08
話はそれるが、
子供の頃に読んだ事のある絵本の中に、こういうものがあった。
それは、何でも棄てられる巨大な黒い穴の話だ。
人々はその穴の恩恵に溺れ、最終的に未来の人間の生きる世界を滅茶苦茶にしてしまう。
確か、そういう話だった気がする。
ここまで言えば分かるだろう。
私達が次に直面したもの、三つ目の問題はそういう問題だった。
ようするに今の幸せを取るか、私達のは何ら関係のない未来の人間の幸せをとるかという。
二つの中から一つを選ぶ、選択の話だ。
黒幕である彼らを邪魔しなければ、私達の生きる世界は豊かになり、私達の生きる国は更に平和で安全になって、皆が幸福を享受できるようになる。
けれど、それはつかの間だけのもの。
それは私達の知らない所で、誰かが不幸になることを運命づけてしまう事でもあった。
人々の血と汗と努力の結晶。
それでいて世界破滅の引き金となる、間接的な破壊機械。
そんなものを目の前にして、私達は最後の選択を迫られた。
私達が相手取っている彼らとて、別にしたくて破滅に加担しているわけではない。
ただ豊かに、幸せになりたかっただけ。
その道の遥か先が破滅へ繋がっているとは、知らなかっただけなのだ。
私達は、正常な運命の流れから零れてきてしまった未来の欠片を、反則的に覗いてしまっている。
とても卑怯な者達だ。
それでも、私達はこの選択から逃げてはいけない。
それはとてもとても便利な穴の話。
偶然見つけたものではない、多くの人の努力の結晶が結実した成果の話。
それを今から、台無しにしなけれなばらない。
だから私達は、二つの中のどちらかを選び取った。
――転送、開始。
「自分で自分を世界の彼方に飛ばしてしまいなさい!」
さようなら。
ひどい産みの親がいたものだ。
科学技術で生み出された、どんな金銀財宝よりもまさる発明品。
しかし、そんな便利な穴は必要ない。
これは、そんな結論に達した私達の話だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます