第101話 守り神(自称)の降臨です
「話は聞かせてもらったけど人類は滅亡しないから安心してほしいのじゃ」
俺たちが唖然としたまま固まっているとコノハは何故かさっきの勢いからトーンダウンして俺達の顔色を伺う。
いや別に人類がどうのこうのだから固まってたわけじゃないからな。
というかこいつ本気で俺たちがそんなネタにマジレスな状態で固まったとでも思っているのなら、どれだけ俺達はアホと思われているのか……心外すぎる。
「コノハちゃん待ってくださいですですぅ」
「いきなり飛んでいったからびっくりしたの」
コノハに続いて、さっきまで壁に映った日本地図と、その上で動く点を見て遊んでいた二人がやって来た。
どうやらコノハは二人と一緒に遊んでいながらもこちらの話に聞き耳を立てていたようだ。
そういえばそもそもこの里に来たがっていたのはコノハ自身だったはずなのに今まで特に表にも出てこずミユと一緒になって地図を見ているだけというのもおかしな話だったのだ。
「ごめんなのじゃー」
コノハがミユたちに謝っている間に藤原さんが再起動を完了したらしく、コノハに向かってうやうやしく頭を下げた。
「これはこれは世界樹様」
「うむ、くるしゅうないのじゃー」
彼のその言葉にミユたちに対してペコペコバッタになっていたコノハが思い出したかのようにもう一度振り返ってさっきのポーズを取り直すと、そんな偉そうな返事を返した。
「ところで山田さん」
「はい、なんでしょうか?」
藤原さんが山田さんを手招きして、その長い耳にヒソヒソとなにやら話しかけると、今度は山田さんが藤原さんの皺が目立つ長い耳に何か語りかけている。
なんだろう? と首を傾げてみていると、しばらくして話が終わったのかスススっと山田さんが俺の横に戻ってくる。
「失礼しました。今山田さんからお聞きしたのですが、コノハ様はスペフィシュの側の世界樹様なのですね」
そうか、コノハが来たのはつい最近だ。
それも勝手に来たわけだから、その情報が伝わってなかったとしてもおかしくはない。
さっき世界樹様が二人いるとか驚いていたし、間違いなくコノハの存在は初耳なのだろう。
「それでコノハ、いったい何の用なんだ?」
「あっ、そうなのじゃ。さっきの話のことなのじゃが」
コノハが本題を思い出した様で一つ「コホン」と可愛らしく咳払いをした後言った。
「ワシの力ならスペフィシュの民に加護を与えることが可能なのじゃー」
その言葉に俺と山田さん以外の全員が一瞬驚いた後、喜びの表情を浮かべた。
「本当ですか?」
藤原さんが少し震えた声で問い返す。
「本当なのじゃー。こう見えてもワシはお主の世界の世界樹様なのじゃからな」
確かにコノハはこんなちんちくりんの見かけではあるけど『一応』世界樹だ。
しかも力のないミニ世界樹ではなく、中身はスペフィシュの守り神『木之花咲耶姫』本人なのだから加護を与えるのも可能なのだろう。
どうしてその考えに至らなかったんだろうと俺は自分の間抜けさに少しだけ絶望したが、正直コノハのいつもの行動と言動から、コイツが凄い世界樹だということが全く感じられないせいで完全に意識の外に追いやられていたせいだろう。
つまり結論としては『なんもかんもコノハが悪い』ということで心に折り合いをつけることにした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しかしコノハの正体についてはこいつ自身からも内緒にしておいてほしいと前に言われていたから俺の口からそれを言い出す訳にもいかなかったのも事実。
それを自ら突然正体をバラすとはどういうつもりなのだろうか?
「コノハさん、少しお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
コノハの正体を知らない山田さんは心配そうである。
それはそうだろう。
山田さんにとってコノハとはスペフィシュの世界樹ではあるものの、ミユと同じ生まれたばかりの『四番目のミニ世界樹』に過ぎない。
しかも現在この世界に居る目の前のコノハは依代体でしかない。
ドワドワ研の「移るんです」によって魔素のリンクがかろうじて繋がっているだけの無力な存在だと思っているわけだ。
「何か聞きたいことでもあるのじゃ?」
「コノハさんはたしかにスペフィシュの世界樹様ではありますがまだ生まれて間もないお体です。しかも現在は依代体で、本体もこの世界には存在してはおりません。そんな状態でこの世界の人々に加護を授けるとしたらかなりの力が必要になるわけですが、そこまでの力を使うとなるとコノハさん自体にとんでもない負荷がかかると思われます。最悪世界樹としての力を失い長い休眠に入ってしまう可能性すらあります」
山田さんは余程コノハの事が心配なのか焦ったように少し上積った声で心配していることを一気にコノハに伝えた。
「それに」
「まだ何かあるのじゃ?」
一方、心配されている側のコノハは何時もと変わらないのんきな顔をしている。
「それに今のコノハさんの力ではそこまでしても加護を与えられる人数は一人が限界でしょう? しかし、こちらの世界でスペフィシュの加護が必要な人々は現在判明している範囲で三人もいらっしゃいます」
たしかに現状のコノハは山田さんが思っているような状態に近いだろうと俺も思う。
木之花咲耶姫本来の力の内で『四番目のミニ世界樹』の容量に入る分の力しか『コノハ』には備わっていないからだ。
しかし山田さんにそこまで心配されても能天気でいつもと変わらない自信満々なコノハの顔を見るかぎり何も問題はなさそうに思えるのだけれど。
「コノハちゃん……」
ミユも心配そうな顔でコノハの横顔を見つめている。
どうやらミユもまだコノハの正体については知らないみたいだ。
コノハの正体が自分の『母親』とは流石にわからなくても仕方ないか。
「安心するがよいのじゃヤマダ、そしてお姉ちゃんよ」
コノハが二人の顔を自信満々な顔で見渡すと
「見るが良いのじゃ! ワレの真の力を!」
なんだか中二病なセリフを吐きながら徐々に天井の方へ向けて上がっていく。
なにこれ演出?
とは言っても建物の中なのでそこまで高さがあるわけではないので三メートルも飛び上がればそこで終わりである。
「むう……これでは神々しさが出せぬのじゃ」
何やら小声でブツブツ言っているが聞こえているぞ。
「仕方ないので妥協するのじゃ」
妥協するのか。
俺が覚めた目で見上げている事にコノハは気が付かないまま一つ大きく深呼吸をした後、大きく両手を広げて彼女は叫ぶ。
「刮目して見よ! これがワシの真の力なのじゃーーー!!」
「「「おおっ」」」
コノハの叫びに集会場に集まった人々から声が上がる。
これは光る! 絶対に光る!
俺の中の中二な心がそう訴えている。
集会場の中の人達が固唾を呑んで見守る中コノハの体がまばゆい光に包まれ……なかった。
その状態のまま変化もなく空中に静止しているコノハを見つめる。
先程まで「何が起こるんだろう」と注目していた人達も、上を見上げるのが辛くなってきたのか首を手で揉み始めてしまっている。
どうするんだこの空気。
なんだかいたたまれない。
そこから更に五分ほど経っただろうか。
コノハの目が突然カッと開かれたかと思うと、その体が申し訳程度に光った。
ああ、タイミングって大事なんだな。
里の人達も既に何人かはコノハを見上げるのに疲れて目線をおろしていたせいでその『演出』を見ていなかったし。
あと地味。凄く地味。
たしかに光ったけどさ、光ったけどさぁ。
もっとこうピカーッって光るもんじゃないの?
俺と周りの人たちが心底微妙な表情を浮かべていると、そのことに全く気が付かないままコノハが口を開いた。
「スペフィシュの守り神、木之花咲耶姫ちゃん只今降っ!臨っ!」
スチャッとVサインを横にして顔の前に出し、片目を瞑るという何処かで見たようなポーズでその自称守り神は現れたのであった。
「キラッ☆彡」
イラッ。
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