『英雄』

 ひとを殺した。無抵抗な相手を僕は無情に殺した。


 別に、相手を殺したかったわけじゃない。


 ただそこに立っていた。だから殺した。


 激闘を繰り返す好敵手の決着を急いだわけじゃない。


 恋人を殺した恨みをぶつけたわけじゃない。


 ただそこにいたから、だから僕は彼を殺した。


 憎しみの果てに憎悪の渦で身を焦がれさせる、そんな夢を抱いて。


 ナイフで何度も、倒れないことをいいことに滅多刺しに。


 相手は逃げなかった。泣かなかった。叫ばなかった。


 自分が死ぬと解っていて。なんの動作も起こさない。


 彼にしてみれば僕は頭の狂った殺人鬼で、


 普通なら苦しみながら感情の一つでも爆発させるのに。


 愛してる人がいる。家族がいる。彼を想う誰かがいる。


 なのに僕は、その一切を削いで。無視して。


 冷たい鈍色を突き立てた。


 彼は死んだ。今死んだ。今日死んだ。


 人工で創られた無能なAIは今日も誰かに殺され続ける。


 誰かの語る英雄のために。


 そしてまた、僕は人を殺す。


 ゲームクリア。その言葉を聞き届けるまで。

 

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