宙の我が家
『無駄な子供』・プロローグ
部屋を出るのは、いつも家族が寝静まった夜中だった。息を殺して階段を降り、人気が無いことを確認して廊下を這うように渡る。
目指すは台所だ。音を立てないようドアを開けて、暗いままの部屋に入り込む。地球人と異星人との遺伝子工学で出来た、人工ハーフの自分には少ない明かりでも見える、所謂暗視能力があるらしい。闇の中に浮かぶ、自分には縁の無い四人掛けのテーブルの下を潜り、彼は台所で低く唸っている冷蔵庫の扉に手を掛けた。
扉に付いているパネルの音声を切り、取っ手に手を掛ける。淡いオレンジの光の中、雑然と棚に突っ込まれた食料が見えた。
そのまま食べられそうなものを、両手に次々と取り、口に突っ込む。咀嚼音が低い冷蔵庫の唸り声に混じる。調理どころか加熱もされてない食べ物。
それを彼……シュウはひたすら空腹を満たそうとむさぼっていた。
物心ついてから、理解した初めての言葉は『無駄』だった。
反対する双方の両親を説得して、大金を払って人工的に作ったハーフの子供。しかし『性格の不一致』から異星人の父は、妊娠中の地球人の母を捨てて、どこかに行ってしまった。
残ったのは『大金を払ってでも欲しかった子供』から『大金を無駄に使って出来た子供』。
『仕方なく』『産んだ責任』で連れて行かれた再婚先の家庭では『死なれると面倒だから』死なない程度に夜中の冷蔵庫漁りが許されているだけで、後は部屋に押し込め状態だった。
日に一度、冷蔵庫の中身が減る以外には認識されない子供。
そんなシュウが宇宙港に置き去りにされ、星々と宇宙船を転々とする、宇宙時代のストリートチルドレン、スペースチルドレン、略してスペチルになったのは、彼が八歳のときだった。
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