第32話 心から

 店主の名はロバーツさんというらしい。

 姓か名かは知らない。


 話を聞くとそれなりに名の通った商人であるらしいが、貴族と売買ができる程の伝手があるのだから当然と言えば当然だ。


「旦那、さっきの剣をもう一度見せてくれねえか?」


 それは蛇剣キルギルスのことだ。


 同じくダンジョンで手に入れた物だと知ると、ロバーツさんの表情は変わった。

 その流れで蛇剣を一度、鑑定に出してみないかという話になったのだ。


「旦那、あまりダンジョンだとかそういう物騒な単語は不用意に口にしない方がいいぜ」


「物騒?」


 確かに物騒な場所ではあったけど……。


「とりあえずこれは俺の持ち物として鑑定にかける。その方がいいだろうし、それくらいはさせてくれ。ダンジョンの産物ってのは得体が知れねえ。百歩譲って伝説級や神話級ならまだしも、幻想級なんてことになったら旦那の命が危ねえからなあ」


 ロバーツさんが解説している間、シエラさんは蛇剣をまじまじと見つめていた。

 それにしても命が危ないとは……まったく、物騒な世の中だ。


 《クックのおもちゃ屋》――。


 笑みを浮かべた茶色の杖と、白い髭を蓄えたとんがり帽の老人の看板を目印に、大手クックグループが展開する雑貨屋である。

 ロバーツさんが教えてくれた。


「大きいのです~!」


 ネムは店の外装やその看板に興奮していた。


「トアの故郷にもこんな店はあったりするのか?」


「……分からないわ。町へはあんまり行ったことがないから」


 魔族なのだから大森林という地の出身だとは思うが、一体どんな生活をしていたのか。


「おもちゃ屋なんて言ってるが、中はただの魔道具専門店だ。まあ、とにかく入ろう」


 ロバーツさんはどことなく楽しそうな様子で店へ入って行った。


 中へ入るとそこは高級感溢れる宮殿のような世界が広がっていた。

 赤いカーテンに金の縁の窓ガラス。

 天井には青と白の結晶が照らすシャンデリア。

 床は刺繍の入った赤い絨毯一色だ。


 すべての商品がショーケースで陳列されている。

 壁際には甲冑や剣、盾などの防具や武器があり、中にはどう見てもただのパーカーにしか見えないような服まであった。


 中央には理科の実験で使いそうなガラス瓶に入った液体なんかも並んでいる。

 そんな光景が店の奥へと続いていた。


「とりあえず、先にこれだ」


 ロバーツさんはそう言って俺の蛇剣をカウンターの女性へ手渡していた。


「凄いのです! キラキラしていて広いのです!」


「ちょっと、ネム」


 ネムは目を輝かせながら店内へと消えた。

 その後ろをトアが追いかけていく。


「シエラさんも中を見てきたらどうですか? 俺はレイピアのことはよく分かりませんし、シエラさんが自分で選んだ方がいいと思うんです」


「それは、そうですが……」


「気にしないでください。なんだったら屋敷に泊めてもらっている分の家賃だと考えてください。その方が俺も助かります」


 元々、何かでお礼はするつもりだった。

 だが異世界の風習に疎いこともあり、どうお礼をすればいいのかが分からず先延ばしにしていた。


「では、その、お言葉に甘えさせていただきます」


 そう言って照れくさそうに浅く頭を下げると、シエラさんも同じく店内へ消えた。


「旦那も見てきたらどうだ? 俺はここで鑑定結果を待ってる」


「分かりました」


 ヒーラーの役に立つ物などあるとは思えない。

 道具でカバーできるなら最弱なんて呼ばれないだろう。

 特に欲しいものがあるわけでもないが、少し見て回ることにした。







 店内を物色しているとトアに出くわした。


「トア、なんか良さそうな物とかあったか?」


「マサムネ。そうねえ……特にないわ。剣なら持ってるし、防具って言ってもあんな鎧は着たくないし。できれば軽い方がいいわ」


「さっき軽そうなパーカーを見つけたけど」


「お客様、でしたらこちらなどはいかがでしょうか?」


 話を聞いていた店員が商品を勧めてきた。


「こちらは希少級の軽装防具でして、ワイバーンの鱗を鍛え作り上げた物になります」


「希少級?」


 初めて聞く言葉に首を傾げていた。


「希少級といいますのは、武器や消耗品や書物それからモンスターの素材など、すべての物の価値を示す基準のことです」



一般級……Bランクモンスターの素材や鉱物など、低品質の素材により生み出された物。


希少級……Aランクモンスターの素材や鉱物など、高品質の素材により生み出された物。


国宝級……Sランクモンスターの素材や鉱物など、国宝級の素材により生み出された物。


伝説級……SSランクモンスターの素材や鉱物など、伝説級の素材により生み出された物。


神話級……SSSランクモンスターの素材や鉱物など、神話級の素材により生み出された物。


幻想級……無限級モンスターの素材や鉱物など、未確認の素材により生み出された物。



 Cランク以下に該当する物については、価値基準が設定されていないらしい。

 つまりゴブリンから取れるような物に一々価値などないということだ。


 それにしてもそんな基準があったとは知らなかった。

 それならもう少し価値の高い物が欲しい。

 それにこのワイバンーンの鎧はゴツゴツしていて、軽装だがトアには似合わないだろう。


「あの奥には何があるんですか?」


「あちらは国宝級のコーナーになります」


 それはこことはまた別に設けられた部屋だった。

 赤いカーテンの隙間からショーケースが見える。


「中を見せてもらうことはできますか?」


「申し訳ありませんが国宝級は非常に高価な物になりますので、当店では入室いただく際、事前にご予算の方を確認させていただいております。失礼ですが、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「そうですねえ……着る物ですし1000万リオンまでなら出せますけど、そのくらいで大丈夫ですか?」


 俺はローブのポケットから先ほど手に入れた札束を出した。


「もっ、申し訳ありません! こちらへどうぞ」 


 店員さんは札束に驚いていた。


 つまり国宝級でもこのくらいあれば十分だってことだ。

 客観的に見て俺は金を持ってなさそうだし、それも込みで驚いていたんだろう。


「ねえ、マサムネ。1000万リオンって、本気なの?」


「本気って?」


「だって1000万よ? ヨワスタインがいくつ買えるか分からないわ。大金が手に入ったのはいいことだけど、そんなに簡単に出していい金額なの?」


「どうだろう……でも防具だしそのくらい出してもいいんじゃないか? 旅の資金なら依頼でまた稼げばいい。まあ、どちらにしてもとりあえず一度見てよう。相場も分からないしな」


「……そうね」


 トアも相場や貨幣価値は分かっていないだろう。

 心配してくれているのか、金を散財する俺にどこか納得していない様子だった。


 国宝級は他のエリアに並ぶ商品とは明らかに扱いが違った。

 室内は雰囲気づくりのためか暗く、まるで水族館だ。

 ショーケースの縁が金色で、中はライトアップされている。

 さらに休憩用のソファーまで完備されていた。


「トア、これなんかいいんじゃないか?」


 そこでトアに似合いそうな物を見つけた。


「……天守の羽衣?」


 トアは文字を目でなぞった。

 俺には象形文字のようにしか見えない。


 それは白いレース生地が綺麗な軽装だった。

 防具という感じはしないし、羽衣という時点で防具でもないだろう。


「こちらは天守の羽衣と言いまして、上級錬金術師が国宝級の生地と鉱物を組み合わせて作った物になります。頑丈かつ伸縮性もあり、そして何より軽量です」


「マサムネはどう思う?」


「そうだなあ。トアには鎧よりもこういう物の方が似合うんじゃないか? 質も良いみたいだし、俺は良いと思うけど」


「じゃあこれにするわ」


「すみません、これはおいくらですか?」


「こちらは150万リオンになります」


 意外と手ごろな値段だと思ってしまった。

 だが150万……喩えばこれが日本円だったとして、どこの庶民が服に150万も払うだろうか。


「マサムネ、大丈夫? お金はこの先の旅に必要だし、無理しなくても大丈夫よ」


 トアの心配そうな顔が覗き込んだ。

 異世界に来ても治らない優柔不断な性格。

 カッコ悪い。


「いや、全く問題ない。それにこれは俺が買って上げたいだけだから」


 背に腹は代えられないと誰かが言った。


「すみません、これをください」


「お買い上げありがとうございます。直ぐにお持ちします」


 その後、買う方向で話を進めたが、トアがまず試着したいと言った。


 俺はその間、シエラさんやネムの様子を見に行くことにした。


 ネムは国宝級のエリアでショーケースを眺めていた。

 いつの間に入ったのか。


「ネム、何か欲しい物は見つかったか?」


「んん……よく分からないのです。見たことない数字ばかりで頭がクラクラするのです」


 ネムにはどんな服が似合うだろうか。

 俺は店員さんを呼び、ネムが猫族であることを説明した。

 それからネムくらい小柄でも着られる防具がないか尋ねてみた。


「でしたらはこちらなどはいかがでしょうか?」


 すると店員さんはキラキラと輝く薄手のシャツのような物を持ってきた。


「こちらはミスリルと言いまして、エルフの上級錬金術師と上級裁縫師の手によって生み出されたものです。インナーとして着用いただけます。お値段は200万リオンと高価なものになりますが、伸縮の魔法が施されておりますので、歳を重ね背丈が変わっても問題なく着用いただけます」


 このただのシャツが200万もした。

 エルフとは一体何者だろうか。


「これは頑丈なんですよね?」


「はい、もちろんです。国宝級の素材を使用しておりますので」


 トアの服と合わせて350万、まだ序の口だ。

 ということで俺はミスリルを購入した。


「ネム、服の下にこれを着るといい。ネムの体を守ってくれる」


「ご主人様、これは高いのではないですか?」


「そうだな。でもこの服は今後、ネムの体を守ってくれる。そう考えると安いくらいだ」


「本当なのです?」


 ネムは少し申し訳なさそうにしている。


「ああ。向こうでトアと一緒に試着しておいで」


 ネムは俺の目をじっと見つめ、「分かったのです!」と笑顔で駆けて行った。


「――ご主人様」


 だがその場を離れようとした時、またネムの声が聞こえ、振り返るとそこには試着しに行ったはずのネムが立っている。


「どうしたんだ?」


「……ありがとうなのです!」


 無邪気な笑みを浮かべながら、ネムはそう言って再び駆けて行った。

 その後ろ姿に思わず笑みが零れるほど、ネムは無垢だった。


 すると入れ替わりでトアが試着室から姿を見せる。

 その瞬間、トアに初めて会った時のあの感覚がよみがえってきた。


「あれ、その服どうしたんだ?」


 トアは先ほど買った羽衣以外に、身に覚えのないインナーを身に着けていた。


「私の髪の色に映えるからって、店員さんがサービスしてくれたの」


 それはまるで竜宮城の乙姫のようだった。

 確かに綺麗だ、思わず見とれるほどに。


「にっ、似合ってるじゃないか?」


 ぎこちなく感想を述べると、トアはクスっと笑い「ありがとう」と言った。


「ご主人様、着られたのです!」


 そこへ無邪気な声が聞こえた。

 振り返るとネムまで知らない服を着ている。


「店員さんに貰ったのです!」


 ネムは肌触りの良い真っ白なパーカーと短パンを身に着けていた。

 胸元から微かにミスリルが見える。そこで気づいたのだが、何故かパーカーのフードに耳が付いている。


 店員さん曰く、これは猫族のパーカーで、フードを被っても中で耳が立てられる仕様になっているそうだ。

 そしてこれらは二人の言うとおりサービスであり、代金はいらないと言われた。


 ようやく、次はシエラさんのレイピアだ。

 店内を見渡すと、そこにショーケースを眺めるシエラさんの姿があった。


「良さそうな物は見つかりましたか?」


「マサムネ殿。それが……」


 そう言葉を濁すシエラさんの目の前のショーケースには、雪の結晶をモチーフにしたような剣が見えていた。

 まったく分かりやすい人だ。


「そちらはユニコーンの角を鍛え作られたレイピアです。それもアルダ山脈に生息しているユニコーンです」


「アルダ山脈?」


「アルダ山脈はモッドヘルンにそびえる標高一万メートルの山脈です。そこは何百年ものあいだ雪が降り続ける白銀の世界であり、ほとんどのモンスターはその寒さから近寄りませんが、その土地のユニコーンはこの山を縄張りとしているそうです。この山で育ったユニコーンの体内には氷属性の魔力が生まれ、角にはその核が宿ります。そして厳しい環境によりユニコーン自体も質の高いモンスターへと変わっていきます」


「そんな山にわざわざ狩りに出かけるんですか?」


「厳密には少し違います。稀に山の麓までユニコーンが降りてくるのです。そこを捕獲し剣に鍛え上げましたのが、この氷結晶のレイピアです。刀身には氷属性の核が使われており、氷の魔力が宿っています。もちろん鍛え上げたのは上級鍛冶師ですので、お値段は500万リオンと高価ですが、質の保証された一品です」


 シエラさんは500万と聞いて表情を強張らせていた。


「そういえばシエラさんは氷属性の魔法を使っていましたよね? もしかして、このレイピアとは相性がいいんじゃないですか?」


「それは確かにそうなんですが、これはあまりにも高すぎます。私は未熟な騎士ですし、もっと他の安価な物の方が――」


「じゃあ買うかどうかは別として、シエラさんから見てこの剣はどうですか?」


「それはもう素晴らしいですよ! 刀身の輝きといい、鍔といい柄といい、何より付与ではなく氷属性の核が宿っていますし、文句のつけようがありません!」


「じゃあ、これをください」


「ありがとうございます」


 店員さんはノリに合わせた。


「ちょっ、ちょっとマサムネ殿! いけません! こんな高価なもの、私はいただけませんよ!」


 シエラさんはその後も頑なに受け取ろうとしなかったが、「もう買ってしまったので返品不可だそうです」と無理やり押し付けてやった。


 最後は「すみません、一生の宝物にします」と折れていた。


 代金は合計で850万リオン。

 残りの手持ちは端数を除いて2150万リオンとまだ十分に余裕があった。

 これくらいの買い物をしても別に罰は当たらないだろう。


 その後、会計を済ませカウンターへ戻ると、蛇剣を片手にロバーツさんが待っていた。

 だが何故だか様子がおかしい。


「お待たせしました」


 ロバーツさんは三人の一変した姿に「随分と楽しんだみたいで何よりだ」と感想を述べると、シエラさんのレイピアを見るなり「氷結晶のレイピアとはこれまた上等だ」と知った口だった。


 だがそれだけで、特に会話も交えず直ぐに店を出た。

 少し不自然に思えた。


 思わずトアやシエラさんと目を合わせたが、二人とも首を傾げるだけでロバーツさんの様子の意味は分からなかった。


「旦那、これは返しとくぜ」


 店を出るなり蛇剣を返すロバーツさん。


「それで、どうでしたか?」


 だが蛇剣を渡されて何となく気づいた。

 つまり鑑定で何かあったんだろう。


「その剣の価値はここじゃ計れねえらしい」


「計れない?」


「ということは、伝説級以上ということですか?」とシエラさん。


「いや、あの店員は伝説級までならここでも計れると言っていた。つまり、少なくともそれは現時点で神話級以上の武器だってことになる」


 シャオーンが使っていたものだし価値は疑っていなかったが、まさかそこまでだとは……。


「そうですか」


「神話級ですか……初めて拝見しました」


「俺もこんなもんを見るのは初めてだ」


「神話級はそんなに珍しいんですか?」


「珍しいなんてもんじゃねえ。まず神話級以上は市場に出回らねえんだ。存在しないと言っても過言じゃねえ」


「存在しない? でも価値基準として設定されてるんですよね?」


「本店に行けば神話級以上の物もあるとは聞く。だが俺はそんなもんは一度も見たことがねえ。時に裏で流れてるって話も聞くが、やはり見たことはねえ」


「どういうことですか?」


「いい加減なのさ。一応の基準はあるものの、それがあるかどうかなんて実際のところは分からねえ。だからこそ物には幻想級があり、モンスターには無限級がある。あの店員だってそうだ。計れるなんて言ってるが、厳密には伝説級までしか見たことがねえのさ。それも信ぴょう性は薄い」


 従って、それはモンスターにも言えることであるらしく、SSSランク以上は確認されていないらしい。


 ロバーツさんは蛇剣についてまだ何か言いたいことがあるように思えたが、そこで話をやめた。


 そう言えば、合わなければ蛇剣をトアに渡すようにとシャオーンが言っていた。

 俺は何も考えずに手持ち無沙汰から使っていたが、剣術を教わり分かったことがある。


 ――この剣は俺に合っていない。


 違和感というか、何か歯に物が詰まったような感覚がある。


「なあ、トア。良かったらこの剣、使ってくれないか? ブロードソードと交換ってことで」

「えっ、どうして? 神話級以上の価値がある剣なんでしょ? マサムネが使えばいいじゃない」


「それがどうも俺には合わないみたいなんだ」


「合わないって言われても、私だってそんなもの使いこなせないし……」


「使っていて思うんだけど、これは何ていうか、男性用の剣じゃないんだよ」


 もっと言うなら人間用ではない。

 何故かは分からないがそんな気がしていた。


「だから多分、トアには合うと思うんだ」


 乗り気ではない表情のまま、トアは剣を受け取ると柄や刀身を眺めた。


 だがしばらくして「分かったわ」とだけ答えると、腰のブロードソードを渡してきた。


「え、いいのか?」


「うん。なんとなくだけど、これでいいわ」


 何か気づいたことでもあったのだろうか。

 だがトアの表情には満足感があるように思えた。


「旦那、あんたは本当に欲がねえんだな。そんな貴重なもんを易々とやっちまうなんて、俺には気が知れねえぜ。それだって売れば一体いくらになるか……」


 ロバーツさんは金のことしか頭にないらしい。だが商人なのだから仕方がない。


「いいんですよ。それにお金ならまだ二〇〇〇万以上残ってますから」


「……やっぱり旦那は変わった人だ。欲がねえのか器がデカいのか」


 俺に限って器がデカいなんてことはないだろう。

 この人も口が上手い。


 その後、ロバーツさんと別れた俺たちは、王都へと向かう馬車の中にいた。

 罪悪感があるのか、シエラさんはレイピアのお礼を何度も伝えてきた。


「いいんですよ。もしシエラさんが家に泊めてくれてなかったら、俺とトアは数日は外で寝ることになってましたし、ご飯だって食べられなかったかもしれません」


 何となく気が向いた時にだけ依頼を受けられているのも、こんな生活ができているのも、シエラさんが家にいてもいいと言ってくれているからだ。

 今があるのはシエラさんのおかげだと言っても過言ではない。


 ネムは俺の隣で猫耳の生えたフードを被りながら眠っていた。

 どうやら知らない土地に来て疲れたらしい。


 羽衣を纏い、ときおりその薄いピンク色の髪を風になびかせるトアは来た時よりも美しい。やはりこの羽衣にして正解だった。

 だがトアはこれ以外に欲しいものはなかったのだろうか。


 最近ふと我に返ることがある。

 すると一瞬、三人が俺の前にいるという事実に夢を見ているような感覚を覚える。

 でもこの間まで一人だった俺には仕方のないことだ。


 ただ死にたいだけの毎日が続くあの日なら、想像もできなかっただろう。


 だから三人には感謝している……心から。

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