9 俺も

俺は今ミライさんに呼ばれ管理センターを目指している。


電話で言えない要件とは何なのだろうか。

タカとスズにセクハラしすぎたとか?

訴えられたら証拠しか無いので大人しく豚箱に入るしか無いけどね。


そんな事を考えていると管理センターに着いた。

職員に案内されミライさんと個室に二人きりになる。


ミライさん美人だし普通の男ならここで興奮するだろう。

しかしミライさんには翼もケモミミも無い。

失格。

生えてたらどうなるか?

ごっつぁんです。


「ヒデさん久しぶりですね。スズちゃんとは上手く行っていますか?

ヤスエさんから聞いたんですがオオタカと喧嘩したって本当ですか?」

「奴ら一日もかからず仲直りしましたよ。さすがタカです。

色んな面でお姉ちゃんやってます。・・・いや親かな?

飼育員の仕事持ってかれそうですよ。」

「それは良かったです!でも一番スズちゃんの親になってあげないといけないのはヒデさん、あなたですよ?」

「大丈夫です。今後共しっかりイチャイチャしてまいりますので。」

「は・・・!イチャイチャ・・・!」


イチャイチャという言葉に顔色を変え、よだれを垂らしながら食いつくミライさん。

俺なら分かる。

この人は変態だ


「取り乱しました!えっと、本題に入りますが私がなぜヒデさんをここに呼んだか分かりますか?」

「タカとスズにセクハラしすぎたからですか?」

「なっ・・・!?羨ましくなんか無いですからね!」

「・・・この間逮捕されたガリガリの事ですか?」

「ガリガリ・・・言い得て妙ですね。はい。そのガリガリのことなんです。」

「取り調べでも何も話さず経歴も不詳。怪しすぎますが何かわかったんですか?」


「結果から言うと、何も分からずじまいでいた・・・」


何かとても暗い顔をした。

何かを隠している・・・?

それと分からず「じまい」?


「何か、あったんですか?」


黙り込むミライさん。

数秒の沈黙の後。


「検察に移送中、亡くなりました。」

「は・・・?」

「どこからか狙撃されて即死でした。」


日本はとても銃規制が厳しい。拳銃でもアウトなのにスナイパーライフル!?

そんなものを日本に持ち込んでまでガリガリを殺害。

明確な殺意。それも素人ではない。


「明日には日本中で報道されるでしょう。

しかしこれは何かまずいような気がします。偶然愉快犯がやったなんてレベルじゃありません。」

「そうですよ・・・スズを狙って警察に逮捕されたやつが移送中に狙撃。

パークの危機ですよ・・・」

「パークには火器類を持ち込む事はできません。

なのでヒデさんやフレンズが危機に曝されると行ったようなことは無いでしょうが充分注意して下さい。」

「分かりました。スズだけは俺が責任を持って守り抜きます。」

「私達も全力でパークを守り抜きます。・・・では、戻ってあげて下さい。

この事はご内密に。」



寮に帰るとスズとタカがいつもどおり待っていた。


・・・なぜかスズはダンボールに頭を突っ込んで寝ている。


いつまでもこうやって二人に待っていて欲しい。

もしも二人のことを誰かが傷つけたり、連れ去ったりするのなら

俺は地獄の果てまでも追いかけてやる。

もしもガリガリに向けられた銃口がこっちを向くなら

俺は何発でも受けてやる。


「ヒデ。顔色が悪いわよ。どうしたの?」

「ん?そうか?」


「ミライさんに何を言われたの?」


やはり気になるよな。

余計な心配はしてほしくないし本当のことは言いたくない。


「今後の事とか、だな。」

「嘘でしょ。」


じっとタカに見つめられる。

やっぱ鷹の目って迫力があるな。縮こまってしまいそうだ。


「っていうのも嘘なんだけど黙るってことは本当のようね。」

「・・・クソ。昔もこんな事されたぞ。嫌な奴だな。」

「はいはい。じゃあ本当のこと言いましょうか。ヒデくーん?」

「お前には・・・関係ない。ほっといてくれよ。」

「子供の時そう言って本当に放っといたら・・」

「うわああああやめろやめろ!!忘れさせろ!!」


職員になる前・・・すこし苦い思い出があるんだ。

結構トラウマだしタカに握られた唯一の弱みでもある。


「ミライさんから内密に、と言われてるんだ。これ以上聞くのは大人じゃないぞ。

あっ、オバさんでしたか? 俺が生まれる前からその姿だけど年齢はもう・・・」

「うるさいわねクソガキ。年下がえらっそうな口聞くんじゃないわよ!」


あまりこういう事は考えたくないがタカは俺より全然年上だろう。

しかし言動も見た目も高校生ぐらいだ。

横で寝ている0歳のスズともほぼ変わらないし。

不思議なものだ。


「ん・・・?何なの?」

「ほおーら。スズが起きたわよ。苛ついたから全部話してやるわ!」

「させるか!」


タカの胸を狙い飛び込む。

しかしすんでのところでかわされ横腹に蹴りを入れられる。

倒れた・・・と見せかけタカの足首をガッチリと掴む。

掴んだ足をぐいっと引っ張り転ばせ、上にまたがって上半身も押し倒す。

そのまま首の後に手を回し・・・


タカの体から輝きが湧き出す。

その瞬間俺は部屋の反対の壁まで蹴飛ばされた。

壁紙が人の形に凹んだ。


「何してくれやがる!せっかく新しくしたばっかりなのに!」

「こっちのセリフよ。もう許さないわ。

スズ、ヒデの昔の恥ずかしい話聞かせてあげる。」

「え?ヒデの昔の話?聞きたい!聞きたいわ!」

「だ・・・だめだ・・・」

「もう遅いわ。スズも興味持ったしそうやっていつまでも床で伸びていなさい。」

「・・・」


こうして昔の話が始まる。


「今から・・・10年・・・よりももうちょっと、前かしらね?

ヒデは今の半分も無い大きさだったわ。今は無い可愛さがあったわね。

その日バードガーデンにあるわたしの住処で一緒に過ごしてたの。

そうやって甘やかしてたからこんなダメ人間になったのかしらね。」


「黙れ。」

「へぇ。昔から一緒だったのね。」


「ハヤブサやハクトウワシも混ざって一緒に遊んでいたわ。

そしたらかくれんぼをしようって事になって、私達三人がヒデに追いかけられることになったの。

もちろん私達は子供相手だし飛んで木の上に、とかじゃなく普通の場所に隠れたわ。しかもとっても狭い範囲にね。

そして30数え終わったヒデが探し始めたの。」


「なんだか楽しそうね。」


「やっぱりヒデってバカなのね。

いつまで経っても見つけられないの。

周りにいるフレンズや職員がヒントを教えてもいつまでもいつまでも木の横に立たされ続けたわ。

そして・・・

ついにヒデが泣き出したの!

どこ行ったのー、見捨てないでー、逃げないでーって。」


腹を抱えて笑い出すタカ。

その時俺は結構本気で怖かった。

笑ってはいるが俺は今でも笑えない。

だって・・・


「ずいぶん可愛い子供だったのね。」

「はぁ・・・」


「その後もさんざん泣き続けたの。

行かないでー見捨てないでー逃げないでーなんて言い続けるからついに私達出ていって慰めたんだけどそれでも泣き止まなかった。

本当頭おかしいからもう放っとこうってなって、ヒデももう良いよって言ったんだけど・・・

1分も立たずに抱きついてきたわね。」


タカにとっては笑い話だが俺にとってアレは本当にきつかったのを覚えている。

大人になっても思い出すのをためらうほどだ。


「甘えん坊だったのね!とってもかわいいわ。最高ね。」

「あぁ・・・そりゃどうも。

スズも頑張って恥ずかしい話探し出して何年後かに広めてやるから覚悟しとけよ。」

「それは嫌よ。」

「で、ミライさんに何を話されたの?」

「やっぱりそれ聞くんだ?」


ガリガリが撃ち殺されたなんて言ったらどう思うだろうか。

フレンズが銃だの刃物だので傷つけられたなんて話はジャパリパークが正式に開園して以来聞いたことがない。

しかしセルリアンとは幾度の抗争を繰り広げている。

その相手が今度は人かもしれないという事なのだ。

確かに今回フレンズが直接傷つけられたわけではない。

しかし確実にパークと何かが繋がっている気がする。

このままでは遅かれ早かれフレンズに危害が及んでしまう。


一人も失ってたまるか。


「ねえヒデ。顔色が変よ。」

「さっきからこの話題になるとこうなっちゃうの。きっと何かあるのよ。」


「お前ら、この事は絶対に漏らすな?いずれ皆に広まることかもしれないが

今広まるとパニックになるかもしれない。余計な事言ったら孕ますからな。」


「ああ・・・死んでも話さないわ。言ってちょうだい。」


そしてあったこと全てを包み隠さず二人に話した。


「嘘・・・でしょ?内戦やってる国でもあるまいしスナイパーなんて・・・」

「銃・・・!」


スズは顔をその髪や服みたいに真っ白にして怯えている。

そうか。銃はスズのトラウマだった・・・


「ごめんスズ。驚かせちゃったな。」

「いえ・・・いいの。」

「別に強がらなくても良い。お前たちは・・・いやフレンズは俺が身代わりになってでも守り切る。絶対にだ。」

「う、うん・・・」

「なんだかヒデ暑苦しいわね。」

「気にするな。もちろんだがこれからもやることは変わらない。

二人共いつもどおりに振る舞っていればいい。」

「・・・分かったわ。じゃ、ね。もう夕方よ。」


そう言い残しタカはどこかに飛んでいった。

たしかに既に日は落ちかけて、地平線がオレンジ色になってきている。


「なあ。これはタカにも言ってないんだが。」

「ん?どうしたの?」

「スズ・・・親、いないんだったよな?」

「え?まぁ・・・人に・・・」


、なんだ。」


「え・・・」


この事は今まで誰にも言ったことがない。

もちろんタカにも。

だけど同じ境遇のスズを見たら話さなければならないような気がした。


「だってお母さん居るんでしょ!?前荷物送ってきてくれたじゃない!」

「その人は違うんだ。育ててくれたし母のような人ってだけなんだ。」

「え・・・?どういうこと?どういうことなの!?」


「俺はスズみたいに生まれた時から親にかわいがってもらえてたんじゃないんだ。

生まれてすぐ、。」


「そうだったの・・・」

「小学校・・・1年ぐらい・・・まではずーっと施設でひとりぼっちだった。

その時施設の職員だった人が事情があってそこを辞めたんだ。

同時に俺のことも拾ってくれた。それが今の母だ。」

「その人は優しかったの?」

「ああ。とっても。

だけどずっと一人だったから俺は全く人と関わることが出来なかった。

すぐ逃げたり、泣き出したり。

そんな自分を母はジャパリパークに連れてきてくれた。

そこでタカやキタキツネとも会って、たくさんのフレンズや人と出会って今の自分が居る。

タカの話であったように一人になると泣き出したのはそういうことなんだ・・・」


「そうなんだ。知らなかったわ・・・

私何度もひどいこと言ったような気がするわ。ごめんなさい。」


「スズは何も悪くないし謝るな。

ただ・・・いなくならないで欲しい。絶対に。

変な人間が出てきたりしてるけどそれだけは頼んだぞ。」

「ヒデも!いなくなったら絶対にイヤ。」

「タカがいても?」

「・・・そう。」

「よし。つがいになれ。」


「えっ」


さすがにこのネタはスズにはキツかったな。


「嘘だ。・・・悩んでるな?」

「そんなわけないでしょ。さすがにそれはちょっと無いわね。」


本気で振られました。




バァン!


おいゴラァ!・・・じゃなくて何の音だ?

するとドアを勢いよく開けて・・・

ニシツノメドリのフレンズ、パフィンが入って来た。


「パフィンちゃんを助けて下さーい!!」


頭の羽をバサバサと羽ばたかせながら俺の後ろに回り込む。

相当焦っているようだ。


「助けて・・・ください!!」

「まず手に持ったジャパリチップスを置こうか。」

「い、いやでーす!離したくないですー!」

「よく分からないけど何から逃げてるの?とりあえずその手に持ったものを離したほうがいいんじゃない?」

「わわっ!誰ですかー?タカに似てますねー?」

「私はシロオオタカのスズ・・・」


「おい!逃げんなゴルァ!」


いきなり不良みたいな男が入ってきた。

態度的に不良のようだが。


「どうされました?ここは一般人立入禁止なのですが。」

「どうしたもこうしたもねぇ。そのフレンズをこっちによこせや。かばうって言うならお前もぶっ飛ばすぞ飼育員。」

「怖いでーす!!」

「変な人ね・・・!嫌な感じ!」

「あ?」

「と、とりあえず。何があったの?何しちゃったのパフィンちゃん。」

「そのガキが俺の頭に菓子の食いカスボロッボロ落としやがったんだ。」


そういうことか・・・

それでもこの態度は理不尽でしか無い。


「パフィンちゃんは謝ったの?」

「パフィンはちゃんとごめんなさいって言いましたー!」

「ごめんなさいで済むなら警察はいらねえんだ。いいからさっさとこっち来いやガキ。」

「その言い方は無いんじゃないかな?怖がってるしもう許してあげたら?」

「うっせぇ!」


ついに不良が石を投げつけてきた。

しかしスズが飛び出し弾き飛ばす。


「あ?何だお前。ハハハ!なんだそのきったねぇ鈴は。

犬か?猫か?ガハハハ!」

「死なない程度に痛めつけてやれスズ。」

「スズ!?くそ!お前をとっ捕まえれば・・・」

「捕まえたらどうなるのかしら?というかあなたガリガリの仲間ね?」

「・・・」

「とりあえず記憶は飛ばさせてもらうわ。この・・・悪魔!」


スズが思い切り床を蹴って飛び出し、不良の顎に強烈な蹴りを叩き込む。

蹴られた勢いのまますっ飛んで天井に頭を打ち付けた不良は床で伸びてしまった。


「うわっ・・・!強いでーす!助けてくれてありがとうです!お礼にジャパリチップスあげまーす!」


懐から一個、二個、三個。合計3つのジャパリチップスを取り出す。

何個持ってるんだよ。

ていうかどこに入ってたんだ。


とりあえず伸びた不良を片付ける。

パフィンに別れを告げ管理センターに届けに行った。

ミライさんにやりすぎと言われ怒られてしまった。


「変な奴はいるけどスッキリしたでしょ?」

「そうね。とっても。」

「よし。じゃあ明日からまた回ろう。

海と図書館と遺跡とジャングルと・・・終わる頃にはスズどうなってるかな?」

「それは分からないわ・・・」

「そっか。とりあえず、楽しもっか。」

「分かったわ。」

「じゃあ今日こそ俺の部屋に泊まってこうか。」


「嫌よ。」

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