10000PV記念 「恋」

 テーレテレレレ

 テーレテレレレ(なんか中国っぽい音がバックで重なる)

 テーレテレ↑レレ

 テーレ テーレレレーレ

 テーレテレレレ(ズッチャッズッチャッズッチャッズッチャ)

 テーレ テーレレレーレ

 デッ デッ デッ

 テッテッテー(ズッダダダダダッ)


 いーとなm*****(まずいですよ!)





 俺は携帯で昔流行った曲ベストなんとか的な動画見ていた


 この曲は俺が生まれる前にメチャクチャ流行ったらしく、それに付随するダンスも中高生の間で流行したらしい


 有名なので聞き覚えがあり、星の数ほどある曲の中では割と好きな部類ではあるが作者がかなり老齢、ていうか今生きているかどうか忘れた



「ねえ、生物の課題……」



 一人黄昏れているといつもの女が俺の席に近づいてきたので、何かいい終わる前にノートを投げ渡した


 この女は自力で課題をやらず、いつも俺にノートを見せるようせがんでくる


 最初は卑怯だと思い無視していたがうるさい女仲間に19点の生物の答案を見せびらかし自慢していたので、哀れに思って見せるようにしてからはこのザマである



「ハッ、見たところでどうせまたゴミみたいな点数取って終わりだろ。これじゃ高卒どころか中卒だな。ほれほれさっさと写しやがれ、ただし提出日までに返さなかったら屋上から突き落とす」

「うーい」



 適当に罵倒したらまた歩いていったのでイヤホンを耳にさし直し動画を再生し直した


 しかし一度消したせいで最初からになってしまい、さっきの曲も忘れたせいで嫌気が差し机に突っ伏した



 恋…そうだ、さっきのは確か恋とかいう名前だった


 恋。


 恋ッッッ!



 _______________




 飼育員ヒデ……になる予定の少年、齢にして14、中学二年の時の話だ。


 恋とは無縁に見える男の恋の話だったりする。



 _______________



 場所は少し離れてジャパリパーク


 年パス…というかほぼ顔パスでゲートを通過した俺はスカイインパルスの住処に向かっていた


 このときは彼女らはまだ家ではなく手作りの住処で寝泊まりしていて、俺はよくそこに遊びに行っていた

 殆どの客はイベントでもなければフレンズと間近で対面することは殆どないが、俺はなぜかスカイインパルスのメンバーには心を許されており住処まで行けば確実に会うことができた



 自動運転のバスに乗り込みホートクの森まで一直線だ


 ただ今回は少し状況が違う



「ねえ♡」

「なに?♡」



 高校生くらいだろうか、金髪でチャラそうな男と部屋着のような服を着た女が目の前でイチャイチャとじゃれ合っている

 公共の場でリア充アピールするようなやつはだいたい頭の悪いサルみたいなものなので、どうせ何らかの利害の一致かだろう


 金欲や性欲のために異性を求めすりよる姿は獣にも劣る


 だが彼らはいずれそれがうわべだけの関係であることに気づき、そしてまた次の宿主を探すのだ


 汚く


 黒く


 醜く



 ……いや、羨ましいわやっぱり


 あのカップルの男に入れ替わりたいというわけではないし、それは全力で否定する


 ただ明確に恋愛感情を持てる対象が特定でき、さらにその相手が目の前に存在し一緒に居れるというのが羨ましい


 難しくなってしまったが、まあ色々あるということだ



 _______________________



「タカ、おかえりなさい!」

「ああこら! 危ないと何度言ったらわかるんだ君は…まったくフレンズより聞き分け悪い子だ」



 スカイインパルスの住処に先に侵入しメンバーの帰りを待っていると、担当の飼育員を抱えたハクトウワシに続いてタカとハヤブサが帰ってきた


 この少し前フレンズの指導要領?が大きく変わったらしく、改めてタカ達には飼育員がついて世話をしていた

 ただ世話と言っても一度自立試験をクリアしているだけあって飲み込みは早く、猛禽の高い知能で難なく試験自体は通ったようだった


 試験自体は。



「今日も良かったよ。タイムも縮まったし試験の結果も良好、ハヤブサとハクトウワシはもう好きに飛び回っていいと管理センターから連絡があった」

「グレイト! もうあんな大変な面倒なテストは無いのね?」

「もう二度とやりたくない…あんな退屈な時間はごめんだ! もう無いよな飼育員」


 ハヤブサとハクトウワシの顔を見るにかなり苦痛だったようだ

 後で聞いたら道徳のビデオを見た後簡単な面接のようなテストをしていたらしい


 猛禽故に知能は高いがやはりそこはフレンズだ



 ハヤブサが疲労しきった顔で倒れ込みジャパリまんを咥えると、なにか準備をしていた担当の飼育員が一回だけ頷きパソコンを弄り始めた



「タカは? ねえねえタカはどうだったの」



 静まり返る住処

 ジャパリまんを咥えたまま寝転がったハヤブサが床材の枝を鳴らした音だけが響いた


 曇り顔の飼育員が音を立てないように俺に近づき住処を離れるよう言ってきたが事情を知りたかった俺はそれを拒んだ


 タカはさっきから一言も発さず、そっぽを向いて本を読んでいる



「その…試験自体は満点だった。筆記はフレンズの中でもトップレベルのスコアだったしそこは認めるよ。ただちょっとカウンセリングの結果が良くなくてねぇ。病んでるとかじゃないんだけどかなり深刻な悩みを抱えてるみたいなんだ」


 この飼育員はかなりベテランで、指導要領改定でスカイインパルスの短期担当になるの前にはあのゴマバラワシを見事に躾け話題になっていた

 しかし今は眉間にシワが深く刻まれ唸るばかりである



「その…セルリアンとかじゃ」

「お、おい嘘だろ…!?」

「それは絶対にないよ。私が責任を持って言う。こうなる前から30分ごとに安否は確認してるしサンドスター濃度も正常だ」



 その言葉で俺とハヤブサとハクトウワシは一旦胸をなでおろした


 タカが試験不合格になるほどの悩みとは一体


 変な客? フレンズ関係?



「タカがおかしくなったのはいつから?」

「先週の今日、君が最後にここに来た日だ」



 そこで飼育員の目が俺に向く

 同時にシワが少し薄くなった



「…タカになにかしたのかい」

「無防備に寝てたから少し抱きついた」



 飼育員があからさまに頭を抱えて倒れ込んだ


 まあフレンズに抱きつくくらいは日常茶飯事なので特に問題はない


 いい匂いだったのを覚えている、だがそれは今はどうでもいいのだ



「抱きついたまま話をしただけだな。後は特に何もしてない」

「いや十分やってるよ? 君やらかしてるよ? えっとじゃあそのときにした話は覚えてるかな? タカは好奇心旺盛だから人間の世界の何かに興味を持って頭の中がそれだけになっちゃったのかもしれない」


「俺はパークの外には何の興味もないし話もしない! あっでも一つ心当たりがあるような、ないような」



 ______________________



 記憶をたどって先週の出来事を振り返る


 いつものようにゲートを潜り、孔雀茶を飲んでジャパリまんを平らげた後バスに飛び乗った

 バスの中のフレンズ…確かツチノコだった、にちょっかいを掛けた後ホートクで降りタカの寝床に向かった


 タカはスカイインパルスの住処とは別に木の枝で作った住処を作ってよくそこで寝泊まりをしていた


 先にタカ専用の寝床に向かうとタカが寝てて……




「タカー来てやったぞ」



 タカの住処がある木を登るとそこにタカは居た


 年齢は全く知らないが俺が中学生だったときはタカもまだ中学生?ほどの幼い風貌で、俺が飼育員になった今より結構童顔だった


 住処に寝っ転がって何かの本を読んでおり俺が声をかけるまでは気づかないほど集中していたようだ



「私は呼んでない。今日は何しに来たの? また崖から落ちて骨でも折りに来たの?」

「あー多分そう。…で何の本を読んでるんだ? 筆記試験の勉強は絶対しないって言ってたよな」



 タカは読んでいた本を閉じると後ろに隠してしまった

 本を奪い取ろうと手を伸ばしたが中学生の時は身長が少し負けていた上に運動神経もタカのほうが圧倒的だったので少し苦労したが…


 右から取ると思わせつつ体の影から手を伸ばし、ようやく本を奪い取ることに成功した


 器用さでは俺のほうが上だったようだ



「で、えー『初めて恋をsひでぶっ!?

「あーあーあー! 喋れないようにするわよ! 馬鹿!」



 顔を真赤にしたタカに殴られた上押し倒されて本を奪い返されてしまった


 ピンク色の表紙に可愛い女の子の絵が書いてあり、"初めて恋をした…"奪い返されたので途中までしか分からなかったが確かに”恋”と書いてあった


 その時は来園客に何か吹き込まれてそれを調べていたのだろう、としか思っていなかった



「またファンになにか言われたんだな」

「違うわ!」



 必死な否定で逆に認めてしまった

 タカは純粋な上プライドも高いので心理戦にはめっぽう弱い


 バレてなお頬を赤くして必死に否定し続ける姿に我慢できず、



「なっ!?」

「ハヤブサ達に本の事話しちゃおっかなー飼育員にも報告しちゃおっかなー? あんなやばい本読んでたこと知られたらまずいよね? 話されたくなかったら全部俺に話してよ。…あああと殴るのもやめて」


「うう…ずるい…うう…えっと…いつも会いに来る人間の男の人が、かっかのじょになってほしいって…それでよく分からなくてジャパリ図書館で本を借りて調べていたの…」



 衝撃だった


 タカはその容姿とレース優勝常連という知名度でまあまあの人気があり、性別関係なく多くの人間たちがその姿に惹かれている

 もちろん個人的な関係を迫るケースも少なくはなく、管理センターで断固拒否してはいるがそれでもやってくる男は多くいる


 そして最後の関門を突破したとしてもタカによって凄惨に突っぱねられ、みな肩を落として帰っていく



「付き合ってもいいって思えるほど良いやつだったのか…?」

「いや、あんな奴どうでもいいわ。この体になってからはそういうの、どうでもいいって思うの」



 俺はその言葉を聞いて本当に安心した

 別になにか特別な思いを抱いているわけではないが、大切な兄弟か何かが嫁に行ってしまうような恐怖があった



「じゃあなんで? 実は断れなかったとかなら誰にも言わないから正直に言えよ」

になれって頼まれたけど私は断ったわ。でも何度も何度も頼み込んできて、なんだかキレイな石?も渡してきたけれど私は今はつがいなんて作る気はないって言ってやったのよ。そんなの必要ないもの」



 タカは言い終わると起き上がろうとしたので、抱き寄せてそれを阻止した


 フレンズは人の姿になっても心の中はほぼ動物のままで、それは貞操感のようなことに関しても変わらない

 一応最低限の教育はされてあるがやはりタカでも人間の交際に関しての認識は甘いようだった



「恐らくだがな? 人のツガイっていうのは自分の好きな人と一緒にどこかに行ったり、ご飯を食べたり、子供ができないように工夫して交尾だったりをするらしいんだ。タカは今まで告白してきた人たちとそういうことをできるか?」



 パークの外で女性にこんなことを言ったらまずセクハラで叫ばれて捕まるだろう

 言ってから後悔したがタカは真面目に?考えた後真顔で頷いた



「子供ができないように工夫するのは分からないけれど、なら別に構わないわよ? だってあんなの3秒位で終わるじゃない」


「じゃあ今夜俺としてみる?」



 強引に抱き寄せていたので息がかかるほどの距離だった


 タカは完全に硬直してしまい、目線を動かしながらさきほどより長く考え込み最終的に赤面して顔を伏せた



「…これよ!!」



 急に顔を上げたかと思うと嬉しそうに声を上げた

 あまりの声量に驚いたカラスが飛び立つほどだった



「この体になってからよく分からない感情を感じるようになったの。楽しいとか悲しいとかじゃないんだけど言葉で言い表せないなんとも言えない気持ちよ。それでジャパリ図書館に行ってヘビクイワシに聞いたらそれは恋だって言われたから、この本を借りて読んでたのよ」


「おおっ…そうか、恋か。それで何か分かったか?」

「いや何も… いまそれっぽい?不思議な感覚を感じたけどこれは恋じゃなかった。わからない…どうしてもわからないの。一応腐っても人間のヒデならわかるはずよ、恋って何!? どんな感じ!?」



 中学生だった俺は初めて見る必死な姿に驚いていた


 クールとか言っておきながらなんだかんだ取り乱すことが多いタカだが、それを初めてみたのはこの時が初めてだったかもしれない



「すまん、飯食ってデートして交尾するってことしかわからないよ、タカ」



 その時のタカの顔がなかなかにひどかった

 唇を噛んで変な唸り声を出しながら住処の床材を握りしめていた


 きっとフレンズになって初めて人として何かに悩んだ瞬間だったのだろう、タカは決意に満ちた目で恋が云々の本を握りしめてそのままどこかへ飛んでいってしまった




 ______________________



 あの時の本を食い入るように読み続けるタカ


 そして俺に詰め寄る担当の飼育員


 心当たりがありすぎた俺は、ひとまずその場を切り抜けることを優先した



「何も、無い。タカは単純に調子が悪いだけだと思う」

「十中八九ヒデ君が原因だと思ったんだけど」

「俺は変なことなんて何一つ言ってない」



 飼育員は相変わらず疑いを目を向けていたが、寝転がってジャパリまんを齧っていたハヤブサがだるそうに起き上がって庇ってくれた



「そう言ってるならそうなんじゃないか? パークに人間なんていくらでもいるんだし、そのうちの一人や二人が変なこと言っててもかしくないだろ」

「タカが筆記試験をサーバルキャットよりひどい点数取るなんて普通じゃない。責任を持って解決しないと良くない気がするんだ」

「別にレースができなくなるわけじゃないだろう?」

「ハヤブサそういうことじゃ…」



 それきり飼育員は黙ってしまい、なんとなく重い空気が立ち込めた


 そしてそれを破ったのはタカだった



「私は無事よ。心配してくれるのは嬉しいけれど輝きを奪われたわけじゃないし、次の試験までにはきっと解決して合格するわ。たかが試験一つでそんなに騒がないで」

「たかがって…」


「タカがそう言ってるならオールオッケー、ドントマインドよ! 気分も良さそうだし気にしなくても良いんじゃない? はい、じゃあこんな話はさっさと終わりにしてご飯行きましょう!!!」



 __________________________



 その後全員でセントラルに向かい、少し派手に食べた後俺は学校があったのでパークを出た


 その後珍しく1ヶ月ほどパークには行かず、改めてパークの外の人の世界で真面目に過ごしてみたりもした

 もちろん楽しくはなかったがタカのためにいろいろなことを調べ、珍しく学校の授業も本気で受けた


 先生と話をして、クラスの同級生とも……



 しかし何も分からず時間だけが過ぎていった



 恋……実はタカだけではなく俺も悩んでいた


 俺にジャパリパークでのフレンズセラピーを提案した医者のところへ何度も通い聞いてみたが納得できるような答えは出ることがなく、諦めていたところを今回の出来事で思い出してしまった


 人間は男も女も変わらないように見えるが、フレンズだけは違う…


 そのあまりに特殊な性癖には既存の性的マイノリティーのようなものは一つも当てはまらず、その医者も頭を抱えていた



「何悩んでるの」

「ああ…母さんか…実はタカがな…」



 自室で3時間も籠もっていたのを見かねた母が扉の向こうから声をかけてきた

 俺がタカの悩みを話し始めると特に断りもなく俺の部屋に入り込み、少し掃除をしてからテレビの前に座り込んだ



「うわっ!? ちょっと何見てんのよ…オオタカちゃんが好きじゃなかったの」

AV。それ見たら少しは気持ちが落ち着くかなって思って見てるんだ」



 どこの家庭にもよくある光景である、多分


 その時再生中だった動画の中で、馬乗りになって押さえつけられていた女性が一段と大きい声を上げながら体を跳ねさせた


 ついに母は目をそらしながらリモコンを取って映像を消してしまった



「満足した?」

「なんかうるさいし気持ち悪いしダメだな。結局なんにも分からん」


「もしかしてまた悩んでるの? その、恋よ、恋。オオタカちゃん? それともキタキツネちゃん? もし子供ができたらぎゅうううって抱きしめたいわ…絶対めちゃくちゃ可愛いに決まってるもの」

「待ってくれ! 俺はそこまで考えてないし、そもそもあいつらと結婚しようなんかこれっぽっちも思っちゃいないぞ! でも……」


「さっき言ってたオオタカちゃんの悩みかしら?」



 あっという間に当てられた俺は言葉を失った



「あいつが珍しく悩んで、筆記試験もサーバルよりひどい点数で落ちたらしいんだ。いつもしないような顔してるし、心配でしょうがない」

「それってあの子を好きってことじゃないの? なんでもない子をそんなに心配したりしないでしょう? 今のヒデの気持ちを伝えてあげれば告白もできて悩みも二人同時に解消して一石三鳥、オオタカちゃんも含めて四鳥じゃない」



 告白…タカ…


 一瞬考えはしたが自分の中でそれほどの気持ちはなかった

 今友達としてたまにセントラルでご飯を食べたりする程度で満足していたのでそれ以上進もうとは全く感じない



「その様子じゃ本当に分からないって感じね」

「俺のことはどうでもいいから、とにかくどんなものかを教えてくれよ! 母さんは高校とかで恋愛しなかったのか?」



 母は今は普通のおばさんだが、高校生の時は結構可愛かったらしい


 …と、自分で行っている節がある


 そんな事を考えていると母が卒業アルバムを引っ張り出して俺に見せてきた

 写真は初めて見たが、まあ人間にしては悪くないというレベルだった



「高校で同じ部活の男の人に告白されたことがあったの。私は進路とかで忙しかったから付き合うことはできなかったけれど、もし今また会えたのならそれはどうなるかわからない。優しい人だったからこんなオバサンじゃなくてきっともっといい人見つけて結婚してるでしょうけどね。

 ……恋って呼べるものはそれくらいね」


「でどんな感じだ!!! 簡潔に教えてくれ!!!」



 やっとタカに伝えられるような答えが見つかったとウキウキしながら答えを待ったが、母は静かに首を横に振った


 希望が一瞬の内に消えていくのが分かった

 しかし母は肩を落とした俺を慰めるかのように、静かな声で続けた



「言葉で表せたら苦労しないわ。なんか一緒いにたい~とか好きでしょうがない~とか、そんなものよ。もし本当に理解したいって言うならオオタカちゃんと付き合ってみれば?」

「隣の席の女の子に試しに告白してみたときは3日でフラれたしそれはダメだと思う」

「気になってた子だったの?」

「いや、隣りにいたからなんとなく」


「は?」



 母が怒りモードに突入したところで、俺はさっさと家を飛び出してパークに向かった


 なんか一緒に居たい

 好きでしょうがない


 どちらも正直良くわからないがそれっぽい答えは得られた


 後はタカに伝えるだけだ



 _____________________



 パークに着くと、タカはいつもの場所に居なかった


 大体いつもスカイレースの練習をしているかジャパリ図書館で本を読み漁っているか住処で寝ているかのどちらしか無いのだが今日はどこにも居ない



「ハクトウワシ!」



 ちょうど飛んでいたハクトウワシを呼び止めてみたが、タカの居場所は知っていなかった



「そういえば住処にいつも読んでる本が置きっぱなしになってたわ。それとタカの住処で人間の香水みたいな匂いと住処の近くに変な色の毛がたくさんあったからお客さんとどこかに行ってるんじゃないかしら。心配ならセントラルにでも行けば会えると思うわよ」


「連れてってくれ!!」



 ___________



 ハクトウワシに抱えられてセントラルにつくと、大量の来園客の中で異様な雰囲気を放つカップル?を避けるように人混みが割れており、すぐにその一人がタカだとわかった


 もうひとりの人間は髪を派手な色に染めた男だった


 雑貨の店の前で二人は何かを選びながら談笑している


 手を繋いでいるわけではないが、男の方はタカの肩に手を回しておりタカはそれを嫌がる様子はなかった



「グルルル・・ガッルルル」

「お、飼育員」

「君か。フレンズがデートしてるって通報が来てみたらこれだよ。面倒くさいなぁ…最低書類10枚は書かされそうだ…」



 いつの間にか担当の飼育員が隣に立っていた

 ため息をつきながら本音を漏らしているので詳しく聞いてみると、交際のような事案があった場合色々と報告が必要らしい


 すると男がタカの手を取りついに手を繋ぐ形になったが、タカはそれを拒否することはなかった



「くそがっ!」

「早まるなヒデくん! まだ行っちゃダメだ」



 思わず足が動いた俺だったが、飼育員の大きな手によってそれは防がれた



「何だよ離せよ、あんなの黙って見てられるかよ!」

「気持ちはわかる。私だって愛娘を取られたような気分だ。でもアレはタカが選んだ相手だ、フレンズだろうが人間だろうがそれを止めるなんて野暮だよ。純粋なのを逆手に取って乱暴でもしない限り乱入は禁止。まあそんな事しようとしたらオオタカはぶん殴って蹴っ飛ばして終わらせるだろうけど」



 悔しいが確かに言う通りだった

 多くの人間がフラれ続ける中、俺がかなり個人的に絡んでいるのもこう思われていただろう


 その後飼育員とともにタカを付け回したが、雑貨屋の後服やフレンズのブロマイドを見て回りご飯を食べるという極めて普通のデートをしていた


 いつまでつけても何も起こらず、俺の視線の向こうで幸せな時間が流れていくだけだった



「普通にデートしてるね。もうラッキービーストに任せて帰ろうか」

「そんな…」


 タカの身に何かが起こるのは嫌だが、心のなかであのデートを止められる理由が出来るような事が起こってほしいと願うのを止められない



「もう帰ろう。こんなストーカーみたいなことをしたって変わらないさ」



 別に好きかと言われたらそうじゃないし


 既に彼女になったわけでもない


 ましてや振られたわけでもないのに、俺の中にポッカリと穴が空いたような気がした



 油断していたその時、かなり向こうの方でタカの叫び声が聞こえた直後複数の叫び声が上がりセントラルが騒然とした


 俺は安心すれば良いのか心配すれば良いのか分からない…


 走り出そうとした俺を飼育員が再び静止したが、全力で振り抜き俺は走り出した


 こればかりは絶対に譲れない


 絶対にあの不良を殴り飛ばしてやろう…と思ったその時、俺の足は誰に言われずとも自然に止まった



「ッ!!」



 俺の上空を血まみれになったタカが顔を抑えながら凄まじい速度で飛んでいった


 一瞬で血の気が引くのを感じたが俺は声を視線が集まるのも構わずタカを呼んだ



「おい!! 大丈夫か!? タカ!!!!」



 しかしタカは声など聞こえないかのように高度を上げていき一瞬で見えなくなってしまった


 呆然と立ち尽くしていると救急隊や警察がぞくぞくと集まっていき、ついには規制線まで張られたことで追い出された

 来園客の野次馬が携帯を構えて規制線の向こうを撮影し、警察がそれを追い払う


 フレンズたちもどんどんと集まってきたが俺の目には何も見えなかった


 血まみれのタカが…



 _______________



「あああ……あああ……」



 いつまでも規制線の近くに突っ立っていたせいで警察に保護されてしまい、母が迎えに来た

 どうやら先程の出来事は全国ニュースで報道されてしまった上にSNSでも拡散されてしまいかなりの大事になってしまったらしかった


 母が飼育員に挨拶をした時の”タカ”という言葉に反応してようやく意識がはっきりとした



「タカは無事なのかっ!!」



 すると母と話していた飼育員が俺のところにやってきた



「これだけは約束する。オオタカは無事だよ」

「無事なわけ無いだろ…? 血まみれだったんだぞ!?」


「ちょっとヒデ…」

「いいんですお母さん。パニックになるのも仕方ないです」



 母をなだめた飼育員は話を続けた


 するとタカには本当に怪我がないらしかった

 しかしあの金髪の不良が人気のない場所でタカにかなり強引に迫り、一度は丁重に断ったもののハクトウワシとハヤブサのことを引き合いに出して脅し、抱きついたところで本気で引っかかれてしまい金髪は重症、タカは逃走、という結末だったようだ


 監視カメラに全てが捉えられていたので金髪は見事に永久出禁になったらしい



「ただ…正当防衛とは言え人間に重症を追わせてしまった以上しばらく一般公開は出来ないんだ。もちろん君が相手でもだよ。もちろんいつかはまた会えるようになるけどしばらくは私のもとで保護しなきゃいけない」

「もう…会えないのか」

「管理センターが公開可能だと判断すれば会えるようになる。でもそれまでは絶対に……」



 その時飼育員の携帯と俺の携帯が同時に鳴った



「タカが逃げたぁ!?」


 俺も携帯を開いた


 どうせ企業の宣伝メッセージかと思ったが


 なんとタカからのメッセージだった

 最近飼育員に携帯を持たされたと言っていたが既に使いこなしているようだ


 ーーーいつものばしょであいたい



「うわっちょっどこ行くんだ!」

「ヒデ待ちなさい! こら! 帰るわよ!」



 _________________



「タカ!! タカ!!!!!!!!」


「私はここに居るわ」



 夜の森で叫んでいると、いつの間にかタカが後ろに立っていた


 服にはまだ血がべっとりとついていた



「研究員達が探しに来るわ。…あそこの木の洞に行きましょう」



 大木の穴に隠れると、タカの言う通りすぐに研究員の声が聞こえた



「大丈夫だったか?」

「大丈夫よ。でも私…私野生解放までしてアイツを…」

「どうしてあんなのと一緒に居たんだ?」

「どんなものか気になったから試しにでーと?してみたの。でもまさかあんなことになるなんて…」



 タカは俯いて洞の壁にもたれかかり、だるそうに吐き捨てた



「私が恋なんて興味持たなければ良かったのよ…」

「ああそうだ、母さんに聞いたら確か『なんとなく一緒にいたくて、好きでたまらない』って答えてくれた。どうだ、何となく分かるか?」



 顔を埋めたまま鼻をすするとそれきり黙り込んでしまった


 いつもは頭を撫でると嫌がるが、このときは頭の羽をたたんで受け入れてくれた



「タカのことを好きかって言われたらそうじゃないけど、一緒に居たいとは思う。…もし俺が恋ってのを分かるようになったとしたら、絶対にタカを彼女にしたい。ああこりゃ告白じゃないぞ、深くは考えるな」

「えっ」



 驚いた目で俺を見つめるのがあまりにも可愛かったので俺は思わずタカを抱きしめてしまった


 ここまでやっても好きかどうかと言われたら別にそうじゃない


 でも、なんかいい


 もしも付き合うなら…



「付き合うならタカが良いな…」

「ええっ…えっ!? ちょっと何言ってんのよ…私はフレンズで、あなたはヒト。そんな事無理に決まってるでしょう」

「んー頑張ればいけるっしょ。デートできたんだし難しいことは良いって」


「ちょっとっ!?」



 どさくさに紛れてキスしようとしたが、今度ばかりは全力で避けられてしまった



「それってお互い好きなヒトのツガイがやるらしいわ…」

「試しにやってみたらなにか分かるかもしれないぞ? …あいつのマネは嫌だがこれもやってみたらなにか分かるんじゃないかっ…!」



 俺はいつのまにかタカを押し倒していた

 腕も抑えて床に押さえつけた



「飼育員に怒られるわ! ヒデのお母さんだって許さないわよ!」

「管理センターから逃げてきたくせに。そういえばなんで逃げてきたんだ? まさか俺に」


 言いかけたところでタカに突き飛ばされてしまった


 そして…



 _______________



 その後飼育員に見つかるまで二人で夜を過ごした

 一線を越えるというのが1なら、0.3くらいまではしてしまった


 結局最後まで恋がどんなものかは分からなかったが、タカが友達以上の何かかもしれないことははっきりと分かった

 ここまで来ても誰かに好きかと聞かれたら、なぜかそれだけは確実に違うと言えてしまう

 最後の最後までどうしても、どうしても恋愛の対象としては見ることが出来なかった



 でも「好き」には一番近い存在だし、もし彼女を作るなら絶対にタカにする


 そしてもし結婚するならば


 絶対にタカがいい



 中学生の時の俺は恐らく人生で一番の決意を決め、飼育員になる道もそのときに決めた


 以上…飼育員ヒデの結局最後まで理解することのなかった、恋…に一番近い話。

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