた。


「どういう事? これって私たちだけ……?」


 弘樹君は何かに納得したように頷いた。


「うん。『各駅停車場所』も『犯行声明』も確認した通り。矢印と花束が一人分減っている。つまり……。裏切り者は、恵美さんか、和志だ」

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