自由の青い空
「マミー、マミー、僕、家族が出来たんだよ」
雨が徐々に弱まっていく。ファボスは水は苦手だが、雨の音は好きだ。ぽつぽつと傘を叩く音に、つい歌い出す。
桜に教えて貰った童謡。楽しげに歌う弟に、夏海が微笑む。
「空が明るくなってきた。もうすぐ雨が止むね」
バリカを出し、表面をさっと撫でると時間が表示される。午後四時二十分。家に帰るころには雨は止むだろう。
歌いながら、ファボスは遠くに青色が見え始めた空を見上げた。
「ただいま~」
「ただいま」
二つの声に「ファボ! なつねえちゃん!」愛らしい声とパタパタと廊下を走る足音がして、桜が駆けてくる。
「ただいま、桜ちゃん」
ぴょんと飛びついてくる、小さな女の子をファボスは抱き上げた。
「いいにおいがする~。ぱん、かったの?」
「うん! 桜ちゃんの分もあるよ」
「わ~い! たべる~!!」
「ダメ、桜。奈緒義姉さんが良いって言ったら」
つい、桜には甘いファボスを見越して、夏海が釘をさした。ファボスが三本目の触手を出して、帽子を取ると頭頂の口腔をぱくぱく開けて匂いを嗅ぐ。
「奈緒さん、遅くなってごめんなさい。お詫びにお手伝いするよ~」
三人が台所になだれ込む。それに健二が慌てて腰を上げた。
「奈緒~。俺も手伝うよ」
三人に愛妻を取られまいと、甘い声を出す孫息子に茂雄が吹き出す。
一気に賑やかになった台所の声を聞きながら、茂雄は雨の止んだ空を見上げた。白い雲が割れ、徐々に少し赤みの掛かった青い空が見えてくる。そして、そこには神田気象管理センターのサービスの……。
「お~い、皆、虹が見えるぞ~」
皆が縁側にやってくる。まだ残った雨雲と青い空を背景に大きな七色の空の架け橋が次第に色を濃くしていく。キラキラと瞳を輝かせる子供達に、茂雄は愛おしげに微笑んだ。
「マミー、マミー、僕、夢が出来たんだよ」
いつか、僕は自分で宇宙船を作って、神林の皆と福沢の皆と僕の故郷の惑星マルクに行くんだ。そのころにはきっと、僕はマルクに入星出来るようになっていると思うから、マミーの本当のお墓にお参りに行く。
「それまで、待っててね。マミー。僕、マミーにお話したいこと、まだまだ、いっぱいあるんだ」
家族のこと、友達のこと、今の仕事のこと、ここに来てからの僕のこと。
そして、これから僕に起きる、いろんなことを。
チリン、チリン!!
秀くんの配達の自転車のベルの音がする。
「秀の配達が始まったか、夕時だな」
おじいちゃんの声がする。
「秀く~ん!! 頑張って!!」
チリン!!
僕の声に、山茶花の垣根の向こうを走る秀くんが、大きくベルを鳴らした。
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