第3話、お人形遊戯(ごっこ)。

 そんなこんなで人里離れた山奥にある大きな湖の中の古城ホテルという、いかにもミステリィ小説そのものの惨劇が起こるには格好の舞台での日々が始まったわけであるが、しばらくの間は少なくとも表面上は平穏無事に過ぎていくばかりで、むしろ至極住み心地のいいリゾートホテルでのバカンス気分を存分に享受させてもらっていた。


 イベント参加者一人一人に個室が与えられているのは言うまでもなく、間取りも広いし水回りも完備しその上インテリアもすべて瀟洒でシックなものに統一されており、更には壁面いっぱいに大きな窓が設けられていて広大な湖と緑豊かな山並みの絶景が一望にできるといった至れり尽くせりで、食事のほうも三食ともに山海の珍味が豪勢に振る舞われるのを始め、飲み物や軽食や甘味類スイーツ等のルームサービスもいつでも利用でき、あまつさえ毎夜のごとくホテル内で最も広大で豪華なパーティ会場で宴会が催されていて、私以外のおっさん作家連中のほぼ全員が参加し続けているといった有り様であった。

 こんなまさしく絵に描いたような酒池肉林の日々を繰り返していると、まるで自分がりゅうぐうじょうに招待された浦島うらしまろうにでもなってしまったかのように錯覚し始めるほどであった。

 何せ我々の食事の用意に始まり客室その他の清掃等のホテルの維持管理のすべてを行っているのは例の和風メイドさんたちなのであり、その見目麗しくもどこか浮世離れした有り様はまさに竜宮城の乙姫おとひめ様の眷族たるタイやヒラメの化身を、更には常ににこやかな笑みを浮かべながら物言わぬ様は海底の魔女に言葉を奪われたにんぎょひめすらも彷彿とさせた。

 彼女たちの耳や口が不自由というのはどうやら本当らしく、私たちの呼びかけの声はもちろん突然の物音にも反応することは一切ないものの、何か必要なことがあればそのつどスマホでリクエストすればすぐさまやって来て叶えてくれて、コミュニケーション面においては何ら不都合はなかった。

 それどころか先日に至っては寝起きっぱなに喉の渇きを覚えながらも、離れたところにあるテーブルの上のスマホを手に取るのが面倒くさくてそのままベッドの中で我慢し続けていたら、何とメイドさんが頼みもしていないミネラルウォーターを持ってきてくれたことすらあったのだ。

 まるで監視カメラで見られていたか心でも読まれていたかといった感じだが、何せ相手はあの『女神』の一族の女性たちなのである。この程度のことなぞ十分にあり得るであろうと納得した次第であった。

 心を読むといえば、試しにスマホを彼女たちのほうに向けて読心機能を使ってみたのだが、何とうえ先生やあの謎の少女同様に何も表示されることはなかった。

 ちなみに彼女たちの上司に当たる自称『女神の代理人』なる水無みなすぐる氏にも、某日の夕食の折近くの席に座った際にこっそりと読心機能を使ってみたところ、こちらは一応内心が表示されたのだが、その内容のほうは食事の味に対する感想とか明日の起床時間の確認とかいった極日常的な取るに足りないものばかりで、彼が我々参加者のことをいったいどう思っているのとかこのイベントの真の目的とか女神の正体とか、こちらが本当に知りたいことは微塵も窺わせることはなく、まるでスパイや軍人のように拷問や自白剤を施されても本心を隠し続けられる訓練でも受けているんじゃないかとも思われるほどであった。

 まあ、考えてみれば彼にしろメイドさんたちにしろ、そもそも私たちのスマホに読心機能などといった人智を超えた力をもたらしてくれた当の『女神』の関係者なのである。むしろ読心機能そのものに何らかの仕掛けを施して、自分たちの本心のみは読み取らせないようにしていることも十分に考えられた。

 それに本来このスマホの読心機能は何も主催者側の真意を探るためにあるのではなく、これから起こるであろうミステリィ小説そのものの事件の中で他の作家たちとの推理合戦に勝ち抜くためにあるのだ。

 しかも今回は私だけでなく、他のすべての作家のスマホにも読心機能が備わっているのである。

 自分の内心が筒抜けになっていることを承知の上で、いかに相手を出し抜くかを講じていかねばならず、一瞬たりとて気を抜くことは許されなかった。

 SF小説やファンタジー小説なんかでは、敵味方双方に読心能力があったりしたら心の読み合いの無限ループになってしまい収拾がつかなくなると論じているものが多々見られるが、実はこれは誤りで、心の読み合いといっても普段我々が行っている会話のキャッチボールと何ら変わらず、結局はその場その場で相手の出方に合わせて臨機応変に対応していけばいいのだ。

 たとえ自分の心が読まれていたり相手の心がわかっていたりしたところで、お互いに相手から取得した情報に基づいて思考や行動のパターンを微調整することになり、その結果読心したりされたりする情報自体も刻々と変わっていき、結局は情報だけに頼らず自分自身の判断で先の先を読み果敢に行動を起こしたほうが勝負を決するという、言わば将棋や碁の名人が真剣勝負の場で実際に行っているのと同じことに過ぎないのだ。

 それはスマホにおける相手の内心表示が複数の候補のリストアップ形式であることが如実に表しており、いわゆる唯一絶対の読心や未来予測なぞ森羅万象が刻々と変わり続けるこの現実世界の中ではけして不可能なのであって、むしろ複数の候補を表示するほうがその変化を見越しているわけで、読心や未来予測の在り方としてはより理想的と言えよう。


 しかも私には他の参加者には無い、アドバンテージがいくつかあった。


 実はスマホに読心機能だけでなく、これから先の事態の展開の予想が選択肢として表示され、現実世界を恣意的に移行し得るルート分岐選択ができるのは私だけだったのだ。

 女神の話によると、そもそも私以外の参加者の『願い』がルート分岐選択能力を必要としないものばかりだからとのことであるが、実際に事件が起こった際には非常に有利な武器になるのは間違いなかった。


 おまけに、スマホを介していつでも女神自身を呼び出すことができるのもどうやら私だけみたいで、イベント進行中に何か疑問が生じた折にはいまいち信用の置けない水無瀬氏ではなく、こっそりと女神に御解説願えることは非常に好都合であった。


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 それで、いつでもこれ以降の展開を自分の思い通りにすることができるというチート能力を密かに隠し持っている私が、今この時何をしているかと言うと──。


 実は例の常に無表情な謎の超絶美少女と、二人だけでしっぽりと湯船に浸かっていたりするのであった。


「……りんちゃん。そんな姿勢をしていて、お湯が熱くないの?」

 先ほどからお湯の中に顔の下半分を浸すように身を沈め、無表情ながらも白磁の肌を全身真っ赤に染め上げている少女──ゆめどりりんに恐る恐る問いかけてみるものの、相も変わらず言葉一つ返すどころか身じろぎすらも一切行わなかった。

 ううううう。なんて気まずいの。

 こんな人形そのものの美少女の入浴とか着替えのお世話をするのはそれはそれでいろいろと楽しみもありそれほど苦にならないけど、このように意思疎通がまったく図れないことにはほとほと参ってしまっていた。


 ……何で、こんなことになってしまったのだろう。


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 すでに早くも一週間前になるイベント初日での水無瀬みなせすぐる氏の開会の挨拶の後で、おっさん作家ばかりの集まりの中において何とも場違いな雰囲気を振りまいている青年作家と謎の美少女の二人連れに声をかけたのも、あくまでもちょっとした好奇心でしかなった。


「あの、初めまして。確かSF的ミステリィ小説家のうえゆう先生ですよね。去年のミステリィランキング誌で一位を獲られた」

 連れの少女とともに今にもエントランスホールを後にしようとしていたところを私に呼び止められて、怪訝な表情をして振り返る青年作家。

「……ええ、そうですけど。ええと、あなたは?」

「あっ。これは失礼いたしました! 私駆け出しのミステリィ小説家で、えすまみと申します。以後お見知り置きを!」

「ああ、はいはい。あの現役美少女高校生ベストセラー作家として有名な。それで、私に何か御用でも?」

 ……いや。私自身は別に、現役美少女高校生ベストセラー作家ってのをキャッチフレーズにしているわけではないんですけど。

「ええと。ぶしつけなことをお尋ねして恐縮ですが、そちらのお嬢さんは、先生とはいったいどういった御関係にあられるのでしょうか?」

 思い切って問いかけてみれば、いまだその場に居残っていた周囲の作家たちが一斉に聞き耳を立てた。

 どうやら彼らのほうも、気になっていたようだ。

「あはは。何か警察に職質でもされているみたいだなあ。御心配なく。少々歳が離れていますが、こいつは親父の再婚相手の連れ子で血の繋がりもなく名字も違っているけど、正真正銘僕の妹にして扶養家族ですので。けしてロリコンの連れ回しとかじゃないから」

「へえ。可愛らしい妹さんですねえ。いや、別にこちらも先生との御関係を疑っていたわけではなく、何でこんな大人ばかりの集まりに、そんな幼いお嬢さんを連れて来られているのか気になったもので」

「あーそれはねえ、見ての通りこいつは別に五感に異状はないというのに、生まれた時から対人コミュニケーション能力というものがほとんど欠けていて、その上最低限の生活能力も備わっていないんだけど、生憎と僕と二人暮らしでね。他に預かって面倒を見てくれるような当てもないから主催者サイドに無理を言って、こうして兄妹一緒に参加させてもらっているという次第なんだよ」

 その言葉に思わず少女のほうを見やれば、確かに自分のことが話題になっているというのに何ら反応を示すこともなく、相変わらずの無表情を保っていた。

「ご、ごめんなさい! そんなこととは露知らず、差し出がましいことをお聞きして!」

「いや、別に構わないよ。僕みたいな年頃の独身男がこんな幼い女の子を連れて歩いていたんじゃ、いろいろと不審がられるのも無理ないしね。それよりもこうして言葉を交わしたのも何かの縁ですので、あなたさえよろしければお願いしたいことがあるんですが」

「へ? 私に、ですか?」

「それというのもこのイベントの間だけで構いませんから、お暇な時にでもこの子に会いに来てくださいませんか? ずっと男手一つで面倒を見ているので至らぬ点も多く、こいつには何かと不自由な思いをさせていることだろうし、せっかくの機会だから歳の近い女の子に仲良くしてもらえば、いい気晴らしになるんじゃないかと思って……。あ、いや。もちろんあなたにもいろいろと御予定がお有りでしょうから、是非にとは申しませんが」

「いいえ、そんなことはありません! 私でよろしければ、いつでもお伺いさせていただきます!」

 失礼なことを聞いてしまった罪悪感もありさして熟考もせず咄嗟に承諾の返事をしてしまえば、端整ながらもどこか生気のなかった青年の顔がぱっと輝いた。

「おお、それは助かります。いやあ、思った通り素晴らしい方だ。どうか妹のことをお頼みします」

「いえそんな、素晴らしいなんて。こちらこそ、これからよろしくお願いします!」

 感極まった美青年小説家に両手をしっかと握りしめられて、上気しながらも慌てて答えを返す女子高生作家。


 だから、気がつかなかったのである。


 周りの小説家たちがこちらのことを、さも憎々しげに睨みつけていたことを。


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「……あの時勢いに任せてつい安請け合いしてしまったのが、運の尽きだったのよねえ」

 そう。この少女──ゆめどりりんに関わろうだなんて、間違いだったのだ。


 まさか自分が会いにくるだけでは満足せず、こんなにもこの子のお世話にのめり込んでしまうとは。


 確かにうえ先生のおっしゃっていた通りにりんちゃんの身の回りの世話をするのは、思っていた以上に大変であった。

 何せ五感のほうは別に異状はないようなのに、何が起きようともほとんど反応というものを示さず自分からも言葉すら発さず、自立的な生活能力が完全に欠けていたのだ。

 まるで『ヘレン=ケラーか人形か』といったところであり、結局こっちが『サリバン先生』にならざるを得ず、着替えから入浴の世話まですべて面倒を見ることとなった。

 言うまでもなく上無先生のほうはそんなことまで押し付けるおつもりはなかったようだが、むしろ私自身がどうしてもやってみたくなったのだ。

 もちろん最初はいろいろてこずったものの、実はそれほど苦痛を感じたりはしなかった。

 なぜならこの少女ヘレンときたら、まさに『奇跡(の人)』的に可愛らしかったのだ。

 このような可憐な外見に加えてまるで純真無垢な赤児のような有り様であるし、何か倒錯的なのだが、まさしく生きた日本人形の世話をしているみたいなのである。


 だがそんな感慨なぞ、まだまだ生ぬるいものであったのだ。そのことを思い知らされたのは、彼女を初めて自分の手でお風呂に入れようとした時のことであった。


 こ、これは、何という──。

 私はそれまでこの子のことを『美少女』であると、十分に認識していたつもりであった。

 そう。あくまでも、『少女』としては。


 しかし、すべての衣服を脱ぎ捨ててあらわになったその少女の肢体は、もはやそんな概念上のカテゴリーなどはるかに超越した、『究極の美の具現』そのものであったのだ。


 その長い髪と愛らしい顔はまさに、彼女が女の子であることを象徴していたのだが、女性用の下着一枚つけていない現在の有り様は、あたかも女でも男でも子供でも大人でもない、えも言われぬ不思議な存在へと変わり果ててしまっていた。

 私はその神秘の偶像をじかに自分の手で、石鹸あわまみれのタオルを這わせて確かめてみた。

 わずかばかりに膨らんだ胸とくびれもいまだ目立ない腰つきの、おうとつが乏しく華奢でしなやかなる体躯。どこかはくじゃすらも思わせるみだらで妖しげな雰囲気をかもし出している、白く透き通るようにすべらかなる肌。


 まさにそれはこの瞬間ときだけに存在することが許された、『はかなき奇跡の美の結晶』と言うべきものであった。


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「……ほんと、りんちゃんの髪の毛って、色つやといい手触りといい絹糸みたいよね」

 今日も今日とて兄君のうえ先生の外出中に頼まれたすでに数度目の妹さんの入浴のお世話の後で、お湯でしっとりと濡れた文字通り烏の濡れ羽色の髪の毛をタオルで丁寧に拭いてあげながら、私は感嘆のため息をついた。


 ──まさにそんな時であった、あの不可思議な少女の声を、久方ぶりに耳にしたのは。


『何だか随分とお楽しみの御様子ね。まさかあなたにソッチの趣味があったなんて……』

 突然すぐ側のテーブルに置いていたパールホワイトのスマートフォンから聞こえてくる、幼いながらもどこか尊大なる少女の声。

 それは紛う方なく、かの自称『ミステリィのがみさま』のものであった。

「ち、ちがっ。あなたいきなり電話してきて、何てこと言うのよ? ソッチの趣味って何よ⁉」

『私も外見年齢はその子と同じくらいだから、せいぜい気をつけないとね』

「……外見って。やはりあなたにも姿形なんかあるの? てっきりネットの中だけを行動領域にしている、音声や文字のみからなる情報体的存在とでも思っていたんだけど」

『失礼ねえ。これでもすこぶる付きの美少女なんだから。もしも会うことがあれば、きっとあなた、でしょうね』

「へえ、自信満々じゃない。だったらこのスマホの画面に、ちょっとだけでいいから姿を現して見せてよ」

『……やけに食いつきがいいわね。やはりあなた、ソッチの趣味が──』

「だから違うって言っているでしょうが⁉ だいたいがあなた、いったい何の用があってスマホにアクセスしてきたのよ?」

『そりゃあ今まさにロリコン女子高生の毒牙にかかろうとしていた、いたいけな少女を助けてあげなくてはと思ったからよ。こんなこと今日び善良な市民としては、当然の義務でしょう?』

「誰がロリコン女子高生よ! ──ていうか、あなたってまさか、こっちの状況が見えているわけなの⁉」

『ふふん。全知全能なる女神様の力を、舐めてもらっては困るわ』

 その全知全能なる女神様の力とやらの使いどころが、間違っているって言っているのよ⁉


「──おやおや。何だかにぎやかですね。お友達とでも御歓談ですか?」


 唐突に背後からかけられる、穏やかな声。

 振り向けば部屋の入口には、この客室のあるじがいつも通りの人のいい笑みを浮かべて立っていた。

「あっ。先生、すみません! 人様のお部屋だというのに、大声で騒いじゃって──っと、いけない。りんちゃんの髪を拭いてあげている途中だった。このままじゃ風邪を引いてしまうわ」

「ああ、後はこちらでやりますよ。むしろ僕のほうこそ申し訳ございません。すっかり妹の世話を任せてしまって。どうぞお電話のほうをお続けください」

「い、いえ、そんな。電話のほうもとっくに切れているみたいだし」

 さすがは自称『ネットの住人』。上無先生が部屋に戻るとほぼ同時に、アクセスを解除したようである。


 しかしそんな恐縮しきりの私を尻目に、さも手慣れた感じで妹の髪のブローとブラッシングを始める青年。大きめのクッションの上にちょこんと座って、兄のなすがままに任せる少女。腰元まで流れ落ちているつややかな長い黒髪が、まるで宝物を扱うかのように細やかな手つきで丁寧にくしけずられていく。


 ……なんか、絵になるわよねえ、この二人って。

 小説家といっても年の頃二十代前半でまだまだ年若い先生が、こうして超絶美少女で『氷の無表情人形』とも呼び得るりんちゃんのお世話なんかをしていると、あたかも深窓の姫君にかしずく忠実なる青年騎士のようにも見えてくるわ。


 ──いや、違う。


 髪の手入れのあとに当然のように始まった、その他の細々こまごまとした身だしなみの世話。妹の足もとにひざまずき、一本一本の指の爪を時間をかけて丁寧に切っていく兄。

 相も変わらぬ無表情のままで、さも当然のことのように青年のほうへと片脚を差し伸べている幼き少女の様は、妹とか姫君とかと言うよりももはや『女王』のごとき雰囲気すら感じられるほどであった。

 そのあとにも、耳かき、肌のお手入れ、歯磨き等々と、女王様の『メンテナンス』は微に入り細に入り続いていったのだが、そのすべてがあたかもガラス細工の人形を扱うかのように、細心の気配りに満ちていた。


 ……なぜだろう。この二人の様子を見れば見るほど、胸がドキドキしてくるのは。

 いやいや。変な妄想はやめておかなきゃ。

 二人は義理の関係とはいえ、間違いなく御家族なのだから。

 心身の不自由な妹の世話を兄が親身になって行うことの、どこかおかしいというのだ。


 しかしそれでもこの兄妹のかもし出す何とも言えない独特の雰囲気こそが私を捕らえて放さないのも、また事実なのであった。


 いくら『女神のスマホ』を使ってもけして読心をすることのできない、心の在り処が不明な二人。

 特に先生のほうはスマホ自体を使っているところをほとんど見かけたことがないのだけど、この人本当に『エムがみさま』サイトの課題ゲームをクリアすることでこのイベントに参加しているのだろうか?

 自分自身のほうは他者に心を読まれることなく一方的に女神のスマホの読心機能が使えるとしたら、絶対的に有利な立場に立てるはずなのに。


 いやむしろこのように謎が謎を呼ぶばかりの二人だからこそ、自分自身名探偵願望が強いミステリィ小説家である私の関心を、かようなまでに惹きつけるのかも知れなかった。

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