10 無邪気で純粋な

「ほら、タカ。デートだぞ。」

「マリーミー?マリーミー?」

「付き添いだって言っているでしょう。ばいばいヒデ。」


本当に落とされた。

「待って!?死ぬから死ねるから!」


少し落ちた後スズに助けられた。


「ほら、あの二人なのよ。というかもっと仲良くなってもらったほうが都合がいいわ。」

「そういやあの二人大分仲良くなったんだな。まだ私にはカタコトだがな。」

「グレイト!大きな成長よ。」


頭上で騒いでいるのはタカとハヤブサとハクトウワシの三人。

タカ以外はいつの間にか付いてきた。


そして俺は助けられた後はスズに運ばれている。

向かうはさばくちほーの地下迷宮。

ここならそっちの意味での愛も深まるだろう・・・という一言ともに回るべき場所一覧のメモに書いてある。


「スズー?遅いわよ?」

「人一人持ってるのよ。」

「ヒデが重いなら落とせばいいじゃない。」

「お前はどこかのわがまま王女か?」


遅いとは言っても凄まじいスピードで飛んでいる。

正面を向いていると喋るどころか呼吸もできない。

ガチンコレースチームの一員が素人に向かって何が「遅い」だ。


「気にしなくていいからなスズ。それともう少しで着くから高度を下げてくれ。」

「ヒデ。今日は付き添いは無しにさせてもらうわね。

いつまでも私がいても・・・困るでしょう?」

「今日は二人きりなのね。」

「別に俺は構わないけど良いか?」

「うん・・・まあ、良いわよ。」


頭上の三人はコクリとうなずいた後、物凄い速さで地平線に消えていった。


「ったく無駄に早いな。スズはああいうの興味あるのか?」

「全然。」

「あんまり競争とか好きじゃないタイプか。

あともう着いたぞ。」

「ええ・・・すごいたくさんの人・・・」

「気にするな。人混みに紛れて堂々と歩いていけば良い。あそこらへんに・・・」

「一気に行くわよ。」

「え。まさか・・・」


悪い予想は的中した。

急に前進を止めてふわりとした感覚を感じる。


そのまま羽を畳んでから空中でくるりと回り、頭が下になる。

自由落下が始まった。


いや、重力に身を任せているだけでなく羽ばたいて加速している。


「待って待って待って!俺がいることを忘れるなよ!?

動物のときと同じじゃないからな!」

「ええ!分かってるわよ!集中するから黙ってて!」


そのままぐんぐん加速していくとともに少しづつ軌道が前にずれていく。

顔の皮が波打ってもうよくわからないことになっている。

ピュウピュウという音が耳介で響き鼓膜が痛いほどだ。


「想像以上に・・・重いっ!」


どんどんと地面に近づいていくがターンする気配が見られない。

下にいる人々が驚き逃げていくのが視認できた。

あれ?俺死ぬんじゃね?


急に凄まじい重力を感じたかと思うと、とても弧を描くとは言えない無理な軌道でなんとか曲がった。

そして漸近線を描きながら、なんとか地下迷宮に繋がる地下バイパスへ飛び込むことが出来た。

空気が閉じ込められたトンネルの中をゴウゴウと音を立てながら飛んでいく。


「なんとか・・・やったわ・・・」

「死ぬかと思った。すごいなスズ・・・

おい!バスだ!避けろ!」


前方からジャパリバスが走ってくる。

しかしスズがうまく体を捻って方向を変える。

なんとか避けることに成功した。

そして少しづつ減速していき最終的にふわりと着地した。


靴を見ると先のほうが擦れて溶けていた。


「おいおい靴が溶けてるよ。もう少しで足持ってかれるとこだった。

・・・おい?スズ?」

無理をした疲れからか俺の肩に倒れ込んできた。

「もう無理・・・ふにゃ・・・」

「無理しすぎだ。少し休め。」


スズはは気づいていないが、あまりに盛大な登場の仕方に人だかりができていた。

気付いてたらショック死しただろう。



人混みの中から怪しい目つきの三人組が俺達を見ていたことに気付くことはなかった。

三人は顔を見合わせた後どこかに去っていった。


ーーーーーー


「Как глупо позволять ребенку идти глупо. Вы глупы?くぁwせdrftgyふじこlp!!!!!!」


とある繁華街の事務所に迫力のある外国語で怒号が響く。

怒鳴られた男たちは萎縮する。


「申し訳ございません。ボス。」


ボスと呼ばれた男は赤くなった顔をもとに戻した。

小太りのロシア人の男だ。


「なぜあんなガキを向かわせた?俺の威信にも関わるんだ。

全く常に偵察させているから良いものの暴走していたら台無しなんだぞ。

顔の割れた上の殺し屋じゃ動けないから俺たちに仕事が来ているんだ。

その事を忘れるな。油断すれば一歩先は闇だということを忘れるな。」


「はい。それでガキのことですがここの誰もが関係ございません。

骨野郎が言いふらしたものだと聞いています。

あのガキは骨の残りカスのようなものです。

今後そういった事が無いよう尽力いたします。」


「クソが!!」

「ぎゃっ!!」


ボスが近くにあった灰皿で一番近くにいた男を殴りつけた。


「もう帰るからな?」


ボスが帰った後殴られた男がボスと話していた男にひざまずき

「ありがとう。死ぬところだった。面倒だから向かわせたなんてバレたら死んでいた。今度はちゃんと終わらせてくる。」


そういい男は出ていった。


だがこの部屋に帰ってくることはなかった。


ーーーーーー


「だいじょうぶですかぁ?」

「う・・・はっ!あなたは・・・?」

「ボクはスナネコです。この男の人があなたを背負って歩いていたのでー、

ボクの巣穴にお迎えしました。」


ここは薄暗い洞窟のような場所で地面は砂になっている。

言葉通りここはスナネコの巣穴。

疲れて動けなくなったスズを背負ってトンネルを歩いていたらここに招待された。

スナネコは砂漠の天使とも言われていて・・・かわいい。

くそかわいい。


「なんだか嫌な視線を感じますね。気持ち悪いです。

それはそうとスズさんもう元気ですかー?」

「もう大丈夫よ。ありがとうスナネコ。」

「・・・あなた達は夫婦・・・カップルなのですかぁ?」


何だ!?話題の変え方のクセがすごいんじゃ。


「そういうのじゃない。俺とスズは飼育員とフレンズってだけだ。なんならオレとスナネコちゃんで・・・」

「・・・(殺意)」

「なんでもありません。」

「その鈴・・・なんだか綺麗ですねー?もっとボクに見せて下さい。」

「・・・良いわよ。」


スナネコがスズに顔をぐいっと近づけて眺める。

興味深そうに数十秒ほど眺め続けた。


「とってもキレイでなんだか温かいです。

強い輝きを感じましたよー。

これはきっと愛です。そして二人はこうやって出会う運命だったんですー。

二人は幸せになりますぅ。結婚してー?子供が出来てー?・・・」


「「え゛・・・!?」」


「嘘です。まんぞく・・・ふふふ・・・」


ビビった。

残念だがスズどころかタカにも恋愛感情と言ったものは無い。

ああいう意味やそういう意味で迫ることはあるけど、毎回突っ返されるのがお決まりなので俺もタカもスズも独身だし、未経験なのです。色々と。

それに変な言い方だが俺は愛を知らない。


「ボクはもうまんぞくです。元気なようなので地下迷宮急いだほうが良いんじゃないですかー?午後は人が更に増えますよ。」

「分かったよ。ありがとうスナネコ。」

「感謝するわ。」

「ばいばーい。」


天使と別れ地下迷宮に行くと想像以上の人混みであった。

スズが少し怯え、通行人を睨みつけている。


「迷路の中に入ったらバラけて人は少なくなるからそれまでの辛抱だよ。」

「うん・・・」


思った通り迷宮に入ったらほとんど人に合うことはなくなった。


木の壁に仕切られた迷路を行き止まりに当たったりしながら進んでいくと

看板が見えてきた。

そしてその看板の前にいたフレンズと人の二人組は右に歩いていった。


看板の前に行くと


「タカは老いるとくちばしや爪、羽が伸びすぎて獲物を狩れなくなるので。

生きることを選択したタカはそのくちばし等を削って生き直す。

○なら右へ ☓なら左へ」


「スズ、さっきの人は左行ったけど・・・」

「左に決まってるでしょ。行くわよ。」

「え・・・そうなの?」

「当たり前でしょ!死ぬわよそんな事になったら!」


言葉通り左に行くと正解!という看板と次の問題があった。


「海 みどり 山 子供 空 成人

 仲間はずれはどれ?

正解の穴をくぐろう。」


「これはわからないわ。ヒデ、分かる?」

「俺にもわからんな。」

「ボクもわっかんないよ!」


!?

後ろを取られた。

CQCの基本を思い出せ。

しかし振り返るとそこには一人の男の子がいた。

小学生ぐらいだ。


「あれ?お母さんとお父さんはいないの?」

「そうだよ。僕ひとりだよ。

あと鳥のおねーちゃん目が怖いよー!」


初めて見る子供を結構怖い目で睨んでいる。


「ほら、子供だから。大人げないぞー。」

「そ、そうね。よろしく。ガキ。」

「ガキは無いだろ・・・」

「おねーちゃん何の動物なの?」

「・・・シロオオタカのスズよ。」

「へえ!スズって言うんだ!首の鈴がなんか・・・すごいね。エイエイ。」


子供がベシベシと鈴を叩いて遊び始めた。

スズの目がやばい。

獲物を見つけたときの猛禽類の目になっている。


「ほ、ほら・・・嫌がってるからね?やめてあげようよ。」

「ちぇー。それと問題わかんないよー!教えてよスズおねーちゃん。」

「スズ・・・おねーちゃ・・・ん!?私にもわかんないわよ!!」

「えぇっと。日。日だよ。」

「あ!日か!みどりの日、海の日、山の日。空が仲間はずれだね!

・・・僕スズおねーちゃんに聞いたんだけどなぁ・・・」

「好かれてるぞ。手でもつないでやれよ。(小声)」


無視された。


正解の穴をくぐり歩いていくと今度はアスレチックがあった。

鎖で繋がれた足場をバランスを取って歩いていかないと前や後ろに倒れてしまう。

早速子供が手すりを持ってアスレチックを進み始めた。


「あっ!」

足を滑らせて横に落ちていく。下はクッションが敷いてある。


しかし、スズがその子の上着を掴んで引き上げた。


「ボケッとしてんじゃないわよ!」

「ありがとうスズおねーちゃん!」

スズの足に抱きつく。羨ましいなこのクソガキめ。

「う・・・離れてよ。」

「やー。」

「いいじゃないかスズ。それぐらい許してやれ。まだ子供だし。」


結局子供がスズに絡みついた状態で一緒にアスレチックを制覇した。

だんだんスズの表情も柔らかくなってきて、少しだけど会話もするようになった。


「ガキ。名前は?」

「だから・・・」

「僕ー?それはね・・・ あ、おじさんには内緒だよ。」


スズの耳に口を当てて教えた。

クソが。

この子が10年後ぐらいに美男子になって

戻ってきてスズを下さい、とか言っても絶対やらんぞ。

玄関で突っ返す。


「へぇ・・・そうなのね?」

「うん。次行こ!」

「ヒデ、遅いわよー?」

「フングググググヌヌヌヌグギュギュギュギュ・・・・!」


それからは簡単。

少しづつ仲も良くなっていきました。

俺は二人がなかよーくしてる後ろを殺意を振りまきながら追いかけていました。

そして何個もなぞなぞやアスレチックを突破して行き、最後の問題も終わったその時。


「あ、お父さんとお母さんだ。」

スズに抱きつきながら指差すその方向には、少し困った表情の夫婦がいた。


「じゃあ俺が話してくるから待っててな?」


話すととても礼儀正しい良い感じの夫婦だった。


「いやぁ・・・いきなりいなくなっちゃって。

フレンズさんと仲良くしてたんですね。」

「パークに来た甲斐がありました。ありがとうございます飼育員さん。」

「それはそれはとってもいい感じでしたよ。グギギギ」

「ほら、。戻ってきなさい。」


ほう・・・


「やー。スズおねーちゃんともっと居たいー。」

「もう。フレンズさん忙しいのよ?」

「そ、そうよ。ほら、行ってきなさい。待ってるわよ。」

「ええー。ケチー。」

「それじゃあ・・・ちょっとだけ、ほら!」


スズがアキラ君を掴んだまま空に飛び出した。

興奮して叫びまくってる声が聞こえる。

そして数分後に戻ってきた。


「ありがとう!」

「どういたしまして。じゃあ、ほら。」


スズがアキラくんの肩を押すと、さっきとは違って迷いなく親のところへ向かった。


「アキラ、楽しかった?

今日は本当にありがとうございました。飼育員さんとフレンズさん。」

「俺はなんにもやってないですよ。アキラくんの手を引いてあげたり遊んであげたのは全部スズです。」

「ちょっ!?もう!帰るわよ!」

「あっ、まだお礼が・・・」


そのままスズに掴まれ逃げるようにその場を去っていった。


「どうして逃げたんだ?アキラくんの親喜んでたじゃないか。」

「も、もう済んだことよ!いつまでもいられないわ。」

「恥ずかしいのかー?楽しかったくせに~。

やっぱり純粋な子供は良いな。無邪気な子供って色んな意味で最高だと思うよ。」

「あの子とっても良い子だったし親も優しそうな人だった。

ああいう人ばかりだと良いわね。」

「大丈夫。そういう人はたくさんいるさ。これから出会っていけばいい。

それじゃ帰るぞ。この通路を通ったら出口だ。」


通路の向こうには光が見える。

人が二人ほどしか通れなさそうな通路を通ってやっと出口だと思ったその時。

壁から手が伸びて何者かがスズを引き込んだ。


「お、おい!何なんだ!」

「オマエも来いっ!」


俺も何者かに手を引かれ壁に吸い込まれた。

しばらく引きずられて止まったかと思うと少し開けた空間に出た。


「ここはオレの住処だ。急にさらって済まなかったな。」


顔をあげるとそこには茶色いフードをかぶったフレンズ・・・

ツチノコだ。

実在しない動物でもフレンズ化する事を知らしめた存在。

そして人間に強い興味を持っているらしい。


「ヤスエから聞いたぞ。

お前ら危ない人間たちに狙われているんだろう?」

「知ってるのか。」

「オレは全て聞いている。ヒデと、スズだろう?

少し興味があるんだ。」

「言っとくがこれは遊びじゃないぞ。人の命が奪われたんだ。」

「もちろん中途半端な気持ちじゃない。だから・・・」

「ねえ。喉乾いたんだけどこれ、いただくわ。」


急にスズの声が聞こえたので後ろを見ると、謎の瓶を開け既に中身を飲み干している所が見えた。

よく疑いもせず変な液体を飲む気になったな・・・


「あっ・・・オレは知らんぞ。じゃあな。ちょっと用があるんだ。」

「なんだか・・・喉が熱いわね。」


まさか。


「別に咎めることはしないから後は頼んだぞヒデ。オレは・・・知らん!」

「う・・・・うーん・・・ううっ・・・ヒック」


既にツチノコはいなくなっていて、その代わりに顔を赤くしたスズがペタリと床に座っていた。

真っ白な髪や服のせいで顔の赤さが際立って見える。


「えへへ・・・えへへへへ・・・!」

「お、おい!大丈夫か?」


俺の声は届いていないようだ。


「んー?ヒック ヒデぇー?なんだか・・・増えて・・・」


そしてそのまま倒れ寝てしまった。


「暴れなかっただけマシだ。さっさと帰ってくれ。」

「お前が酒のあるとこに連れてきたんだろうが!!

いきなりさらってきたのはどこの誰だ!?」

「すまん。話は後だ。オレが運び出してやるから許してくれ。

それとこれが終わったら少し話したい。いいか?」



終わり良ければ全て・・・


最悪だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る