鬼ごっこ-4 プレイヤー和志 開始

 なーんでこんなおいしくもない展開になっているんだか。


 弘樹が俺の肩を壁に押し付けてくる。


「弘樹ー。痛ぇんだけど……」


 言うと弘樹の力がさらに強くなった。


「なんで、お前がここにいるんだよ」


「なんで、って言われても……。お前たちと同じように勝ち上がってきただけだろ?」


「嘘を吐くな。僕まで騙せると思うなよ」


「って事は、後の二人は騙せるって事かよ。それって酷くねぇ?」


 けらけらと笑う俺の両肩を壁に押し当てた。


「そういう問題じゃないだろう! お前は前のゲームで負けているはずだ。なのに、なんでここにいるんだ?」


 へぇ、この展開もなかなか面白い。俺が好きな展開だ。


「弘樹は、何でだと思う?」


 苛立ちを見せる弘樹は、俺を掴む手に力が込められていく。こういうシーンも望ましい。ここまで順当すぎて退屈だったからな。


「僕は、和志が、智巳さんの花を奪った、と思っている。違うか?」


 なるほど……。ありきたりな読みだがそこまで考えを巡らせているだけでも良い方だな。


「まあ、外れではないけど、語弊はあるな。それでも正解は二割ほどだな」


 弘樹は俺の肩を掴んでいた手を離し、口元に手を当てた。少しの間考えると、何かを見つけたように俺に質問を投げかけてきた、


「という事は、智巳さんが自ら渡したという事か?」


「何でそう思う?」


「そう考えるのが自然なんだよ。今回追加された『犯行声明』で、和志の花の数は五本。前回の世界では和志のスタートの時点では四本。この世界で花を増やす項目は特にない。つまり、和志がこの世界に進めたのは、智巳さんが勝利者になった時に花を受け取った。奪い取った、では智巳さんが勝利者になる事は無い」


 こいつは頭だけは良い。頭だけだけどな。


「弘樹は、智巳が勝利者になっている、という過程で話を進めているな。だけど、このゲームには裏切り者がいる。その事実とそれが誰なのか、気付いているか?」


 俺の言葉に弘樹は黙り込んだ。やっぱり、弘樹はこういう部分が弱い。少しの揺さぶりで、軸を失ってしまう。


「裏切り者……」


 やはり気付いているようだ。俺も考えるところがある。


「弘樹も確認したんだろ? 面白い展開になってきたな」


 弘樹はスマホの画面に視線を落とす。開いているのは当然『各駅停車場所』。


「俺は防弾チョッキを取りに行く。お前はどうする? このまま花を失っていくか?」


 俺の持っている花は残り四本、弘樹の持っている花は残り五本になっている。


「防弾チョッキはおそらく、このアプリの減少を止める者だろうな。ただ……」


 俺は弘樹の後ろを指差した。指し示す方から、数人の男女が走ってきている。


「いたぞー! 指名手配の二人だ! 捕まえろー!」


「捕まったら、前回同様だろうな」


 俺は路地に逃げ込んだ。


 弘樹は俺とは別の方へと逃げていった。


 鬼ごっこの始まりか。

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