第136話 メカ高橋さん改造計画です。
あの後、大家さんにも挨拶に行くと言い張るメカさんを説き伏せて一旦部屋に戻った俺は、高橋さんとミユを交えて作戦会議を行った。
どういった会議かと言えばメカさんの事に対する口裏合わせである。
先程、佐藤さんに対して俺が並べた嘘八百な内容をきちんと皆で共有しないと、どこでボロが出るかわかったものではない。
そもそも思いつきで喋ってきたわけで、色々矛盾というか説得力のない部分もあったと思う。
本当なら山田さんも居てくれれば色々スムーズに話も進んだだろうけど仕方がない。
仕方がないのだが、正直作戦会議を始めて三十分経過した時点で俺は彼の居ない現状を嘆いていた。
なぜなら彼が居ないと高橋さんやミユは好き放題謎設定を加えてくるので話が進まないのだ。
なんせミユはアニメで見たロボットの装備を付けたがるし、高橋さんはそれを鵜呑みにして設計しようとする。
そして厄介なのがメカさんもそういう話に乗り気なようで、ちょくちょく俺に期待の眼差しを向けてくるからたまらない。
メカさんにおっぱいミサイルは必要無いし、目からビームは出ない。
そう否定すると高橋さんが「じゃあ今から作るですです」とか言い出し、ミユがノリノリでそれを応援し、メカさんが無表情ながらも目をきらめかせ俺を見るのだ。
そんな事を一時間近くもの間続けていれば疲弊もするというものだ。
ちなみにコノハはミユと遊んで疲れたのかすっかり俺のベッドの上で熟睡中だったので何も役に立たない
もう完全に猫だが、そもそも元のコノハでも役に立たなかったから変わりはない。
むしろミユたちの意見に同調して騒がしさが倍増する可能性のほうが高かろう。
俺達が喧々囂々(けんけんごうごう)と設定を決めている間、当のメカさんは一人キッチンと部屋を往復して俺達のためにお茶やら茶菓子やら用意してくれていた。
脳が疲れてきたので、ありがたく甘味を求め無造作に用意された茶菓子を喰ったら中に鳩サ……『銘菓 不死鳥』が紛れ込んでいたらしく口から火が出た。
『銘菓 不死鳥』の強烈デトックス効果に悶絶している間にメカさんの口から超音波を発生する装置をつけようと俺のベッドの下から工具箱を取り出した高橋さんを押さえつつも、何故だか乗り気になっているメカさんに注意をする。
そんな装置付いたらもう普通の人として紹介できないからね!
あと何で俺のベッドの下に工具箱とか部品とか一杯詰まってるのか後で高橋さんを締め上げなければなるまい。
「わかった、わかりました。とりあえず今日の作戦会議は一旦終了。理由は俺が疲れたからっ!!」
そうして今宵の対策会議(?)を強制的に終了させると、そのままの勢いで高橋さんを部屋から追い出し鍵を閉めた。
とりあえず一番やばそうなのを排除した俺はドアを背に「ふぅ」と息を吐く。
山田さんも居ないのにあの問題児たちを相手に俺一人で何かしようとしたのが大きな間違いだった。
明日、彼を交えてもう一度話し合いをしてメカさんの『設定』を固め直すのがベストの選択だろう。
正直俺一人ではあいつらを押さえきれない。
最悪メカさんがスーパーロボット化されてしまいかねないのだが、当のメカさん本人が乗り気なのが危険すぎる。
「はぁ……疲れた」
そう呟きつつ部屋に戻ると、ミユとメカさんは二人で仲良くテレビでアニメを見ていた。
本来ならメカさんも高橋さんの部屋に帰らせたい所だが、俺の目の届かない所に追いやって気がついたら『フルアーマーメカ高橋さん』になられては目も当てられない。
メカさんも喜々として応じそうだからたちが悪いのだ。
そんな二人を見ると、なにやらミユが一生懸命テレビを指差しながらメカさんに話しかけている。
一体何のアニメを見ているんだろうか。
俺が画面に目を移すと、そこには有名な探偵ものアニメが流れていた。
悪の組織に薬で小さくさせられて子供探偵として活躍するという国民の誰もが知っているであろうアニメである。
たしか殺人動機が『ハンガーを投げつけられたから』とかいう話で一時期ネット界隈でも話題になってたな。
ハンガーヌンチャクで殴られたからとか、投げ渡されたのが木のハンガーじゃなかったからなら仕方がない事だが、逆にそれがリアルな気もするけど。
俺がアニメに熱中している二人のそばに座ると、メカさんが俺の方を見て何やら言いたそうにしている。
なぜか彼女の言葉がわかるようになった俺だが、話を聞こうという姿勢にならなければその声は届かない。
不思議だ。
「ん? どうしたの?」
そう訪ねるとメカさんは自分のメガネを指差してからTVの画面を指差す。
「眼鏡にレーダー装置をつけたい?」
こくこく。
どうやらアニメの主人公探偵が持つスーパーアイテムが気に入ったようだ。
メカさんはそれを手にして一体何に使いたいのか。
まさか俺の背中に発信機を取り付けて尾行したり行動チェックしたりとか?
でも俺だいたいココと学校の往復と、たまに近所のコンビニかスーパーに出向くくらいなんだが。
場面が切り替わり、少年探偵がひみつ道具を使うたびにメカさんが俺に「あれもほしい」「それもほしい」とねだってくる。
欲しいと云われても売ってるのはおもちゃだけだし、そんなの買うお金もない。
まぁ、メカさんの身体自体を改造するわけじゃないから問題ないとは思うし、ドワドワ研ならあの程度のアイテムなら作ってくれるだろうけど。
「え? キックシューズ? いや、メカさんならあんな靴履かなくても同じくらいの威力の蹴りをだせるんじゃ……」
リミッターを掛けられたはずなのに力持ち種族であるドワーフの高橋さんより強いメカさんの本気の蹴りとか絶対死人が出るわ。
むしろ更に彼女のパワーを抑える装備を頼むべきなのではなかろうか。
そんなことを考えている間にTVではそろそろクライマックスの犯人当てが始まりそうになっていた。
やがていつもの通り主人公は自分の姿を隠すため居候先のおじさんを昏倒させる麻酔銃を放つ。
「いや、あれはダメ。リアルでやったらマジ犯罪だから」
自分の手首を指差して俺に同じアイテムがほしいと要求してくるメカさんにやんわり注意する。
実際リアルであんな即効性のある強力な麻酔を毎回射たれてたら後遺症が出るレベルだろう。
最近は少しタバコのシーンが入っただけでも苦情が来るらしいのに、これは問題ないのか?
でも確か別のアニメの有名な大泥棒さんとコラボした時、大泥棒の仲間は禁煙扱いにされてたっけ……世知辛い。
そんなことを考えているうちに、やがて犯人が涙ながらに自分の犯した罪と理由を語りだした。
お約束のシーンに見入っていると――。
ぴんぽーん。
玄関から誰かが訪問してきたことを知らせるチャイムが鳴り響く。
「あっ、俺が出るからミユたちはアニメ見てていいよ」
立ち上がろうとするメカさんを手で制して俺はそう言うと彼女たちを部屋に残し玄関へ向かう。
もしかしたらさっき追い出した高橋さんが何か忘れ物でもして戻ってきたのかもしれないな。
一応確認のためにドアのスコープを覗いた俺は、そこに見知った久々に見る男の姿を認め目を見開く。
「えっ、なんであの人がっ」
俺がわけがわからないまま急いで扉を開くと、その男は優しげな顔に満面の笑みを浮かべ、手に持っていた荷物を下に下ろし――。
「久しいな、師匠。壮健そうでなによりだ」
筋肉が浮き出る片手を差し出しながら凛々しい声でそう言った。
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