25 Unforgettable memories

「ずももももも・・!!!」


不気味な声を上げながら、翼竜型セルリアンはハクトウワシに向かって鋭いツメを叩きつけた。

ハクトウワシは紙一重で攻撃を避けると、すばやく体を捻って野生の輝きをまとった足で下向きの蹴りを正確にツメに叩き込む。

自分の力に加え強力な蹴りを食らったツメは、轟音と共に土煙を立てながらコンクリートの地面に叩きつけられ、そのまま埋まってしまった。



「ずも・・・」



セルリアンは少し悲しそうな?唸り声を上げてツメを引き抜こうとするが、根本まで埋まったツメは抜ける様子がない。


動きを止めたので後はスズ達6人に袋叩きにしてもらおう。

勝負は思ったより早く付きそうだ。



「ナイス、ハクトウワシ! これ以上被害が出る前に片付けるんだ!」

「アーケードを荒らした罪は重いのです。 言われなくてもボコボコにしてやるですよ。」

「動けなくなったセルリアンなど我々二人だけで十分なのです。

ワシ的部分を激しく開放してジェノサイドしてやるですよ!!」



博士と助手はセルリアンに向き直ると、足に野生の輝きを纏わせて突っ込んだ。



「待って!」



スズが声を上げて二人を静止した。

羽を広げて急停止した助手が野生解放したままの瞳で振り返った。

少し遅れて博士も振り返る。



「何なのですか? 良いところだったのに。」

「大した用事じゃなかったら承知しないのですよ、スズ。」

「セルリアンの様子が何か変なのよ。」



変・・・?

セルリアンは特に変わった様子はなく、ツメを抜こうともがき続けている。

しかしスズの表情には自信があるように見える。



「変って具体的にどこか分かるか?」

「ぐたい? どこってわけじゃないけどなんか近づいちゃいけない感じがしたの。」

「なんだそりゃ!? タカ何か分かるか?」

「さっきからずっと観察してるけど特に変わった所はないわ。

何の変哲もない・・・バードリアン。」



タカの口から「バードリアン」という単語が出てきた瞬間、空気が少しだけ重くなった。

10年以上も前のことだが、スカイレース中にタカに襲いかかって「自信」を奪ったセルリアンが変化しバードリアンという新種が生まれ、レースをめちゃくちゃにしたらしい。


最後はスカイインパルスやスカイダイバーズを初めとした、鳥のフレンズたちによって抑えられたと記録にある。


人間が混ざってフレンズたちを手伝ったという都市伝説的な噂もあるが・・・



「見覚えがある気がしたのよ。 でもバードリアンはあの時倒したはず。

誰か鳥のフレンズが襲われたのだったら・・・」

「いいえ。 あれは私のせいで出来たセルリアンよ。」



肩を落としたハクトウワシをタカが遮った。



「タカはずっと俺達のそばに居たはず。 変なのに襲われる隙なんて…」



そこまで言って慌てて口を抑えたが・・・



「あまり思い出したくはないけど、人間に捕まって監禁された時変な薬みたいなのを大量にかけられたの。 その時セルリアンに輝きを奪われたときと同じ感覚がしたからきっとあの時のが原因だと思うわ。

リキッド・・・サンドスターロウ、だったかしら?」


「あまり思い出したくないがこれだけ言わせてくれ。

ミライさんにお試し感覚でLSLリキッドサンドスターロウを手の上にかけられた時、吸い込まれてそれっきりだったんだ。

それがセルリアン化に繋がるってのは流石に無理がないか?」


「それはよく分からないわ。

でも確実に言えることは、あのセルリアンは私の輝きを持ってるってこと。

私だから分かるの。 あれは絶対に私の輝きよ・・・!」



当の本セルリアンは未だにツメを抜こうともがいているが、到底タカの輝きを奪ったとは思えないアホさだ。

不完全なコピーとは言えあそこまで劣化するのだろうか・・・?



「今度こそなにか来るわ!!」



再びスズの声が上がる。

その場に居た全員がすぐに異変に気づいた。

もがいていたはずなのに動きを止めたかと思うと、首を上げて空を眺め始めたのだ。



「何です? 空が恋しいのですか?」

「いや、それはないと思う・・・」

「とにかく距離をとって様子を見ましょう。 スズは何か気づいたことがあったらすぐ言うのよ。」



スズは「分かったわ」とだけ言うと、俺の隣にふわりと着地した。


「地面酷いことになってるわね・・・」

「そうだな。 窓もコンクリも割れまくってるから復旧には結構掛かりそうだ。

なんか、ごめんな。」

「どうして謝るの・・・?」

「せっかくハヤブサとハクトウワシが立ち直ってご飯食べに来たのにこのザマだ。

今までどこに行っても変な人間かセルリアンに邪魔されてきた。

一度も飼育員らしいこと、出来てないんだ。」



スズを目の前にして思わず言ってしまった。

こんな愚痴聞かせるなんて飼育員として終わってる。

スズの顔も暗く、二人の間に沈黙が流れる。



「そういえば将来やりたいことはあるか?

今すぐやりたいことでも良い。 何でも言ってくれ、スズ。」



なんだかんだ言って一度もスズの夢を聞いたことがない。

出来ることは少ないけどせめてそれだけは叶えてあげたい。


スズは少し考えた後、口を開いた。



「このままでいいわ。 ヒデとかタカとかと一緒にいれればそれで良い。」

「男に向かってそういう事言うと誤解するぞ?? 惚れるぞ??」

「ゴカイ・・・? よく分からないけど私は今のままで満足よ。」

「そっか。 じゃあ早くアイツを倒して夜は楽しいことしよっか。」

「楽しいこと? なにそれ?」

「さ、さあな・・・」



だめだ純粋すぎて冗談が通じない。

流石に反応するものが反応してしまったので、すぐさま前かがみになった。



「どうしたの? お腹痛いの?」

「元気すぎて痛いよ。 ・・・ん?」



屈んでスズの首にかけた鈴が目と同じ高さになったせいか、鈴が淡い光を放っているのに気づいた。

キュウビやシーサー達に付けられた紋様がチカチカと光っている。

表面のサビも無くなっているようだ。



「・・・来る。」

「え?」

「何か来るわ!! 皆逃げて!!」



何が起きたかよくわからないままスズに抱えられて、上空に飛び上がった。

続いてタカ達と博士助手コンビも飛び上がる。


それと同時にバードリアンが上に向けていた首を下ろし、俺達を舐め回すように睨みつけた。



「バードリアンの頭を見るのです。 どうやら勝手に勝負は付いたようですね。」



助手に言われてセルリアンの頭を見ると、確かに今まで無かった亀裂が入っていた。

このまま自然に砕けるのだろうか?


そんな事を考えていると、セルリアンの頭の亀裂が心なしか大きくなったような気がした。


いや、そんな訳はない・・・多分。



「助手は頭を使ったので空腹なのです。 博士、さっさと帰ってランチの続きをするですよ。」

「賛成なのです。 我々は賢いので。」



助手と博士は帰宅ムードだ。

その空気に流されたのか、俺を抱えているスズも上から声をかけてきた。

耳がちょうどお腹の近くにあるせいかもしれないが、さっきから何度もお腹がなっているのが聞こえる。



「このまま砕けるみたいね。 バードリアンとか言うののお蔭でお腹ペコペコだから、早く帰って食べたいわ。」

「何が食べたい? 俺もお腹減ってるからな。」

「おにく・・・いや、ジャパリまんでいい・・・」

「遠慮しなくても肉ぐらいなr・・・




ピシピシピシピシピシピシピシミキミキミキバキバキバキバキイッ!!!!!!!!



何かが砕けるような音が突如鳴り響き、帰宅ムードの空気を完全に冷めさせた。

再びセルリアンの方を見ると、亀裂が体中に広がっているのが見えた。


もう終りが近い。 そう思ったときだった。


セルリアンの体の亀裂からいくつもの光が漏れ、スポットライトのように光の筋が何本も飛び出した。



「うあぁあぁ~~疲れたぁ」



スズは大きくあくびをして油断しきっていたが、俺の頭にはある一つの最悪なパターンが浮かんで離れなかった。


体中に亀裂が入り、そこから線状の光が漏れる。

そのあとはただ砕けておしまいなのだろうか・・・?


アニメやゲームで敵が自爆したり倒されて爆発するシーンがあるが、その直前には大体亀裂が入って光が漏れ、そして最後に大爆発を起こすのがお約束だ。


セルリアンが倒されて散るのは何度も見たことがあるが、今回は謎の光がある。

弱っているわけでもない。

そしてどことなく自身に満ちた表情。



気付いた時には、叫んでいた。



「今すぐバードリアンから離れろっっっ!!!!!!!」

「いきなり何言ってるの?」

「もう帰るだけなのです。 これ以上疲れるのはごめんなのですよ。」



そして最悪な予想は当たった。

バードリアンが焼き餅のように膨らみ始めたのだ。

光がさらに強くなっていく。



そして光が、収束した。



「逃げろおおおおおおオオオオ!!!!!!!!!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーパーク管理センター



「何か電波が悪くないですか?」

「そうですねぇ。 パソコンも携帯もラッキービーストも通信状態が良くないみたいです。

電波塔の管理室に連絡したいのですがそれもできない状態です。

先程パフィンちゃんに伝言を頼んだので、それまでの辛抱ですね。」



女性の職員が少し不機嫌そうな表情でミライさんに話しかけた。

ミライさんはラッキービーストを抱いたまま答えると、疲れ切った表情で椅子の背もたれに寄りかかった。



「昔なら今すぐ走っていったんですがね・・・」



そう言って机の上に目を落とすと、一本の長い毛が目に入った。

その毛は全体が緑色だったが、根本が一部白くなっている。

大きいため息をつくとその髪の毛をゴミ箱に入れ、再び背もたれに寄りかかってふんぞり返った。



「私もフレンズさんみたいになれたらなぁ・・・」

「ミライさんミライさーん!!」



窓を開ける音とともに、ニシツノメドリのパフィンが焦った顔で部屋に飛び込んできた。


「どうでしたか!?」

「大変でーす! おっきいセルリアンがアーケードで暴れてるって!!」

「通信が悪いのはその影響でしょうか。 とにかく一分一秒でも早く救援部隊を送りましょう。 現場の状況は言えますか?」

「えっと、えっと! 図書館の二人とスカイインパルスが取り囲んでましたー!

あと真っ白いタカみたいな子が男の飼育員さんを抱えて飛んでましたー!」

「ヒデさんとスズさんでしょうか。

とにかくパフィンちゃん、ありがとうございました! 後でお礼上げるので少し待っててくださいね。」



パフィンがジャパリチップスを期待して手を上げた瞬間、遠くの方で大きな爆発音が聞こえた。

何人かの職員が窓際に駆け寄って様子を見た。



「あの方角はもしや・・・」

「おっきいセルリアンが居た方向でーす! ・・・あそこにはフレンズさんが!

まずいでーす!!!」


ーーーーーーーーーーーー



最悪の予想は完全に当たった。

いや、予想以上かも知れない。


餅のように膨らんだセルリアンは凄まじい大爆発を起こした。

同時に発生した衝撃波は俺とスズを強引に引き剥がし、俺は頭から地面に落ちようとしていた。


今までキタキツネを助けようとして崖から落ちたこともあった。

タカが手を滑らせてビルの二回ほどの高さから落とされたこともあった。

なんだかんだで入院したりしたけど、何故か命だけは毎回助かった。


だけど今回は違う。

この速さでこの高さから頭を下にして落ちたらまず助からないだろう。

頭の中は絶望で満たされ、完全に死を覚悟した。


俺はもう、助からない。


一秒が何分にも感じられ、思い出が走馬灯のように流れていく。



ーーーーーー



築50年ほどは経っていそうな古い家に、俺は居た。



何故か小学校に入る前の記憶は全く憶えていないが、この風景を見るとぼんやりと当時のことを思い出すことが出来た。

施設で一人だった俺を今の母が拾ってくれて、急に変わった環境に戸惑いながらも本当の家族のようになり、心を開くことが出来た。



そこにいる「俺」は幼稚園児ぐらいの年だろうか。

拾われてから何年か経ち、安心しきった顔で昼食を母と一緒に食べていた。

すると俺は急に席を立ち、ハムを何枚か掴むとどこかに走り去っていった。


一体この時の「俺」は何を考えているのだろうか。


ーーーーーー


走馬灯がコマ送りのように流れ、今度は公園の草むらの影。

やはり「俺」がいたが、今度は一人でしゃがんで何かをやっているようだった。



「痛い!」



視点を動かすことは出来なかったが、おそらくカブトムシでも触っているのだろう。

学ばない俺はなおも触り続ける。

もう一回叫ばないかと期待して見ていると、今度は全く予想外の声・・・いや、音がなった。



それは、至って普通な鈴の音。




しかしその鈴の音は、俺の頭の隅でホコリを被った記憶を呼び覚ました。

忘れたくなかったのに、忘れてしまった思い出。

思い出は古びることはなく、絶望で真っ黒になった心に希望の光を灯した。


走馬灯が晴れた。


ーーーーーーーーー


気づけば俺は再びスローモーションで地面に向かって落ちていた。

今なら何でも出来る気がする。

そんな自信があった。



「こんな所で、死んで、たまるかああああぁぁっっ!!!!!」



地面まであと1メートルという所で足をすばやく曲げ体に回転をかけると、地面に手をついて関節を曲げながら威力を殺し、さらに前転し落下の衝撃を全て殺した。


そして体制を整えると、爆風に吹き飛ばされているスズを目指して走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る