10 入門 - Register - d
「
「ほほほ、
「園屋さん、やめてくださいな。でも、あのときは本当に講座についていけないと思いましたよ」
「ただ、あれは
「しかし、
「だと良いのですが……」
「てぃッあちゃーん! いるぅー?」
渋い緑茶が似合いそうな年寄りの
パッと入口に目鼻立ちのくっきりとした女子高生が立っていた。
キャラメル色のゆるふわな髪をノットヘアーでまとめて片側に寄せている。根元で編み込んだポニテールを片方に流している感じだ。そこに淡いブルーのリボンをくるりと巻いている。
マスカラ、チーク、リップグロス、口紅は比較的ナチュラルだ。が、ピンク色のリボンをだらしなく下げた、ネイビー色のブラウスの胸元は大胆に開かれており、金と銀、二枚のハートが重なったネックレスが目立っている。ふたつのハートには、数カラット程度だがダイアモンドが端の異なる位置に埋め込まれており、少々お高い物であることが
下はベージュを基調として白と黒と赤のラインが入ったチェックのプリーツスカート、腰には白色のカーディガンを巻いている。
式典の時は制服でも、普段は
梯亜はゴシックアンドロリータ的なファッションだが、ただ
サッと梯亜がデスクの下に潜り込む。
「ちょ、てぃあちゃん、なんで隠れるかなー。せっかくおみやげあるのに、えれなちゃん悲しみだよぉ」
梯亜が顔を半分だけデスクすれすれから出す。お菓子を突き付けられて黙っていられる梯亜ではなかった。ただし、ジト目だ。
最近自分のことを下の名前で呼んでくれる人がいないと蓮には言ったものの、この少女が呼んでいたなと思い出した。ま、彼女は呼んでくれる人のカウントに含めなくていいだろう。
園屋、三村、
紙袋の中身はきっと高級なチョコレートかクッキーだろう。
この、
彼女は、娘の成績を憂慮した父親に連れられてこのパソコン教室にやって来た。
しかし、梯亜は当初、彼女の入会を拒んだ。確実にそりが合わないと思えたからだ。
梯亜は、塾に通わせるか家庭教師でも雇えば良いのでは?――と考えたが、今まで全部駄目だったと聞かされた。ここが
けれども、実業家の父親から三億円の融資をもちかけられて
もちろん、ここはパソコン教室なので、「高等学校学習範囲修得講座」や「大学受験範囲習熟講座」などという講座はなかったので作成するハメになったが。
梯亜は彼女が教室に来るたびに不満が
入会して一年が
春休み中に某塾で受けた模擬試験では、五教科総合得点で全国クラスの成績をたたきだし、もはやどんな大学でも選びたい放題となった。もう頭が悪いなどとはいえなくなってしまった。
だが、梯亜はその成績上昇を好ましく思ってはいなかった。
あまりの上昇率に教師らは
そして最終的に、絵礼奈が学校で取材を受けたと聞いたからだ。パソコン教室にまで取材班が押し寄せてくるのは梯亜としては正直勘弁だった。
けっきょく、絵礼奈が吉田パソコン教室のことをしゃべってしまったので、梯亜は若干非合法な手段で取材元出版社からデータを消去せざるを得なくなったのだ。絵礼奈にも転校してもらった。
以来、梯亜は絵礼奈のことをあまり好きになれないでいた。
あと、どことなく自分を子ども扱いしているように感じられてならないからだ。
が、差し入れは違う。ありがたく
「お茶を
しばらくすると、五人分のお茶をお盆に乗せて運んできた。
ひとり一人に配る。
茶葉は
お茶を配り終えると、いよいよ
お土産は
お菓子好きな梯亜でもこれは許容しかねた。
「こんど、パリの洋菓子コンテストに出そうと思って☆」
彼女は将来、
……これで良いのでしょうか? 審査員に笑われないですかね。
――と思いつつ、一口食べて衝撃を受けた。見た目に反して以外にイケたからだ。つぶあんとクリームが混ざり合って調和し、とろっとした舌触りを形成している。羊羹が甘いので、クリームの砂糖はかなり控えめにしてある。
たしかに、つぶあんとクリームという組み合わせならパフェやあんみつにありそうですものね。
梯亜はしっかりと二個目を
「星葉さんは高校と受験の講座は……もう終わってしまいましたから、今日から別の講座を受講してみたいということでしょうか?」
梯亜が問うた。
「ううん、今日は違うの、ちょっと相談があってきたんだ」
「相談?――ですか」
兄弟や姉妹も入会させてほしいとでも言い出すのではないかと構えた。
「うん、パパの会社の子会社?――でジョーホーローエー? ――があってヤバいんだって。てぃあちゃんだったらどうする?」
情報漏洩はそんなに長音記号ばかり言葉ではなかったとはずだが。あと、具体的に何が起こったのかまるで分からなかった。
「もう少し詳しくお聴かせ頂かないとなんとも」
絵礼奈は少し考える素振りをして言った。
「うーん、てぃあちゃんでもわからないかぁ……」
心底悲しそうな顔をした。
これには、さしもの梯亜も怒りの
「そこまでおっしゃるならいいでしょう。少々手荒ですが、私のほうで全て解決させてみせます。誤って会社を倒産させてしまうかもしれませんがあらかじめご了承くださいね」
梯亜の発言を聞いた絵礼奈は慌てる。
「まって、まって、てぃあちゃんゴメンて、わたしの言葉がたりなかったよぉ」
梯亜の前で拝んで必死に
「星葉さんのお父様の会社ということは
絵礼奈は
「ええっとぉ――」
記載されている情報を読み上げようとする。
「――その前にひとつお訊きしたいのですが、お父様はこの件を私に話しても構わないと?」
「うん。パパがてぃあちゃんに相談してみてって」
梯亜は周囲を見て提案する。
「ちょっと場所を替えましょう」
それから生徒たちに断りを入れる。
「皆さん、私は少し席を外します。今お聞きになった件は全て忘れてください」
そう告げると、梯亜のデスクのさらに奥にある扉を開いて、絵礼奈とともにその中へと消えていった。
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