第134話 ベッドの下には大事なものが隠されているのです。
俺は高橋さんの話を聞きながら朝ごはんを食べている。
ミユの料理の腕前はどんどん上がって、今では俺よりも美味しくバラエティに飛んだ料理が作れるようになっていた。
「今日のご飯はまた一段と美味いな」
「そうなの、メカさんすっごく料理が上手なの!」
ミユの隣でメカ高橋さんが『それほどでも~』といった感じで頭に手をやって照れている。
製作者の高橋さん自体は料理が上手なわけではないので、元々そういう機能が付いていたとは思えない。
ということはやっぱりあの謎のブラックボックスのせいなのだろうか。
「もう一杯おかわりくださいですですぅ」
「あっ、俺もおかわり」
俺も高橋さんに続いて茶碗を差し出し、ご飯のおかわりを頼む。
ミユが高橋さんの茶碗を、メカ高橋さんが俺の茶碗を受け取ってキッチンへ向かう。
ちなみにミユとメカ高橋さんの『朝食』は既に終わっているらしい。
ミユは判るがメカ高橋さんの『朝食』って何なのだろうか。
そもそも動力源が何かも気にはなるけれど。
ミユやコノハの依代体は、それぞれの魔素を利用しているはずなのだが、メカ高橋さんは『自立型』である。
外部からのエネルギー供給と通信が途絶えた場所でも、その目的上動作しなければならないわけだ。
気になって高橋さんに尋ねてみると『魔素電池式ですです』と答えてくれた。
彼女の説明によると、魔素電池とは自立型依代体を動かすための魔素を詰め込んだものなのだそうで、大体普通の充電式電池を想像してもらえればいいとのこと。
首裏のメンテナンスハッチを開けると充電ポートがあり、ミユの本体が入った育成ケースから引き出した魔素充填用のコードを突き刺すことで充電(?)が行われるらしい。
つまりメカ高橋さんは現在ミユの生み出す魔素で動いているということだ。
俺がミユにご飯を食べさせると、巡り巡ってメカ高橋さんのエネルギーになる。
なんだか不思議な感じだ。
「おかわりいれてきたの~」
そんなことを話している内にミユが大盛りご飯を持って帰ってきた。
3倍の力を得た新飛行装置のおかげか、山盛りのずっしりとした茶碗を持っているのに何の問題もなく飛んでくる。
「ありがとうですです」
高橋さんはミユから漫画でしか見たことがないような山盛り状態の茶碗を受け取りつつ話を続けようとする。
あれだけご飯食べても体型が変わらないんだから不思議だ。
「もぐもが、もぐもぐもぐもがもぐもがも」
「食いながらしゃべんな! あと、俺は普通盛りでお願いします」
いつの間にか俺の分のおかわりを高橋さんと同じくらいの量で持ってきていたメカ高橋さんをそっと制する。
どこぞのご飯大好きアンドロイドじゃあるまいし、ご飯だけそんなに食えない。
じーっ。
なのに当のメカ高橋さんは何も言わず俺の顔をじーっと見つめたまま動こうとしない。
なんなのだろうこの圧力は。
「え? 若い子はいっぱい食べなきゃ大きくなれないって」
「田中さん、メカさんの言葉がわかるですですか?」
「い、いやなんとなくそう言ってる用に感じたんだよ」
さっきまでただ無表情なまま俺を見つめてくるだけだったはずなのに何故かメカ高橋さんが言いたいことが伝わってくる。
不思議だけどもしかしてこれもブラックボックスが影響してるのだろうか?
元々そんな念話みたいな機能がついてるのだとしたら高橋さんが知らない訳がないし。
じーっ。
もう一度メカ高橋さんの方を見ると山盛りご飯を手に持ったまままだ俺の方を見ていた。
「なになに? 『コレくらい食べないと背は伸びないわよ』って、余計なお世話だ!」
「一々通訳しなくてもいいですですのに。無駄にツッコミ体質なのはいつまでたっても変わらないですですね」
ぐぬぬ。
「そもそも高橋さんもメカさんも俺以上にチビ助だからな。それに背が低いのは遺伝のせいだよ。」
じーっ。
「うっ――突然謝られても……」
目で『ごめんなさいね』と訴えてくるメカ高橋さんに俺は少し強く言い過ぎたかなと俺が反省していると目の前に山盛りご飯を差し出された。
「わかった、わかりました。食べれば良いんだろ食べれば!」
俺はメカ高橋さんの手から山盛り茶碗を受け取ると、思い切って食べ始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまなのー」
ぺこり。
メカ高橋さんがミユの言葉に合わせて少しお辞儀をする。
「それじゃ、片付けは俺がするよ」
俺はそう言うとちゃぶ台の上の食器を積み上げて持ちキッチンへ向かおうと振り返ると、何故かそんな俺の方を見ながらメカ高橋さんがメガネを外して涙を拭くような仕草をしていた。
「いや、本当に立派になって……とか、俺と貴方は今日初めて出会ったばかりですからっ」
俺は泣き真似をしているメカ高橋さんをその場に残しキッチンへ向かう。
キッチンでは先にミユがお茶碗を、その小さな体で器用に洗っていた。
毎回思うんだが、本当にミユは器用だよな。
俺がミユと二人で洗い物をしていると部屋の方からメカ高橋さんがやって来て玄関から外に出ていった。
「どこいくんだ?」
「どうしたのかな?」
しばらくして俺達が洗い物をすべて終え、前に山田さんがいつの間にか持ってきて設置していった食器乾燥機に食器を並べた所でメカ高橋さんが玄関を開けて帰ってきた。
いったいどこから持ってきたのか、両手に何やらお菓子の箱のようなものが5個ほど乗せている。
そしてそのまま俺達の横を通り抜け部屋の方に入っていった。
途端、部屋の中から高橋さんの叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃーっ! それ私の秘蔵の銘菓コレクションじゃないですですかぁーっ!!!」
俺とミユは手を拭きながら何があったのかと部屋にむかう。
すると、ちゃぶ台の上に先程メカ高橋さんが持ってきた箱が並べられていて、その中には以前見たことが有る『銘菓 青い鳥』や『せかいじゅの葉饅頭』が混ざっている。
「え? なんだって?」
メカ高橋さんがそれらを指差しながら俺の方を振り向き何やら言いたそうな顔をしているので通訳することにする。
「引っ越しのご挨拶に回るために持ってきたけど、これでたりるかしら? だってさ」
俺が高橋さんにそう告げると、彼女は頭をかきむしりながら「引越し挨拶とか要らないですですぅ! 隠しておいたのになぜわかったですですかぁ!!」とメカ高橋さんの両肩をゆさゆさ揺らしだした。
しかしリミッターがかかっている状態でもメカ高橋さんはドワーフ族以上のパワーを未だに持っているのかびくともしない。
「えっと、物を隠すならベッドの下って決まってますから、オホホホホらしいよ。というかベッドの下に隠すって……」
「まるで男子高校生なの」
ミユが俺の肩の上から適切なツッコミを入れる。
いや、ミユさんや。
その知識は一体どこから?
まさか俺のベッドの下とか覗いてないよね?
まぁ、覗かれても何もないけどね……今は。
俺は騒ぐ高橋さんを無視して、ちゃぶ台の上に置いてある箱を一つ手にとって見た。
パッケージに書かれている文字を読むために久々に『言霊の息吹』の呪文を使い読んでみる――。
「なになに『白い鯉人』……これは訴訟も辞さないレベル」
相変わらず何処かで聞いたような銘菓の名前と、パッケージで何故かにこやかな笑顔で親指を立てている可愛い鯉のイラストのギャップが激しい。
手と足が生えていることに関しては突っ込んだら負けかなと思っている。
「ううっ、それはエルフの里の真ん中にある池に住んでる北海(きたみ)さんのお店で売ってる銘菓ですですぅ」
メカ高橋さんとの戦いに敗れ、涙目で俺の方にやってきた高橋さんが、そんな状態でも銘菓の説明をしてくれた。
流石委員長と二人で銘菓談義で一晩明かす銘菓マニアである。
マニアと言うのはこういう時でも自分が好きなものの解説はやめられないものなのだ。
「ちなみに読み方は『しろいこいじん』で、中には鯉の形をしたクッキーが入っているですです」
どうやら名前だけで中身は別物っぽいな。
「白いクッキー生地の間にクリームが挟んであって、それが最高に美味しく――」
「みなまで言うなーっ!」
やばい。
なんだか俺の中のガイアがそれ以上は危険だと叫んでいる。
とんとん。
俺が焦って高橋さんの口を押さえていると後ろから肩を叩かれた。
メカ高橋さんがいつの間にやら他のお菓子をもう一度両手に抱え込み後ろに立っている。
両手が埋まっているので、どうやらおでこを使って肩を叩いたようだ。
「今から挨拶回りに行くからこの菓子も早くよこせって?」
こくこく。
頷く彼女の両手の上に載せられた他の銘菓の上に俺が促されるままに『白い鯉人』をのせると、彼女は少し頭を下げてから部屋を出ていった。
引越しの挨拶か。
俺は初めて山田さんが俺の部屋を訪ねてきたときの事を少し懐かしく思い出す。
あの日、彼からミユを受け取っていなかったら今ごろ俺は……。
とんとん。
俺が懐かしい思い出に浸っているとまた後ろから肩を叩かれた。
何やら高橋さんが複雑な表情でそこに居た。
「大事な高橋さんのお菓子かもしれないけど、生みの親としてプレゼントしてあげなよ」
「それについてはもう諦めはついたですです、それよりも……」
「それよりも?」
「メカさん、田中さん以外には言葉が通じないのにどうやって引越しの挨拶をするですです?」
それを聞いて俺が慌てて部屋を飛び出しメカ高橋さんの後を追ったのは言うまでもない事だろう。
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